第3部 中小企業・小規模事業者と支援機関
第1章 中小企業政策の変遷
公的機関を中心とした様々な中小企業支援機関(以下、「支援機関」という。)は、中小企業・小規模事業者の経営改善や事業の発展を支える重要な役割を担っている。まず、本章では、我が国の中小企業政策の基本理念や基本方針を定める中小企業基本法や、中小企業支援体制の変遷について概観する。
第1節 中小企業基本法の変遷1
1 中小企業庁(2000年)「新中小企業基本法-改正の概要と逐条解説-」。
1 中小企業基本法の制定(1963年)
中小企業基本法は、中小企業庁の設置(1948年)から15年後の1963年に制定された。同法の制定時においては、中小企業とは「過小過多(企業規模が小さく、企業数が多すぎる)」であり、「一律でかわいそうな存在」として認識されていた。また、中小企業で働く労働者は社会的弱者であり、こうした者に対して社会的な施策を講ずるべきとのスタンスで政策が講じられてきた。このような認識の下、同法は、中小企業と大企業との間の生産性・賃金などに存在する「諸格差の是正」の解消を図ることを政策理念としていた。同法では、「生産性の向上」と「取引条件の向上」を、諸格差を是正するための具体的な目標としており、この目標を達成するための政策手段を規定し、具体的に実現を図ることとしていた。
2 中小企業基本法の抜本的改正(1999年)
1999年12月に公布された改正中小企業基本法では、中小企業を「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国経済の基盤を形成するもの」と位置付けて、これまでの「画一的な弱者」という中小企業像を払拭した。
また、中小企業は、〔1〕新たな産業の創出、〔2〕就業の機会の増大、〔3〕市場における競争の促進、〔4〕地域における経済の活性化、の役割を担う存在であることを規定するとともに、これまでの「二重構造の格差是正」に代わる新たな政策理念として、「多様で活力ある中小企業の成長発展」を提示している。この新たな政策理念を実現するため、独立した中小企業の自主的な努力を前提としつつ、〔1〕経営の革新及び創業の促進、〔2〕経営基盤の強化、〔3〕経済的社会的環境の変化への適応の円滑化、の3つを政策の柱としている。
3 中小企業基本法の再改正と小規模企業振興基本法の制定(2013年、2014年)
2013年に中小企業基本法が再度改正され、「小規模企業に対する中小企業施策の方針」が位置付けられた。また、これを更に一歩進める観点から、2014年6月に「小規模企業振興基本法(小規模基本法)」及び「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律(小規模事業者支援法)の一部を改正する法律」が成立した。
1999年に改正された中小企業基本法では、成長発展を基本理念として掲げ、企業の自主的な努力を促すための経営革新、創業促進、経営基盤強化の取組支援を規定していたが、小規模基本法では、「成長発展」のみならず、小規模事業者の「事業の持続的発展」を基本原則として位置付けた。
また、小規模事業者支援法では、この基本原則にのっとりつつ、地域に根ざした各地の商工会及び商工会議所が、小規模事業者の持てる力を最大限引き出し、総力を挙げて支援を行う体制の構築を掲げた。