トップページ 白書・統計情報 小規模企業白書 2022年版 小規模企業白書(HTML版) 第2部 新たな時代へ向けた事業の見直しと地域内連携 第3章 共通基盤としての取引適正化とデジタル化、経営力再構築伴走支援 第3節 経営力再構築伴走支援などの中小企業に対する支援の在り方

第3節 経営力再構築伴走支援などの中小企業に対する支援の在り方

中小企業、小規模事業者が昨今置かれている状況は、大企業によるサプライチェーンの見直し、事業環境に影響を与えるような様々な制度改正、世界的な脱炭素・カーボンニュートラルやデジタル・トランスフォーメーション(DX)への動き、急速に進む人口減少、自然災害の頻発や新型コロナウイルスの感染拡大など、経営環境が激変する中で、厳しい状況にある。

こうした経営環境が変化し、先を見通すことが困難な時代においては、しっかりと経営課題を見極め、進むべき道を描いていくことが必要であり、第三者である中小企業支援機関や支援者が経営者に寄り添ってこの難しい課題に取り組むことが求められている。

中小企業、小規模事業者に寄り添って支援を行うことは、中小企業、小規模事業者の潜在力の発揮、政策の有効活用、ひいては日本経済の成長、発展にとって重要であり、これを担う中小企業支援機関、支援者は、大きな社会的役割を担っているといえる。本節では、ポストコロナ時代における中小企業支援の在り方について、見ていく。

1.支援機関によるサポートの現状と事業者の自己変革に向けた課題

ここでは、自社が取り組むべき課題を設定する前提となる、自社を取り巻く事業環境の把握状況について、外部の支援機関などによるサポートの有無別に確認していく。

〔1〕自社の事業環境の把握状況

ここでは、(株)東京商工リサーチが「令和3年度中小企業実態調査委託費(中小企業の経営戦略及びデジタル化の動向に関する調査研究)」において実施した、中小企業・小規模事業者を対象としたアンケート「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」8を基に確認していく。第2-3-26図は、過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に、マクロ環境に関わる情報収集・分析状況について見たものである。これを見ると、社外の支援機関などから助言を受けたことがある企業の方が、いずれの項目においても情報収集・分析を行っていると回答した割合が高いことが分かる。

8 (株)東京商工リサーチ「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」:(株)東京商工リサーチが2021年11~12月にかけて、中小企業・小規模事業者20,000社を対象にアンケート調査を実施(回収5,318社、回収率26.6%)したものである。

第2-3-26図 過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に見た、マクロ環境に関する情報収集・分析状況

第2-3-27図は、過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に、市場環境に関する情報収集・分析状況について見たものである。外部の支援機関などから助言を受けたことがある企業の方が、いずれの項目についても情報収集・分析を行っていると回答した割合が高いことが分かる。

第2-3-27図 過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に見た、市場環境に関する情報収集・分析状況

また、第2-3-28図は、過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に、競合他社の情報収集・分析状況について見たものである。外部の支援機関などから助言を受けたことがある企業の方が、いずれの項目についても情報収集・分析を行っている割合が高いことが分かる。

第2-3-28図 過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に見た、競合他社の情報収集・分析状況

最後に、第2-3-29図は、過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に、自社の内部環境に関する情報収集・分析状況について見たものである。外部の支援機関などから助言を受けたことがある企業の方が、いずれの項目についても情報収集・分析を行っている割合が高いことが分かる。

第2-3-29図 過去5年間での社外の相談相手からの助言の有無別に見た、内部環境分析に関する情報収集・分析状況

ここまで見てきたように、支援機関などの社外からの助言を得ている企業の方が、自社を取り巻く事業環境を把握及び分析している傾向にあることが分かった。経営資源の限られる中小企業においては、経営課題の把握の前提となる、自社を取り巻く事業環境の分析のために、外部の支援機関などを活用することも重要といえよう。

