2025年版 中小企業白書の概要
円安・物価高の継続、「金利のある世界」の到来による生産・投資コスト増、構造的な人手不足など、中小企業・小規模事業者が直面する状況は依然として厳しい。一方で、地域経済・日本経済全体の成長の観点から、雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者への期待は大きい。激変する環境において、経営課題を乗り越え成長を遂げるためには、自社の現状を把握して適切な対策を打つ経営力が求められる。
第1部 令和6年度(2024年度)の中小企業の動向
- 令和6年度は円安・物価高が継続し、30年ぶりに「金利のある世界」が到来した。輸出より輸入比率が高く、借入金依存度も高い中小企業にとっては、これらは利益下押しのリスクとなり得るため、中小企業・小規模事業者が直面する状況は依然として厳しい。
- また、2024年の春季労使交渉では、約30年ぶりの賃上げ率を達成するも、大企業との差は拡大した。中小企業の労働分配率は既に8割近く、更なる賃上げ余力も厳しい状況である。一方で、人手不足は依然として深刻な状況にあるため、人材確保のために業績改善を伴わない賃上げも増えている。
- こうした状況を踏まえれば、コストカット戦略は限界を迎えている。物価、金利、人件費の上昇と、構造的な人手不足に直面する今こそ、積極的な設備投資・デジタル化と、適切な価格設定・価格転嫁の推進により、付加価値や労働生産性を高める経営に転換していくことが必要である。
第2部 新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略
- 中小企業がこうした課題を乗り越え、成長を遂げるに当たっては、経営者の「経営力」の向上が重要である。本書では、「経営力」について、個人特性面(他の経営者との交流、学び直しに取り組む経営者の成長意欲)、戦略策定面(経営計画の策定・実行、差別化や市場環境を意識した適切な価格設定等)、組織人材面(経営理念や業績等の共有を重視するオープンな経営や従業員を大切にする人材経営)の観点から分析を行い、経営力の向上が業績向上や人材確保に向けて重要であることを示した。
- その上で、中小企業が成長を遂げるには、売上高規模ごとに異なる「成長の壁」の打破が必要となる。成長の加速段階では、経営者にないスキルを持つ補完型人材の確保や、経営者の職務権限分散による一人経営体制の克服等が重要と考えられ、売上高100億円以上では、拡大する組織を経営者と共に支える経営人材やDX人材の確保等が重要と考えられる。さらに、企業規模拡大には、積極的なM&Aやイノベーション、海外展開の推進が有効な手段であることを示した。