トップページ 白書・統計情報 中小企業白書 2020年版 中小企業白書(HTML版) 第2部 新たな価値を生み出す中小企業 第3章 付加価値の獲得に向けた取引関係の構築 第4節 大企業と中小企業の共存共栄に向けて

第2部 新たな価値を生みだす中小企業

第3章 付加価値の獲得に向けた取引関係の構築

第4節 大企業と中小企業の共存共栄に向けて

大企業と中小企業が互いに稼げる「共存共栄の関係」の実現に向け、中小企業庁では、2019年12月から2020年2月にかけて、「価値創造企業に関する賢人会議」を開催した(コラム2-3-5)。同会議では、大企業と中小企業の連携による価値創造や、共存共栄関係の構築に向けた様々な分析や取組事例が紹介されたが、我が国を取り巻く様々な環境変化に対応し、経済全体のパイを拡大していくためには、大企業と中小企業が対立するのではなく、お互いの強みを活かしつつ、互いに稼げる未来志向の取引関係を構築していくことが重要と考えられる。

例えば、事例2-3-7は、我が国の航空機産業全体の国際競争力を高めるために、大企業と中小企業が連携して国際競争力の向上を目指している事例である。

さらに、事例2-3-8は、国内外の医療機器メーカーと連携し、日本の中小ものづくり企業の優れた技術を活かすことで、国内外の市場に向けた医療機器ビジネスの展開を行っている事例である。

今後、このような、新しい取引関係の構築を進めることが、我が国経済の活性化を図る上で重要と言えるだろう。

事例2-3-7:航空機部品生産協同組合

「大企業と中小企業が連携し、航空機産業の国際競争力向上を目指す協同組合」

三重県松阪市の航空機部品生産協同組合(組合事務局4名、工場内稼働人員約200名、出資金4,000万円)は、航空機部品の生産に携わってきた10社によって結成され、航空機部品を一括で受注・生産している。三菱重工業株式会社(以下、「三菱重工」)松阪工場建屋の一部を購入して共同工場とし、2017年から航空機部品の生産を開始した。同組合は松阪市を拠点とするため、「松阪クラスター」とも呼ばれている。

航空機産業は、ボーイング(米国)やエアバス(フランス)といった航空機メーカーを頂点とし、世界各地で部品の生産が行われている。我が国においては、三菱重工を始めとした重工大手三社(川崎重工業株式会社、株式会社IHI)が、これら航空機メーカーのTier1企業に当たり、その下に中小企業を中心としたTier2以下のサプライチェーンが形成されている。航空機の部品点数は自動車と比較しても非常に多く、高い品質水準が要求される。今後、航空機の需要は拡大が見込まれる中、各国のTier1企業は受注獲得のために品質・コスト・納期の改善を進めており、我が国の航空機産業も国際競争力を高める必要に迫られている。

このような環境下で、同組合は航空機部品業界の生産効率を高めることを目的に、2015年4月に設立された。航空機部品の生産体制は、一つの部品を製造するために、板金加工、表面処理、塗装といった数多くの工程を経る必要がある。このとき、部品を各工程に進めるために、Tier1企業から各工程を担当する企業に発注し、完成した部品を都度Tier1企業に戻すという方法を採っており、材料の仕入れから一つの部品が完成するまでに30~90日を要していた。同組合では、これまで別々の企業が別々の工場で行っていた機械加工、板金加工、熱処理、ショットピーニング、表面処理、塗装、検査といった複数の工程を一つの共同工場で行うことで、工程間の連携を高め部品の配送にかかる期間の短縮を目指した。

具体的な取組として、共同工場内で各社が連携して部品を製造するために、共通の生産管理システムを構築している。共通生産管理システムは、会社間をまたがる各工程を横断的に管理しており、各社の生産スケジュールを進捗状況に応じて組み替え、納期までの効率的な生産計画を立てている。ある企業で手掛けた部品が他社に納品された後どのように加工されているかなど、製造工程全体が把握できるようになり、生産の見える化につながる。また、受発注システムでは各企業間の受発注にEDI34を導入した。EDIにはペーパーレス化や自動化による人的ミスの削減、工数削減などのメリットがある。航空部品業界は部品点数が多いにもかかわらず、これまで導入されていなかったため、既に導入が進んでいる自動車業界に倣いつつ、同組合に適合した独自の受発注システムを構築した。

34 Electronic Data Interchangeの頭文字を取ったもの。

このような取組の結果、「松阪クラスター」では生産リードタイムを1週間~10日程度まで短縮することに成功した。今後も更なる生産体制の効率化を推し進め、Tier1企業と一体となって、国際競争力向上・販路拡大を目指している。

協同組合事務所、工場内部の様子

事例2-3-8:SESSA中小企業医療機器開発ネットワーク

「医療機器産業への参入に向けた、ものづくり中小企業の新たな連携の形」

SESSA中小企業医療機器開発ネットワークは、精密工業の世界的な集積地である長野県諏訪地域を中心に、高いスキルを持つ医療機器専門家を有する医療機器ODMメーカー、世界最高水準の技術を持つ金属の材料・加工・組立メーカーなど、ものづくり中小企業8社が参画している企業連合(任意団体・2020年度一般社団法人化予定)である。

