トップページ 白書・統計情報 中小企業白書 2020年版 中小企業白書(HTML版) 第2部 新たな価値を生み出す中小企業 第1章 付加価値の創出に向けた取組 第5節 無形資産の有効活用

第2部 新たな価値を生みだす中小企業

第1章 付加価値の創出に向けた取組

第5節 無形資産の有効活用

第3節の新事業領域・新事業分野への進出と第4節の差別化の取組のいずれにおいても、質・量の両面での人材の不足を課題として挙げる企業の割合が顕著に高かった。大企業に比べ経営資源に乏しい中小企業においては、いかに限られた経営資源を有効に活用できるかが重要となってくる。経営資源には設備や店舗などの「有形資産」のみならず、知的財産、ブランド、人材の質なども含まれ、こうした「無形資産」への投資が生産性向上につながるといった指摘も見られる26。一方で、アメリカ・英国・ドイツなどと比較すると、日本の対GDP比の無形資産投資比率は低い水準にあることが指摘されている27

26 宮川、枝村、尾崎、金、滝澤、外木、原田(2015)「無形資産投資と日本の経済成長」

27 内閣府「平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)」第3-2-14図

そこで、本節では業種別に重視する経営資源の傾向を把握するとともに、無形資産のうち、知的財産や人的資本に着目し、その活用状況や労働生産性との関係について分析を行う。また、人材の質・量を担保する上で重要となる働き方改革の動向についても触れたい。

1 重視する経営資源

まず、製造業・非製造業別に、企業が経営資源として何を最も重視しているかを見ていく(第2-1-65図)。全般的に、「技術者・エンジニア」や「営業・販売人材」といったヒトを、経営資源の中で最も重視する傾向が見られる。また、製造業と非製造業を比べると、製造業では「工場・事務所」を最も重視する企業の割合が高い一方、非製造業では「営業・販売人材」を重視する企業の割合が高い傾向が分かる。

第2-1-65図 製造業・非製造業別、最も重視する経営資源

第2-1-66図第2-1-67図は、製造業・非製造業それぞれの企業で、最も重視する経営資源と労働生産性との関係を見たものである。

製造業では、「知的財産権・ノウハウ」、「営業・販売人材」、「企画・マーケティング人材」を最重視する企業の労働生産性水準が高い傾向にあることが分かる。

第2-1-66図 最も重視する経営資源別、労働生産性の水準(2018)【製造業】

非製造業では、「仕入先網」、「店舗」、「ブランド」を最重視する企業の労働生産性水準が高い傾向にあることが分かる。

第2-1-67図 最も重視する経営資源別、労働生産性の水準(2018)【非製造業】

第2-1-68図は、国内ニッチトップ製品・サービスの保有の有無別に、最も重視する経営資源を示したものである。国内ニッチトップ製品・サービスを保有している企業は、保有していない企業と比べて、「技術者・エンジニア」、「知的財産権・ノウハウ」、「経営者・役員」を最重視する割合が相対的に高い一方で、「営業・販売人材」、「顧客網」、「資金」を最重視する割合が相対的に低いことが分かる。

第2-1-68図 国内ニッチトップ製品・サービスの保有の有無別、最も重視する経営資源

経営資源の配分に関する一つの例として、事例2-1-14では、積極的なIT投資により、現場スタッフの作業時間を削減し、本来的な顧客とのコミュニケーションにより多くの時間を投ずることが可能となった企業の事例を紹介している。

次項では、知的財産権の有効活用に向けて、前段として中小企業における知的財産権の活用状況を見ていくとともに、知財活用に向けて重要なポイントを紹介していきたい。

事例2-1-14:株式会社クリスプ

「飲食店での積極的なIT活用により、顧客体験の提供を目指す企業」

東京都渋谷区の株式会社クリスプ(従業員335名(うち、正社員35名、パート・アルバイト300名)、資本金1,529万円)は、2014年創業のカスタムチョップドサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」を運営する企業である。日本にはこれまでなかったコンセプトが大きな人気を呼び、1号店となる麻布十番での出店を皮切りに、都内に14店舗を展開している(2020年3月末現在)。

