トップページ 白書・統計情報 中小企業白書 2020年版 中小企業白書(HTML版) 第2部 新たな価値を生み出す中小企業 第1章 付加価値の創出に向けた取組 第7節 まとめ

第2部 新たな価値を生みだす中小企業

第1章 付加価値の創出に向けた取組

第7節 まとめ

本章では新たな価値を創出することで、営業利益率や労働生産性を上昇させている企業の特徴を分析してきた。

第1節では、収益拡大から賃金引上げへの好循環を継続し、我が国経済を成長・発展させていくためには、起点となる企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが必要であることを述べた。

第2節では、中小企業が採る競争戦略と、その労働生産性との関係を分析した。対象市場の広さと優位性の軸で分類をすると、特定の市場をターゲットに低価格ではなく差別化を志向する「差別化集中戦略」を採る企業の割合が中小企業では最も高いことが分かった。いずれの戦略を採っても労働生産性に大きな差はないが、実際に差別化に成功した企業は、営業利益率・労働生産性共に高い傾向にあることが分かった。また、「差別化集中戦略」を採る企業が差別化に成功するための方法論として、地域、顧客、流通チャネルなどの切り口での対象市場の絞り込みが有効であることを、事例を通じて紹介した。

第3節では、事業領域の見直しと営業利益率や労働生産性上昇との関係性を見てきた。バリューチェーン上の事業領域の持ち方について、自社で上流の企画・開発機能を保有する企業は概して生産性が高い傾向が示された。また、業種別に事業領域別の営業利益率や労働生産性の構造は異なり、時系列の動向でも変化するため、絶えず事業領域を見直す取組が重要であることが示唆された。加えて、新事業領域や新事業分野への進出は数量増加や単価上昇に有効である一方、業種によっては進出の有無自体と労働生産性上昇との間には明瞭な関係が見いだせないことや、進出する分野の選択基準や進出のきっかけなどによっても労働生産性の上昇幅が異なり、進出までの意思決定の過程が重要となることを確認した。

第4節では、既存領域での差別化の取組と生産性向上との関係性について取り上げた。労働生産性の上昇幅が大きい差別化の取組として、業種別に傾向は相違するものの、共通して、製品・サービス開発の取組が挙げられた。また、新製品・サービス開発に当たっては、製造業では顧客ニーズ起点、非製造業では社会課題起点で取り組む企業において、労働生産性の上昇幅が大きい傾向が見られた。加えて、海外展開と差別化戦略との関係では、海外展開を志向する企業の中で、実際に海外市場への販売をしている企業は、販売をしていない企業と比較して、「差別化集中戦略」を採る割合が高く、結果として、国内ニッチトップ製品・サービスを保有する企業が多いことが明らかになった。

第5節では、無形資産の活用と労働生産性との関係について分析した。経営資源の中で技術者・エンジニア、営業・販売人材など、人材を重視する企業が多い一方で、長期的には全体として人的資本投資(OFF-JT)は減少していることを確認した。加えて、人的資本投資を実施している企業は、実施していない企業と比較して、労働生産性の上昇幅が大きいことを確認した。また、製造業では経営資源の中で知的財産権・ノウハウを最重視する企業の労働生産性が高い傾向を確認した。更なる知的財産権の活用に向けては、中小企業は大企業と比較して、複数の知的財産権により複合的な保護を図る知的財産権ミックスの動きで遅れており、個々の知的財産権の性質を踏まえ、多面的に保護を図る戦略が重要となることを示した。

第6節では、外部連携・オープンイノベーションの取組状況・取組効果や促進に向けたポイントについて分析を行った。外部連携については、製造業では研究開発分野やアイデアや発想の補完をする目的で外部連携を活用する企業はまだ少ない一方、同分野や同目的で外部連携を活用する企業は労働生産性の上昇幅が大きいことが明らかになった。対して、非製造業では、いずれの分野でも外部連携を活用する企業は労働生産性の上昇幅が大きいことが分かった。オープンイノベーションの連携先としては、同業種の中小企業が多い一方、異業種や大学と連携する企業において、労働生産性の上昇幅が大きいことが示された。また、促進のポイントとして、連携企業との信頼関係や明確なゴール設定・共有、意思決定の迅速さなどが重要であることを示した。

多くの中小企業にとって、市場を絞り、低価格ではなく差別化を目指した中小企業ならではの戦い方が重要となってくる。その際には、業界俯瞰的な視点で自社のポジションニングを絶えず見直しながら、社会課題・顧客ニーズ起点で、製品・サービス開発も含めた差別化の取組を継続していくことが必要となる。また、質・量の両面での人材の不足に直面する中では、競争の源泉となる人の育成に意識を向けながら、異業種も含めた外部の力を積極的に活用することを意識したい。

消費者ニーズが多様化する中、少しでも多くの中小企業が機動性、柔軟性、創造性をいかし、国内外の社会や個々の顧客ニーズに応えた自社ならではの新たな価値創造の活動に与していくことが、収益拡大から賃金引上げへの好循環を継続し、我が国経済を成長・発展させていくためには必要となろう。