第5節 まとめ
本章では、中小企業におけるデジタル化の現状や、取り組んでいく上での課題、デジタル化を推進している企業の組織的な特徴などについて分析を行ってきた。
第1節では、感染症の拡大によりデジタル化への意識が高まっていることや我が国におけるデジタル化の動向を概観し、IT投資と労働生産性の関係について明瞭な関係を現状では確認できないことが分かった。
第2節では、中小企業におけるデジタル化の現状について分析した。感染症の拡大を受けて、Web会議やテレワーク、オンラインでの商談・営業に取り組む企業が増加しており、企業の意識の変化がうかがえることを確認した。ITツール・システムの導入状況については、業種間で差が生じていることや、クラウドサービスの今後の利用方針について積極的な企業が一定数存在していることが分かった。
IT人材の確保と育成については、IT人材を約半数の企業が確保しつつあるものの、多くの企業がIT人材を育成する体制を整えられていない現状が分かった。情報セキュリティ対策については、対策に取り組んでいる企業も一定数存在するが、社内の検討・推進体制が整っていない体制面の課題が明らかになった。また、事業継続力強化に向けてデジタル化に取り組む企業においては、労働生産性が高い傾向が示された。
第3節では、中小企業におけるデジタル化の課題について分析した。アナログな文化・価値観の定着や、明確な目的・目標が定まっていない、組織のITリテラシーの不足といった、自社組織における課題がデジタル化推進に向けた課題となっていることが示唆された。
第4節では、中小企業におけるデジタル化に向けた組織改革について分析した。デジタル化に向けた全社的な意識の醸成や経営者の積極的な関与などに取り組む企業では、デジタル化の推進が業績に対してプラスの影響を与えており、労働生産性も高いことを確認した。また、デジタル化に向けた推進体制の構築やデジタル化と並行して業務プロセスの見直しに取り組む企業においても労働生産性が高く、重要な取組であると示唆された。
社外との共創によるデジタル化においては、ITベンダーや外部パートナーとの協業、公的支援機関の活用に成功している事例を紹介し、自社に限らず社外と連携することも重要となることも確認した。
昨今の感染症流行などの影響を受け、デジタル化の加速が期待される中、デジタル化に向けては経営者の関与や全社的な推進体制の構築をはじめとする組織改革が重要となってくる。事業方針と照らし合わせ、自社の現状に合ったデジタル化を模索していくことが欠かせない。しかし、デジタル化は課題解決の手段の一つであり、課題解決のためには、多面的なアプローチが求められると考えられる。
我が国の今後の人口減少を見据えて生産性向上がうたわれている中、デジタル化の推進を一つの起点とし、従来の業務スタイルの脱却と新たな事業モデルの確立を目指していくことが、我が国経済を成長・発展させていくためには必要となろう。