順調に業績を伸ばしていた同社だが、その一方で、人気の高まりに比例して現場は疲弊していき、オペレーションを回すことで精一杯という状況に陥った。同社の宮野浩史社長が創業時に目指した、人へフォーカスし、「嬉しい」・「楽しい」の感情を抱いてもらえる顧客体験を提供することが難しくなっていた。

この状況を受け、宮野社長が目をつけたのが注文方法の見直しである。米国での生活経験もあり、常日頃から世界の飲食店におけるIT活用事例にもアンテナを張っていた宮野社長は、当時、アメリカのスターバックスが導入を開始して話題を集めたオーダーシステムに注目し、公式モバイルオーダーアプリ「クリスプAPP」を全店に導入した。これにより顧客はスマホから事前注文・決済が可能となり、好きな時間に店舗に行って商品をピックアップできるようになった。さらに、5店舗では完全キャッシュレス化も実施。顧客・従業員双方にとっての現金の取扱いによるストレスを軽減させた。

こうした取組が功を奏し、待ち時間短縮による顧客の満足度・来店頻度の向上が得られた。また、現場スタッフの作業時間も1日あたり90分間軽減し、顧客とより温かなコミュニケーションをとる余裕が生まれ、当初目指していた人へフォーカスした接客が実現しやすくなった。売上面でも、店頭注文と比較して、アプリ注文では顧客単価が8%アップしたという。

現在は、グループ会社の株式会社カチリで、飲食店向けのモバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM(プラットフォーム)」の開発・販売にも取り組んでいる。「日本の飲食業界は欧米と比較すると、IT活用で後れをとっている。小規模なソフトウェア投資から始めて、IT活用を効率的に推進していくことで、世界の外食とも戦っていけると考えている。」と宮野浩史社長は語る。

CRISP SALAD WORKS店舗での接客時の様子、飲食店向けのモバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM(プラットフォーム)」

2 知的財産権の活用28

28 本項における特許庁総務部普及支援課調べの統計データは、特許庁が保有する中小企業基本法第2条第1項において定義されている中小企業の出願データと、民間の信用調査会社が保有する企業データをクロス集計させて、特許庁が推計したものである。

〔1〕中小企業における知的財産権の出願動向

我が国の中小企業は、およそ358万社と全企業数の99.7%を占め、また、付加価値額で見ても、52.9%を中小企業が占めている。それに対して、内国法人による特許出願件数を見てみると、総件数に占める中小企業の割合は14.9%となっており、また、特許現存権利件数で見ても、14.5%と極めて低くなっている(第2-1-69図)。

第2-1-69図 特許出願件数・現存権利件数に占める中小企業割合

一方、実用新案の登録出願件数で見ると55.8%、意匠登録出願件数は、全体の37.3%を中小企業が占め、商標登録出願件数では、中小企業による出願件数は61.4%となっている。また、同様に、内国法人の国際出願を見てみると、特許のPCT国際出願29件数については9.1%と国内出願より更に中小企業割合が下がるものの、商標の国際登録出願(マドプロ)30件数を見ると、商標については52.3%と中小企業も一定程度の国際出願を行っている状況となっている(第2-1-70図)。

29 特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願。一つの出願願書を条約に従って提出することにより、PCT 加盟国である全ての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度となっている。

30 標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願。一つの出願願書を所定の手続に従って提出することにより、複数国に一括して出願したことと同じ効果が得られる制度となっている。

第2-1-70図 知的財産権別、出願件数に占める中小企業割合(2018年出願)

次に、中小企業による特許、意匠、商標の出願件数の業種別比率を見ると、特許、意匠ともに「製造業」、「卸売業,小売業」といった業種が多数を占めているが、商標になると、特許、意匠と比較して「サービス業」の割合が大きい(第2-1-71図)。特に、中小企業においては商標出願件数が多いことも踏まえると、業種横断的に、自社のブランド価値を保護する商標取得についての意識がある程度高いことが推察される。特に最近では、自社の製品やサービスのブランド化に加え、事例2-1-15のように、自社のビジネスモデルを商標で保護するような動きもある。

