第3節 雇用環境・労働移動
本節では、中小企業・小規模事業者の雇用環境・労働移動について確認する。
第1-1-21図は、アンケート調査41で中小企業・小規模事業者が最も重視する経営課題を確認したものである。これを見ると、「中規模企業」、「小規模事業者」共に「人材確保」と回答する割合が最も高く、人材不足への対応は企業規模にかかわらず中小企業・小規模事業者の共通課題といえる。また、「中規模企業」では「省力化・生産性向上」、「小規模事業者」では「事業承継(後継者不在を含む)」の回答割合が「人材確保」に次いで高く、こうした面にも人材不足への課題感が表れていると推察される。
41 (株)帝国データバンク「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」:(株)帝国データバンクが2024年11月から12月にかけて、以下の事業者を対象に実施したWebアンケート調査。
・全国75,000者の事業者【有効回答数:17,848者、回収率23.8%】
※調査を進める中で判明した大企業170社を除いた中小企業・小規模事業者17,678者について分析を行った。
・商工会及び商工会議所の会員である小規模事業者【有効回答数:6,910者】
なお、中小企業とは、中小企業基本法第2条第1項の規定に基づく「中小企業者」をいう。また、小規模事業者とは、同法同条第5項の規定に基づく「小規模企業者」をいう。さらに、中規模企業とは「小規模企業者」以外の「中小企業者」をいう。
第1-1-22図は、景況調査を用いて、企業規模別に従業員数過不足DIの推移を見たものである。中小企業・小規模事業者の人材不足は依然として深刻であり、企業規模別に見ると「中規模企業」の不足感が特に強いことが分かる。
また、業種別に見ると「建設業」において特に不足感が強いことが分かる(第1-1-23図)。
第1-1-24図は、総務省「労働力調査(基本集計)」を用いて、完全失業率・完全失業者数・就業者数の推移を見たものである。「完全失業率」は、2002年をピークに、リーマン・ショック以降の2009年及び感染症の感染が拡大した2020年の上昇を除いて長期的には低下傾向にある。「就業者数」については、2020年に僅かに減少したものの、足下では増加傾向にある。
第1-1-25図は、厚生労働省「職業安定業務統計」を用いて、有効求人倍率、有効求職者数及び有効求人数の推移を見たものである。これを見ると、足下では「有効求人倍率」、「有効求職者数」及び「有効求人数」のいずれもおおむね横ばいであることが分かる。
ここからは、雇用者数の増減の推移について確認する。
まず、雇用者数の増減の推移を見ると、2024年の「合計」は前年比で増加している。産業別に見ると「情報通信業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「医療,福祉」の増加幅が大きく、「製造業」の減少幅が大きいことが分かる(第1-1-26図)。
次に、年齢階級・性・雇用形態別に、雇用者数の増減の推移(前年比)を見ると、「15~64歳・女性・正規」については2015年以降一貫して増加していることが分かる。また、「15~64歳・男性・正規」については、2024年で増加に転じた(第1-1-27図)。
また、従業員規模別に雇用者数の増減の推移(前年比)を見ると、「合計」は増加傾向にあり、中でも、「500人以上」及び「100~499人」の従業員規模が比較的大きい事業者における増加数が大きい。「1~4人」、「5~9人」では2024年で増加に転じた一方、「10~29人」の事業者では減少が続いた(第1-1-28図)。
ここまで確認してきたような雇用者数の増減について、労働移動という観点から、どのような産業間で動きが活発であるのかを確認する。
第1-1-29図は、中小企業における産業間の労働移動の状況を見たものである。これを見ると、特に労働移動が活発である産業は、「宿泊業,飲食サービス業」、「製造業」、「建設業」、「サービス業(他に分類されないもの)」であり、いずれも同産業間での労働移動が多いことが分かる。
第1-1-30図は、第1-1-29図で確認した中小企業における産業間の労働移動について、現職の産業別に、前職の産業の割合を見たものである。これを見ると、いずれの産業も同産業間での労働移動の割合が最も高いことが分かる。一方で、「卸売業,小売業」、「生活関連サービス業,娯楽業」、「サービス業(他に分類されないもの)」は、他の産業と比べ、同産業間での労働移動の割合が低く、異なる産業から労働者が参入している傾向がうかがえる。