第5節 まとめ
本章では、企業の成長を促す経営力と組織について分析した。
第1節では、ブランドの構築・維持に向けた取組状況や取組内容を概観した。ブランドの構築・維持に取り組んでいる企業においては、ブランドが取引価格の維持・引上げにつながっていることが確認された。またデザイン経営の取組状況についても確認し、ブランドコンセプトを明確化することや、社内外へ浸透させることにより、ブランド力を高めることの重要性を事例を交えながら確認した。
第2節では、中小企業における能力開発や人事評価制度などの人的資本投資に関する取組について分析した。計画的なOJT研修やOFF-JT研修を実施している企業の方が、売上高増加率が高く、積極的に従業員の能力開発に取り組むことの重要性を指摘した。また、人事評価制度や、給与体系の整備、福利厚生施策の実施など、総合的な人事施策の重要性について確認した。さらに、フリーランス人材などの外部人材の活用が中小企業の競争力を高める可能性について確認した。中小企業経営は経営者一人だけでは成り立たない。重要な経営資源である人材とともに、組織として経営課題を克服していく必要がある。従業員の能力を引き出すためには、従業員が存分に活躍できる環境を整えることが重要である。こうした人的資源投資に関する取組を通じて、我が国の中小企業がさらに発展していくことを期待したい。
第3節では、経営理念・ビジョンに着目し、掲げている内容や浸透に向けた取組について分析した。複数のステークホルダーを意識した経営理念・ビジョンを掲げる企業が多いことや、自社の存在意義や目指す未来像を継承する重要性、環境の変化に応じ再構築していく意義を確認した。また、組織内の浸透を課題とする企業が少なくない中で、全社的に浸透している企業は従業員の自律的な働き方の実現に寄与していることや経営判断のより所となっていることを確認した。
次に、経営戦略の策定における外部環境及び内部環境の情報収集・分析状況を概観し、情報を分析し経営戦略に十分に反映させている企業の割合が多くはないことを確認した。また、経営戦略を定期的に見直すことや、社内に浸透させることの重要性についても確認した。
さらに、中小企業経営者に着目し、経営者の特徴を確認しつつ、経営力を高める取組について分析した。経営者の多くは、経営に関する学習状況を十分に確保できていないと認識していることや、経営者が学習時間を意図的に確保している企業の方が、売上高増加率の水準が高い傾向にあることを確認した。また、経営者が学習するだけでなく、学習した内容を経営や業務で実践することの重要性を指摘した。
第4節では、感染症下での海外展開の状況を概観し、中小企業において越境ECの利用割合が増加傾向にあることを確認した。また、脱炭素化やビジネスと人権といった共通価値に対する認識や取組状況について概観し、中小企業における取組が十分に進んでいない状況を確認した。さらに感染症下で過剰債務に悩む企業が少なくないことを確認した。最後にスタートアップ企業を取り巻く状況についても概観した。