〔2〕事業者の自己変革に向けた取組

ここからは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が実施した「中小企業支援機関における中小企業・小規模事業者支援の実態把握に関するアンケート」9を基に確認していく。第2-3-30図は、支援機関から見た、中小企業が自己変革を進める上で重要な取組について確認したものである。これを見ると、「経営課題の解決に向けた具体的な行動計画の策定」、「経営課題の把握」が重要であると回答した支援機関の割合が高いことが分かる。

9 詳細は第2部第1章第2節を参照。

第2-3-30図 支援機関から見た、中小企業が自己変革を進める上で重要な取組

〔3〕支援機関による支援の現状

続いて、支援機関による支援対象事業者への支援の現状について確認していく。第2-3-31図は、支援機関別に、支援対象事業者との面談頻度について見たものである。これを見ると、面談頻度が月に1回程度とする支援機関が多い傾向にあることが分かる。

第2-3-31図 支援機関別に見た、支援対象事業者との面談頻度

第2-3-32図は、支援機関別に、支援対象事業者との面談時間について見たものである。商工会・商工会議所や金融機関では、「30分以上1時間未満」の割合が6割超と最も高く、中小企業診断士やその他支援事業者では、「1時間以上2時間未満」が最も高い。

第2-3-32図 支援機関別に見た、支援対象事業者との面談時間

さらに、第2-3-33図は、面談頻度別に、支援対象事業者との面談時間について見たものである。いずれの面談頻度においても1回の面談時間は「30分以上1時間未満」が最も多くなっている。

第2-3-33図 支援対象事業者との面談頻度別に見た、面談時間

最後に、第2-3-34図は支援機関別に、支援対象事業者との対話状況について見たものである。これを見ると、金融機関においては、課題の把握に対話時間を費やす割合が高い一方、金融機関以外の支援機関においては課題解決のためのアドバイスに対話時間を費やす割合が高くなっている。全体としては課題解決、課題把握の双方に、対話時間が費やされていることが分かる。

第2-3-34図 支援機関別に見た、支援対象事業者との対話状況

2.今後の支援の在り方~経営力再構築伴走支援モデル~

〔1〕中小企業が迫られるビジネスモデルの革新

経営環境が不可逆的に変化する中にあって、大企業であっても、従来のビジネスモデルから脱却し、新たなバリューチェーンの構築、ビジネスモデルの組み換え、経営資源の大胆な再配分が必要となっている。その影響は、グローバル展開による成長を目指すグローバル型中小企業、独自技術によるスケールアップを狙うサプライチェーン型中小企業にも確実に及ぶ状況となっており、自社の技術力、製品の質、開発力、提案力などを基に、常に新しい販路を開拓する姿勢が必要となってくる(第2-3-35図)。

第2-3-35図 今後適応が必要な産業構造及び経営構造

このように、不確実性の高い時代は、戦後復興期と異なり、唯一の正解は存在せず、こうすればうまくいくという必勝の方程式(ビジネスモデル)は、見出すことが困難となっている。様々な着想(アイデア)、基盤(シーズ)技術、人的つながり(ネットワーク)、売り方・買い方(マーケティング)等の経営資源のどこに成功の原石が埋もれているのか分からない状況にあっては、数多くの挑戦と苦難を積み重ねること、失敗したとしても再チャレンジすることが、新たな時代の未来を切り拓き、成長を実現することにつながるといえる。

〔2〕経営者に求められる「自己変革力」

これまでの新型コロナウイルス感染症流行下の2年間、緊急的な中小企業支援として、持続化給付金、一時支援金・月次支援金、事業復活支援金、実質無利子・無担保融資等の資金繰り支援、事業再構築補助金等の支援策が実施されてきた。

今後、ポストコロナ時代を迎えるに当たって、中小企業、小規模事業者においても「経営力そのもの」が大きく問われることになる。経営者自らが、環境変化を踏まえて経営課題を冷静に見極め、迅速果敢に対応・挑戦する「自己変革力」が求められている。

グローバル展開による成長を目指すグローバル型中小企業、独自技術によるスケールアップを狙うサプライチェーン型中小企業、さらには、地域資源を活かした事業で持続的発展を目指す地域資源型中小企業、地域に密着したサービスの維持・発展を目指す地域コミュニティ型中小企業、いずれの企業経営においても、大きな経営上の課題が出てきている時代にあり、まさに「経営力そのもの」の向上、「自己変革力」を身に付けることが求められている。