第2-1-71図 企業規模別・権利別、出願件数の業種別比率

さらに、近年、知的財産戦略を経営戦略と結びつけて考える企業を中心に、「知的財産権ミックス」と呼ばれる取組が進んできている。知的財産権ミックスとは、一つの製品やサービスについて、特許に加え、意匠や商標を含めた複数の知的財産権により複合的な保護を図るものであり、これにより、技術、デザイン、ブランドの模倣に多面的に対抗することが可能となる(第2-1-72図)。

第2-1-72図 知的財産の複合的保護(知的財産権ミックス)の例

こうした知的財産権ミックスの動きは大企業に比べて、中小企業では遅れている。具体的には、特許と商標を両方組み合わせる企業を見ても、大企業では18.9%に対して、中小企業では6.4%にすぎない。さらに、特許、意匠、商標全てを併せて出願した大企業は14.9%に及ぶが、中小企業は1.6%のみである(第2-1-73図)。

第2-1-73図 企業規模別、複数の知的財産権に出願する企業の割合

〔2〕中小企業の知的財産権の活用の状況

知的財産権の出願の中には、技術を公知化することで他社による権利化を防ぐことのみを目的とした出願も存在し、実際に権利化されないものも多い。例えば、特許権を取得するためには、出願した上で、審査請求を行う必要があるが、出願から審査請求までの期間について見ると(第2-1-74図)、出願と同時に審査請求を行う企業は少数であることが分かる。一方、大企業と中小企業で比較すると、中小企業の方が速やかに審査請求を行っていることが見て取れる。

第2-1-74図 企業規模別、審査請求の推移

また、知的財産権を取得することそのものが目的とされ、実際に使用されていない知的財産権も一定程度存在しており、こうした権利をいかに活用に結びつけるかといったことも従来からの検討課題となっている。

第2-1-75図は、知的財産権の使用状況を見たものであるが、これを見ると、大企業に比べて、中小企業の方が知的財産権の使用に向けた意識が高いことが見て取れる。例えば、取得した特許の使用率を見ると、大企業では33.8%であるのに対して、中小企業では75.3%と、防衛目的というよりは、使用を前提として特許を取得していることが分かる。さらに、特許以外の権利についての使用率は8割を超えるなど、中小企業による知的財産権の取得は使用に直結していると捉えることができる。

第2-1-75図 知的財産権の使用状況

知的財産権の活用には、当該権利の使用やライセンスといった法的な側面に加え、権利取得を通じて自社の価値が「見える化」されるなどといったメリットも存在する(第2-1-76図)。こうした自社の価値の「見える化」は、販路開拓などに資することに加え、事業承継などの局面においても重要と考えられる。

第2-1-76図 知的財産権活用のメリット

さらに、特許などの知的財産権は出願又は登録されると公開される。例えば、公開された特許情報は出願人が本気で取り組もうとしている高品質な技術情報の塊と言える。この技術情報のビックデータから自社技術とシナジーを生む可能性のある技術情報を特定することにより、思いもよらなかった営業先を見つけることができる。実際に特許情報を分析することで、ビジネスの多角化に結びつくと行った事例も存在する(第2-1-77図)。

第2-1-77図 特許情報を活用したビジネスマッチングの成功例

〔3〕知的財産権31の更なる活用に向けて~経営戦略としての知的財産権戦略~

31 「知的財産権」とは、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権及び商標権)のほか、著作権、育成者権、回路配置利用権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。

どのような知的財産権をどのようなタイミングで取得していくかは、ビジネスでの具体的な活用方法を踏まえて決定されるべきものである。特許権を取得してからその権利をどのようにビジネスで活用していくかを考えるのでは、権利範囲に漏れが生じるなどのリスクが生じやすい。

まずは、権利をどのようにビジネスで活用していくかを考えた上で、何をノウハウとして秘匿し、何を権利化するのかといったオープンクローズ戦略32を検討し、権利化する部分については個々の産業財産権の性質や特徴を踏まえて、どの権利で保護するかを検討していく必要がある(第2-1-78図)。