世界の医療機器市場は拡大基調にあり、次世代の有望産業として高い注目を集めている。各国の大手医療機器メーカーは、自社の経営資源を利用し研究開発を行っているが、技術的な制約により目指す機能を実現出来ないケースがある。我が国のものづくり中小企業の中には、高い技術により大手医療機器メーカーが抱える課題を解決できる企業が存在し、これらものづくり企業は医療機器産業への参入余地がある。しかしながら、その技術をどのように医療機器に利用すれば分からないことが参入を困難にしている側面がある。

SESSAの代表幹事である鈴木啓太氏は、オリンパス株式会社での勤務経験から医療機器の開発に精通しており、2013年に東京から長野に移住したことを契機に(株)ナノ・グレインズを立ち上げ、医療機器の開発を開始した。同氏は、諏訪地域のものづくり中小企業と協力し、試作開発を進める中で、これらの中小企業の高い技術力が医療機器産業に変革をもたらす可能性を感じ、2014年に「中小ものづくり企業の連携による医療機器産業への参入における成功モデルの確立と共有」を目的にSESSAを結成した。

SESSAでは、参画企業が一堂に会する定例会を毎月一度開催している。この定例会では、医療機器の共同研究開発の進捗状況の共有、課題を解決するためのディスカッション、参画企業の新たな技術や最新の医療機器業界の情報共有などが行われている。定例会での情報交換を通じて、1社だけで案件に取り組むよりも参画企業の得意分野のノウハウを持ち寄ることで、医療機器メーカーのニーズにより的確に応えることができることも明らかとなり、参画企業間における共同研究は非常に盛んである。また、国内外の展示会、医療機器メーカー訪問といった販路拡大に向けた取組についても、個社単位だけではなくSESSAという団体として共同で行っている。

これらの具体的な取組として、ドイツで行われる世界最大の医療機器製造展「COMPAMED」への継続的な共同出展が挙げられる。この展示会では、参画企業それぞれが持つ優れた技術を結集し試作した「内視鏡処置具」を出展し、医療機器メーカーへの提案を行った。この試作品は、参画企業の持つ優れた技術の見える化につながり、国内外からの商談につながった。現在も、「COMPAMED」のほか、東京で行われるアジア最大の医療機器製造展「MEDTEC Japan」にも出展するなど、積極的な販路開拓を行っている。

こうした取組の結果、大手を含む医療機器メーカーや国立がん研究センター等の医療機関から開発委託契約を獲得しているほか、内視鏡手術用の生検針等、試作開発に成功している製品も複数あり、現在は量産に向けて準備を進めている。2018年3月末で参画企業の医療機器関連売上合計は、SESSA結成時の2014年と比較して40倍にまで増加している。さらに、結成から現在に至るまでに既に7件の特許を出願している。今後は医療機器の市場が大きい米国で展示会への出展も視野に入れ、活動の領域や規模を拡大していくことを目指している。

SESSA参画企業、SESSAで開発された高機能医療機器

コラム2-3-5

価値創造企業に関する賢人会議

中小企業庁では、大企業と中小企業が互いに稼げる「共存共栄」関係の実現や、新たな価値創造に向けたサステナブルなバリューチェーンの再構築について検討すべく、大企業及び中堅・中小企業の経営者などをメンバー(コラム2-3-5〔1〕図)とする「価値創造企業に関する賢人会議」を2019年12月に立ち上げ、3回の会議を通じて、2020年2月に中間報告書をとりまとめた。

本会議では、これからの時代に企業が持続的に発展していくためには、コスト競争を通じた利益の最大化だけでなく、最終ユーザーの個々のニーズに応える「価値」の創造が重要となることを確認し、我が国の取引構造の現状と課題や今後の目指すべき姿について議論を行った。

議論に当たっては、国内外における「共存共栄モデル」の具体的な事例を多数取り上げた。ここでは、同会議で取り上げられた事例の1つとして、コマニー(株)(石川県小松市)の取組を紹介する(コラム2-3-5〔2〕図)。同社は、オフィスなどのパーテーションの製造、販売、設計、施行を行う国内トップシェアメーカーであり、多数のサプライヤーと取引を行っている。同社の基本方針として、「サプライヤーとの共存共栄」を目指しており、コストダウンなどの成果が出た場合に、その成果配分を50/50(フィフティフィフティ)にするなどの取組を行っている。

同会議の中間報告書では、「共存共栄」の考え方を産業界全体に浸透させ、価値創造型の企業連携や持続可能な取引関係を推進していくための施策、さらに、個別取引に着目して、取引適正化を徹底するための施策についての提言がなされている。まずは、これらの施策を着実に実行し、効果検証を重ねながら、パイの奪い合いではなく全体のパイの拡大につながる「共存共栄」の関係の構築に、全力を尽くすことが必要である。

コラム2-3-5〔1〕図 価値創造企業に関する賢人会議 委員名簿
コラム2-3-5〔2〕図 共存共栄モデルの事例:コマニー株式会社