〔3〕中小企業・小規模事業者に対する第三者の支援の必要性

経営環境の変化が激しく、不確実性が高い時代において、経営改善を目指す場合であっても、成長を追求する場合であっても、中小企業、小規模事業者が有する限られた経営資源に鑑みれば、これを経営者が独力で行うことは難しい。そこで、第三者による支援が重要となってくる。

経営者、その支援者が取るべき基本的なプロセスは、「経営課題の設定→課題解決策の検討→実行→検証」であり、第2-3-36図のように、課題設定を「入り口」として課題解決を「出口」とするものである。

第2-3-36図 経営支援における基本的なプロセス

しかしながら、このプロセスは必ずしも一方向に流れるものではなく、課題解決策の検討の過程で課題設定に戻ったり、実行の過程で解決策の再検討を行ったりというように、行ったり来たりすることが多い。

〔4〕経営課題の設定に対する支援の重要性

これまで国や地方自治体は、中小企業、小規模事業者が直面する経営課題を解決するために利用できる様々な施策ツールを提供することに力を注いできたが、これは同時に、課題解決策の検討、実行プロセスにおける支援が広く行われてきたともいえる。その一環で補助金申請サポートのような伴走支援も行われてきた。

従来型の大量生産モデルに基づく産業構造の下で、中小企業、小規模事業者における経営課題がある程度共通していた時代においては、経営課題がどこにあるのかを見極めるプロセスをしっかり行わなくとも、課題解決策が大きく外れることがなかったため、こうした支援が比較的有効に機能してきた。

他方、経営環境の変化が激しく、複雑さを増した時代においては、企業の直面する課題は様々であり、効果的に経営課題を解決するためには、そもそも経営課題が何であるのかということについての正確な分析から入らなければならない。また、課題解決に取り組んでいる中で、別の経営課題に直面し、その課題分析を行った上でなければ効果的な経営改善に至らないといったケースも多々ある。

したがって、今日では、課題設定プロセスについて、課題解決策の検討プロセス等と同様、あるいはそれ以上にしっかりと支援することが求められる。その際、経営者本人にとっての「本質的経営課題」にまで遡って特定、把握することが重要である。

〔5〕経営者の「腹落ち」の必要性

経営環境の変化が激しい時代においては、経営を見直したり、成長を実現したりするために、直面する多くの課題を乗り越えていくことが必要である。その際、経営者には、困難な壁に直面してもやり切る意思、状況に応じて臨機応変に対応できる柔軟性、経営者の独りよがりにならず社全体を巻き込む統率力等が求められる。このように、経営改善や成長に向けた取組は、リーダーシップ研究者R・ハイフェッツ(ハーバード大)の考えに基づけば、既存の解決策が応用できる「技術的課題(Technical Problems)」ではなく、既存の解決策がなく、当事者のマインドセット自体を変える必要がある「適応を要する課題(Adaptive Challenges)」そのものである。このため、当事者である経営者が十分に「腹落ち」(納得)していなければ、その考えや行動を変えることはできず、誰かに言われたことを鵜呑みにするだけでは「腹落ち」には至らない(第2-3-37図)。

第2-3-37図 技術的課題と適応課題の比較

経営者が腹落ちすれば、当事者意識を持って、自ら能動的に行動を起こすようになる。すなわち、「内発的動機づけ」が得られ、困難があっても最後までやり切ることができるようになり、結果として企業・事業者の「潜在的な力」が引き出され、それが最大限発揮される。経営者がこのような状態に達すれば、経営課題の解決に向けて「自走化」できるようになったと評価でき、「自己変革力」を身に付けたといえる(第2-3-38図)。

