第4節 まとめ

本章では、賃上げ等により人材を確保し、投資を積極的に進めながら、地域経済を先導するような企業、輸出等の外需を獲得する企業に成長することが我が国経済・地域経済のより一層の発展につながっていくとの考えに基づき、中小企業がスケールアップを実現するための課題や、それを乗り越えるための経営戦略・投資行動等について分析した。

第1節では、中小企業がスケールアップを実現することで、賃上げ、域内経済への貢献、外需の獲得という三つの観点において、我が国経済の成長に寄与している可能性を確認した。

第2節では、「成長の壁」とその打開策について分析を行った。スケールが小さい事業者においては、人材育成の取組により、経営者に不足するスキルを補う人材の確保を進めることが重要である。一方、スケールが大きい事業者はガバナンスの強化を課題として捉えており、取締役会の設置や社外取締役の登用といった体制面の整備を進めることに加え、従業員への経営理念・ビジョンの共有といった経営の透明性を高めるための取組が打開策となる可能性を確認した。

第3節では、スケールアップを実現するための手段として、設備投資、M&A、研究開発・イノベーション活動といった投資行動と海外展開に焦点を当て、その実施状況や効果等について分析した。

設備投資については、拠点の増設といった、生産・販売能力の強化を目的に据えた投資がスケールアップにつながっている可能性を確認した。

M&Aは、売上高を高めるだけでなく、経営資源の共有等によるシナジー効果の発揮により、経常利益も高める可能性を確認した。一方で、M&Aを成功させてシナジー効果を発揮するためには、買収先との関係構築といったPMIが重要であり、特に買収先の働き手との相互理解や雇用保証など、働き手のエンゲージメントを高めていくことが重要である。

研究開発・イノベーション活動については、必要に応じて支援機関や大学等の外部機関と連携しながら、イノベーション活動に取り組むことが、スケールアップにつながっている可能性を示した。また、イノベーション活動による知的財産形成を進めると同時に、それらを守る取組として、知的財産保護の取組も同時に進めていく必要がある。

海外展開については、継続的な直接輸出、海外直接投資のいずれも、スケールアップにつながる可能性を確認した。特に、輸出については、比較的スケールが小さい企業ほど売上高増加につながっており、早い段階から輸出に取り組むことでスケールアップにつながる可能性がある。ただし、海外展開は、国際情勢や為替相場の変動など、国内での投資と比べて不確定な要素が多く、実施に当たっては、より慎重な判断が求められることに留意が必要である。

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