第5節 まとめ
第2章では、2023年5月の感染症の5類移行を受けて、2020年以降の感染症の日本経済や中小企業・小規模事業者への影響について、総括的に分析を行った。
2020年は、諸外国でのロックダウン実施、国内でも初の緊急事態宣言が発出されて以降、工場の稼働停止等に伴うサプライチェーンの切断などにより生産活動が停滞、外出自粛により消費活動が抑制されたことで、需要・供給双方に対して深刻な影響を及ぼした。緊急事態宣言解除後の第3四半期には、ゼロコロナ政策を受けて、アメリカ、EUよりも先行的に生産再開をした中国からの外需拡大や、テレワークやオンライン会議等のためのパソコン需要、外出抑制下でのテレビ、エアコン等の耐久財需要等を受けて、国内生産は回復を見せた。一方で、国内消費は感染拡大前の水準に戻らず、経済社会活動の抑制が長期化していた。中小企業・小規模事業者において、感染症の影響で売上高減少や収益悪化が深刻となったことから、政府は資金繰り支援などの流動性確保や、給付金の施策を実施し、事業維持に向けた対策を強化した。また、2020年7月以降に実施された「Go Toトラベル事業」、2020年10月以降に実施された「Go To イート事業」など、政府の消費喚起策を感染収束期において実施したことにより、第3四半期、第4四半期ではサービス消費が一時的に回復した。しかし、新規感染者数が増加したことで、これらの施策は停止されることになった。
2021年は、第1四半期において、生産活動が回復し、外需回復を受けてアジア向けを中心に輸出が増加した一方、国内では再度発出された緊急事態宣言の影響により個人消費が再び低下した。第2四半期においても、輸出が増加したものの、米国や欧州を中心としたワクチン購入などが本格化し、輸入も増加。国内では、4月からの緊急事態宣言発出の一方、長引く自粛の下での消費意欲回復も見られ、消費については一進一退の動きが続いていた。第3四半期には、緊急事態宣言の再発出・延長で消費が落ち込んだとともに、海外経済の回復鈍化等を背景に、東南アジアでの感染拡大による部品供給不足などの供給制約が影響して生産も落ち込み、自動車を始めとする財輸出の減少にもつながった。これ以降、10月には全都道府県で緊急事態宣言が解除され、経済社会活動に一定程度、回復の兆しが見られた。こうした状況の中で、政府は危機対応のための資金繰り支援等の施策を継続する一方で、中小企業・小規模事業者が新たな需要に対応するための事業再構築の取組を支援する施策等を実行した。
2022年は、2月より生じたロシアによるウクライナ侵略、3月から5月にかけての中国のロックダウンや、半導体等の部品不足といった供給制約が生産の低下を一時的に引き起こしたが、総じて経済は回復傾向にあった。諸外国と比べて入国規制の緩和を段階的に行ったことから、サービス輸出は低調であったものの、感染拡大によるデジタル関連財の需要から財輸出は増加した。個人消費も、オミクロン株など感染力の強い変異株の流行により、新規陽性者数は増加したものの、感染症と経済社会活動との両立を目指す「ウィズコロナ」の下で回復傾向にあった。こうした状況の中で、政府は「中小企業活性化パッケージ」を策定し、資金繰り支援の継続のほか、債務が増大した中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを促す総合的な支援を通じ、「アフターコロナ」を見据えた施策を展開した。
さらに本章では、感染拡大により激変する外部環境に対応するべく、中小企業・小規模事業者が、政府の様々な施策を活用して従業者の雇用を維持し、生き残りを模索したことを明らかにした。まず、テレワークの普及による働き方の変化、ECの活用といったデジタルツールの活用など、デジタル化等の新たな変化に適応していった中小企業・小規模事業者も見られたことが分かった。加えて、感染症の影響によって生じた新たな需要を捉えるため、新規の商品・サービス開発などに取り組んだ側面も明らかになった。
中小企業・小規模事業者向けの各種施策の効果については、雇用調整助成金や企業の努力によって、失業率が比較的低い水準で抑えられたことや、資金繰り支援や補助金等の様々な政府施策によって、中小企業・小規模事業者の事業継続が図られたことにより、倒産や休廃業が抑制されたことも確認した。