第2-3-38図 課題「解決」型の伴走支援と、課題「設定」型の伴走支援の比較

他方、経営者が独力で腹落ちに至ることは容易ではない。多くの中小企業、小規模事業者に見られる、自己変革を妨げる典型的な障壁の中には、経営者が自社の課題に「向き合わない」姿勢が問題となっているケース、例えば、過去の成功体験などが「認知バイアス」となり、経営者が現実に向き合えなくなっているような例も少なくない。このような経営者は、経営環境を客観的に認識することができなかったり、複数の選択肢から最適なものを選び取ることが困難であったりするため、第三者である支援者から課題設定プロセスへの支援を受けながら、課題解決に向けた取組に腹落ちしていくのが通例である。また、腹落ちに至った後のフォローも支援者が行うことで「自己変革力」の会得までしっかりとした道筋が描かれたことになる(第2-3-39図)。

第2-3-39図 自己変革への「5つの障壁」と第三者支援の必要性

〔6〕「対話」を重視した支援モデル

経営者が「腹落ち」するための最善の方法は自ら答えにたどり着くことである。しかし、中小企業、小規模事業者の経営者が独力でそこに至ることは現実的には難しい。そのため、まずは第三者(支援者)に経営者自らの頭の中にある想いを伝えて「言語化」することが大事である。支援者は、相手の言葉にしっかりと耳を傾け(傾聴)、共感を示しつつ、適切な問いかけを通じて、相手の想いを整理していき、具体的な形に導いていく。このプロセスを踏むことで、経営者は考えが整理され、自ら答えにたどり着いたと実感することができ、結論に対して「腹落ち」することになる(第2-3-40図)。

第三者からの提案であっても「腹落ち」するためには、信頼できる人からの提案なのだと感じられることが必要である。そのためにも、支援者は経営者との対話を通して信頼感を醸成しなければならない。

第2-3-40図 伴走者との対話を通じた、経営者の自己変革までのプロセス

これまであまりウエイトが置かれてこなかった経営課題の設定プロセスへの支援であるが、これは、他のプロセスへの支援と比べて、経営実態や経営環境についての深い理解と洞察が求められる支援である。この実現のためには、経営者、社員等との対話を重ね、分析するために十分な情報を最大限引き出すことが必要である。ここでも経営者や従業員との間で信頼関係を醸成することが重要である。

〔7〕経営力再構築伴走支援モデルの三要素

事業の成長、持続的発展を目指す中小企業、小規模事業者を支援する際に生じる問題点検型のアプローチの課題を解消するためには、まず目先にある問題の解決を目的に据えるのではなく、経営者の自己変革力、潜在力を引き出し、経営力を強化・再構築することを目的とすべきである。経営力再構築伴走支援を実施するに当たって踏まえるべきは、第2-3-41図に示す三要素である。

第2-3-41図 経営力再構築伴走支援モデルの三要素

経営者の自己変革力を引き出し、経営力を強化する目的を達成するためには、経営者との対話、さらに必要であれば経営幹部、後継者や従業員等とも対話することが必要である。対話する際、相手の話をしっかりと聞き(傾聴)、相手の立場に共感することが重要であり、そのような姿勢によって、相手の信頼感を十分に得ることが支援の前提となる。傾聴によって聴き出した内容をベースとして、さらに問いかけを発することによって、相手の想い、考えを余すところなく言語化してもらうとともに、その問いかけによって相手の頭の中を整理し、出口の具体化を促していくのが「好ましい対話」であるといえる。

また、経営力強化のためには、経営者が取り組むべきことに腹落ち(納得)し、当事者意識を持って、能動的に行動することが必要である。「内発的動機づけ」が適切に行われれば、経営環境に変化が生じた場合であっても、経営者自身が自立的かつ柔軟に経営を正しい方向に導くことができると期待され、企業がその「潜在力」を最大限に発揮されることにつながる。これが「自己変革力」、「自走力」であり、この能力の涵養を意識して支援を行うことが望ましい(第2-3-42図)。

第2-3-42図 経営力再構築伴走支援モデルに重要な「対話」の構成要素と効果

実際の支援に当たっては、例えば、経営の現状分析のためにローカルベンチマークを使う、経営の未来像を描くために経営デザインシートを使うといった、支援に当たっての具体的に有用な手法は多様にあり、これまで慣れ親しんだ手法がそれぞれの支援者にある。それを尊重し、自由に実施することが適当と考えられる。支援対象者やその置かれている局面によって、最適な手法を用いることが重要である。

