第4節 まとめ
本章では、共通基盤としての取引適正化とデジタル化、経営力再構築伴走支援について分析してきた。
第1節では、取引適正化と企業間取引について確認した。4割程度の受注側事業者において、2020年と比べると受注量が減少している一方で、増加している企業も3割程度存在しており受注が回復傾向にある企業も一定数存在することが確認された。一方で、原材料価格やエネルギーコストなどのコスト変動に対する価格転嫁が、依然として企業間取引における課題となっている様子が確認された。適正な価格転嫁に向けては、受注側事業者が取引における交渉力を高めるとともに、発注側事業者においては、受注側事業者が価格交渉をしやすい環境を提供するなどの取組を実施することが期待される。
第2節では、感染症流行直後から中小企業におけるデジタル化の機運が高まっており、感染症収束後を見据えた際にも、業種を問わず総じて高まる傾向が確認された。また、デジタル化の取組状況を4段階に分けると、感染症流行下でデジタル化の取組を発展させた企業が一定数見られることも分かった。IT投資に対する姿勢については企業間で差が見られ、金額の多寡にかかわらず、自社の状況に応じてIT投資を実施していく重要性を指摘した。他方で、デジタル化に取り組む際の課題として、適切な費用対効果の測定に悩む企業が多いことも確認された。業務効率化を先ずは重視した上で、定量・定性の両面から効果を適切に把握することが重要であると考えられる。最後にITツール・システムの導入状況としては、コミュニケーションやバックオフィス分野の導入が進むものの、セールスやサプライチェーン分野の導入は一部にとどまることも分かった。セールスやサプライチェーン分野のITツール・システムを導入する企業は、顧客との関係構築・強化に資する効果や商品・サービスの高付加価値化を実感する割合も高くなっており、今後導入が拡大していくことが期待される。また、中小企業のデータ・情報資産の管理状況や利活用の実態についても確認した。データベース化ができている企業は一定数存在する一方で、紙媒体での管理がされている企業の割合も高いことが確認された。電子化ができない・データベース化ができない要因としては、ITに関して知識や経験のある人材が在籍していないことや、そのような人材との接触の機会が少ないことが考えられ、2-3-5のコラムで紹介した育成講座の受講や、外部との相談を活用していくことは重要といえよう。取り扱うデータ・情報資産を精査することで、利活用の効果を実感できる割合が高まることからも電子化への着手に挑戦する意義があるものと考えられる。
第3節では、支援機関によるサポートの現状と事業者の自己変革に向けた課題、今後の中小企業支援の在り方について確認した。今後、ポストコロナ時代を迎えるに当たって、中小企業、小規模事業者においても「経営力そのもの」が大きく問われており、経営者自らが、環境変化を踏まえて経営課題を冷静に見極め、迅速果敢に対応・挑戦する「自己変革力」が求められていることを指摘した。また、経営者自身が自己変革を進めるに当たっては、経営課題の設定段階から、支援機関との対話による伴走支援を受けることが重要であると考えられる。