2024年版「小規模企業白書」 第2節 生産性向上に向けた省力化投資 | 中小企業庁

第2節 生産性向上に向けた省力化投資

前節では、中小企業・小規模事業者における賃金及び賃上げの現況を確認した。人手不足への対応策としては、こうした採用等の人材確保に加えて、生産性向上に向けた省力化投資も必要である。本節では、省力化投資の取組と効果を見ていく。

第1-3-9参考3図(再掲)は、厚生労働省「労働経済動向調査」を用いて確認したものであるが、人手不足対応の取組として、多くの企業で「採用・正社員登用」が行われている一方、省力化投資を行っている企業は比較的少数で、中小企業における省力化投資への取組は拡大の余地が大きいといえる。

第1-3-9参考3図 人手不足対応の取組の内訳(企業規模別)

第1-3-19図(再掲)で示したとおり、日本の就業者数は、推計値ベースで減少していくことが想定され、労働供給が成長に向けた制約となると見込まれることから、一人当たり名目GDP成長率を高めるためには、生産性を向上させる必要があると考えられる。

中小企業・小規模事業者においても、少子高齢化等により労働力人口の将来的な供給制約が見込まれる中で、潜在成長率を高めることや、省力化投資により生産性を向上させることといった、人手不足対応は不可欠であると考えられる。

第1-3-19図 就業者数の減少と国際競争に必要な生産性向上の試算

第1-3-20図(再掲)は、OECD加盟国の労働生産性を見たものである。これを見ると、日本はOECD加盟国平均よりも、労働生産性が低くなっている。以上の結果から、先の第1-3-19図で示したような労働供給制約や、第1-3-17図で示したような規模間格差を前提とすると、国際競争に必要な水準まで経済成長を進めるためには、中小企業の労働生産性を高めていく必要性がより一層高まっていることが示唆される。

第1-3-20図 OECD加盟国の労働生産性(2022年)

深刻化する人手不足の課題に対応するための設備投資、いわゆる省力化投資に取り組むことは、生産性を向上させて、持続的な賃上げの原資を確保することに向けても重要な課題となっている。第1-4-8図は、「中小企業が直面する外部環境の変化に関する調査」61を用いて、人手不足対応を目的とした省力化投資の有無別に、賃上げの実施状況を見たものである。これを見ると、省力化投資に取り組んでいる企業ほど賃上げを実施している割合が高いことが分かる。本調査から一概にはいえないものの、省力化投資に取り組むことは、人手不足の課題を解決するだけでなく、企業の生産性を向上させ、持続的な賃上げを実現することにもつながっていることが示唆される。

61 本アンケートの詳細は、第1部第2章第3節を参照。

第1-4-8図 賃上げの実施状況(省力化投資の実施状況別)

事例1-4-1では、人手不足の対策としての省力化投資に取り組むことで、賃上げを同時に実現した企業の事例として、株式会社森清化工を紹介する。また、コラム1-4-2では、中小企業の省力化投資に向けて経済産業省が実施している支援策を紹介する。

事例1-4-1:株式会社森清化工

積極的な設備投資で省力化を図り、人材確保と持続的な賃上げを実現した企業

所在地  東京都墨田区

従業員数 150名

資本金  5,000万円

事業内容 ゴム製品製造業

「高品質、品揃え、即納」を経営方針に、積極的な設備投資を継続

東京都墨田区の株式会社森清化工は、機械や配管で流体(気体や液体)を密封するために使用される環状のゴム製部品「Oリング」を専業で製造する企業である。東京都と千葉県匝瑳市に工場を置き、汎用素材の量産品から高機能・特殊素材製品まで、10万種以上の多品種のOリングを生産、「高品質、品揃え、即納」を経営方針に、幅広い業種・規模の顧客企業に供給している。製造技術者を中心に人手不足が深刻化する中、同社の毛利栄希社長は、製造現場と販売管理の両面において積極的な設備投資を続けることで、業務の標準化や自動化を進めて生産性の向上を図るとともに、勤務形態の多様化や賃上げを行うことで、働きやすい職場環境づくりに取り組んできた。

省力化により付加価値の向上と業務負荷の軽減を実現、勤務形態別に業務を細分化して人材を確保

製造工程での設備投資で重点を置いたのが自動検査装置の導入だ。同社は、年間約2億個ものOリングを生産しており、その品質保持のために全数検査を実施している。検査には熟練した技術や経験が必要となるが、人だけに頼る検査体制では処理能力に限界があることから、自動検査装置に製品検査工程の6割をカバーさせる省力化を通じて品質の安定化を図り、製品の付加価値を向上させるとともに、人手不足による生産制約を解消した。さらに、EDI(電子データ交換)を活用した販売管理システムの構築にも投資を行った。納期や製品在庫の管理、見積りや請求・納品書の作成といった煩雑な業務をEDIシステムで簡素化・標準化することで、属人化しやすい作業を誰もが短時間で完遂できる環境を整えた。こうした積極的な設備投資による業務負荷軽減の取組と合わせて、人材確保の方策として、営業、総務、製造の部門ごとに、フルタイムやフレックス、特定時間帯といった勤務形態別の業務の細分化を行い、営業部門などを中心に、なるべく女性が働きやすい業務を増やしていった。その結果、現在では全社員の過半数を女性が占め、営業センターでは約7割に上っている。

EDI活用で顧客に利便性を提供、付加価値向上の効果は社員への継続的な賃上げで還元

同社では独自の経営手法として、EDIシステムに蓄積される膨大な販売データを活用し、顧客ニーズが高いOリングの品種の把握や、製品ごとの在庫水準の評価を定期的に行った上で、一定の在庫をあえて抱える「計画生産」を実施している。これにより、必要な部品を小ロットでも低価格、短納期で顧客に届けられる。こうした他社に代替できない利便性を提供することで、「自社のブランディングを高めて、高収益が維持できている」(毛利社長)という。自動検査装置の導入に伴う付加価値向上の効果は、継続的な賃上げを通じて社員に還元しているほか、毎年の賞与は、夏冬のほかに決算賞与を合わせた年間計3回を支給し、社員の意欲向上や人材定着にいかしている。今後は、地政学リスクの高まりに対する顧客企業の動きに関心を向けており、「顧客ニーズに共通しているのは海外依存からの脱却。少しずつだが国内生産・開発拠点の強化が進んでおり、当社の強みをいかして多くのニーズに応えられるよう努力したい」と毛利社長は語る。

毛利栄希社長、本社・営業センター、多品種のOリング

コラム1-4-2:中小企業の省力化投資に向けた支援

中小企業等は、新型コロナウイルス感染症の5類移行や供給制約の緩和を受けて事業活動を活発化している一方、人手不足の課題に直面している。2023年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~」では、企業の賃上げ及び人手不足解消のための支援を行うこととされた。この方針の下、経済産業省では、中小企業等における省力化投資の促進に取り組んでいく。

中小企業等における省力化投資を促すため、企業の「どこから手をつけてよいか分からない」といった声も踏まえ、IoT、ロボット等の汎用製品をカタログから選ぶような、簡易で即効性のある支援を行っていく。中小企業等が人手不足を乗り越え、売上げ・収益を拡大できる環境を整備するとともに、生産性向上、設備投資等の意欲的な挑戦を後押しし、持続的な賃上げの実現を図る。

コラム1-4-2〔1〕図 省力化投資のイメージ

<<前の項目に戻る | 目次 | 次の項目に進む>>

TOPへ