〔8〕経営難に直面している中小企業、小規模事業者に対する支援のあり方

債務の過剰感があり、経営が厳しい中小企業、小規模事業者にとっては、目先の債務をどう返済するかが中心的な経営課題であり(第2-3-43図)、時間をかけて経営者の腹落ちを促したり、緻密な課題設定支援を行ったりしている余裕はない場合が多い。

第2-3-43図 借入金の過剰感

こうした企業、事業者に必要な支援は、返済原資を得るための速やかな収益力改善支援、事業再生支援、場合によっては廃業を促し、円滑な廃業を支援しつつ、経営者の再チャレンジを促すことである。必要に応じて、経営者が嫌がるようなことをあえて迫る厳しい姿勢も重要となる。また、目先の危機を乗り越えるため、資金繰り支援等の課題解決支援策をまずは早急に利用するような割り切りも必要である。

したがって、経営者の腹落ちを促すことで企業の潜在力を引き出すこと、経営課題の設定への支援に力点を置く「経営力再構築伴走支援モデル」は、経営が危機に陥っていて、対策を講ずることが待ったなしの状況にある企業、事業者に向くモデルではなく、比較的健全に経営が行われていて、事業の成長、持続的発展を目指している企業、事業者や経営改善が必要ではあるが一定の時間をかける余裕がある段階にある企業、事業者を対象とすることが適当なモデルといえる。

〔9〕経営力再構築伴走支援モデルによる伴走支援の意義・可能性

課題設定と経営者の腹落ちに重きを置く「経営力再構築伴走支援モデル」について、大きく二つの意義・可能性があると考えられる。

一つ目は、中小企業政策の浸透力強化や裾野拡大である。これまで、中小企業、小規模事業者の様々な課題について予算、税等の課題解決ツールの施策が展開されてきたが、これを活用して実際にその課題を乗り越えて成果を出すまでには、更に経営上の様々なボトルネックがあることが多かった。経営力再構築伴走支援モデルは、経営者の課題設定力を高め、経営者や従業員の腹落ちによる潜在力を引き出すものであり、こうした経営上のボトルネックを乗り越え、中小企業、小規模事業者の成長力を一層高め、円滑な事業承継を促し、停滞している経営改善を後押しするといった実際の行動や成果に結びつく可能性を高めるものと考えられる。これは、予算の有効活用という観点からも重要である。

また、課題解決のための施策ツールに力点を置いた支援は、情報感度の高い一部の事業者にしか施策が届かない側面もあったのではないかと考えられる。経営力再構築伴走支援モデルにおいて、経営課題の設定プロセスにも力点を置くことにより、課題設定支援を通じて、これまで中小企業支援施策を利用する発想がなかった事業者にも施策を届けることが可能となり得る。

さらには、経営力再構築支援によって、より多くの中小企業・小規模事業者が「自己変革力・経営力」を身に付けることにより、国や自治体の提供する補助金等に頼らずとも、自ら成長や持続的発展を実現できることが期待される。

二つ目は、「新しい資本主義」に必要な「人への投資」の実現という意義・可能性である。中小企業、小規模事業者が自己変革力を発揮することで、付加価値を生み出す力が高まれば、賃上げや人材投資といった人的資本への投資余力を生み出す可能性が増すことになる。

また、全国で経営力再構築伴走支援を実施できるよう、支援人材の質的向上を図ることができれば、伴走支援を実施する者を通じて、中小企業の経営者、個人事業主、従業員という「人」の潜在力を引き出すことができる。このことは、間接的に「人」の能力を涵養するという意味において、広義の「人への投資」ともいえる。これにより、中間層を構成する多くの中小企業、小規模事業者が「経営力再構築伴走支援モデル」の開発・普及を通じてその潜在力を発揮することができれば、大企業と中小企業、小規模事業者の共存共栄、人口減少に打ち勝つ地域経済社会の創出等により、日本ならではの「新しい資本主義」を実現する可能性を高めることにつながる。