32 「オープンクローズ戦略」には、二つの軸が含まれており、具体的には情報のオープンクローズと、権利許諾のオープンクローズである。前者の軸では、「ノウハウとして秘匿する」のがクローズであり「論文発表や特許出願等をして情報公開する」のがオープンであり、後者の軸では、「特許等の権利化をし独占する」=クローズと、「権利化して他社にライセンスする」=オープンがある。この二つの軸をあわせて、「オープンクローズ戦略」とは、知的財産のうち、どの部分をノウハウとして秘匿又は特許出願等を通じて権利化して独占するか(クローズ化)、どの部分を権利化せず公開または権利化して他社にライセンスするか(オープン化)を、自社のビジネスの展開等に基づいて検討することを指す。

第2-1-78図 主な知的財産権の特徴

また、水際における模倣品の取締りという観点からは、特許権ではなく、商標権に基づくものが圧倒的に多い(第2-1-79図)。第2-1-80図では、模倣品対策を意識した商標出願の事例を紹介している。

第2-1-79図 知的財産権に基づく輸入差止め件数実績
第2-1-80図 商標権出願による模倣品対策の例

また、特許権で保護できるような技術であっても、その技術を製品に実装したときに製品の外観に特徴が表れる場合は、意匠権で保護するといった事例も存在する(第2-1-81図)。意匠権で保護する場合、登録された製品の外観のみが公開されることとなるため、特許出願をして製造過程が公開される、といったことを避けることができるメリットもある。また、外観に特徴があれば、特許性(特許が認められる可能性)があまり高くない技術を実装した場合であっても、意匠権によって保護できる可能性もある。

第2-1-81図 意匠権出願による保護の例

このように、自らのビジネス上のリスクに厳格に対応していくためには、各産業財産権の性質に応じて必要な権利によって多面的に保護していくという経営戦略を考えることが重要となっている。

事例2-1-15:由紀ホールディングス株式会社

「中小製造業のグループ化の取組を独自のメソッドとして商標化し、ブランド戦略を構築する企業」

東京都中央区の由紀ホールディングス株式会社(従業員約300名(グループ国内)、資本金1億7,800万円)は、日本の中小製造業が持つ優れた要素技術の消滅を防ぎたいという思いから、株式会社由紀精密(従業員42名、資本金3,500万円)で培ってきたノウハウを他の中小製造業に提供することを目指して2017年10月に設立された。

具体的には、ホールディングスグループに、複数の優れた要素技術を持つ中小製造業を抱え、各社のブランドを維持しつつ、イノベーションに向けた取組を支援するプラットフォームを提供することで、各社の経営基盤を安定させ、技術開発に注力できる環境作りを支援している。

そして、こうした取組を「YUKI Method」として確立し、商標を取得することで、自社のビジネスモデルを保護しようとしている。これは、BtoBにおけるビジネスモデルに商標を活用する新たな動きでもある。

同グループには、株式会社由紀精密のほか、電線加工事業・電気導体製造販売業を営む明興双葉株式会社(従業員200名(国内)、資本金5,000万円)、ハイシリコンアルミ合金の鋳造加工を営む株式会社キャストワン(従業員40名、資本金100万円)、超硬合金(ハードロイ)の製造加工事業を行う国産合金株式会社(従業員20名、資本金5,000万円)、精密機械加工、マシニング加工事業を行う株式会社仙北谷(従業員30名、資本金9,000万円)、金型設計製造を行う有限会社昭和金型製作所(従業員3名、資本金600万円)などが参加している。

同ホールディングスは、こうした企業に対して、自社(株式会社由紀精密)で成功した自社技術の応用による高付加価値分野への事業展開、多品種少量生産でも利益を上げるための製造方法の効率化、積極的な海外展開、といった経営ノウハウを適用するとともに、グループ全体で人事労務といったバックオフィス業務の効率化、確立したブランドイメージによる広報宣伝活動を行うことで、各社が自社の強みである技術開発に注力できる体制を整えつつ、グループ全体の付加価値を高める戦略に立っている。「YUKI Method」という商標の下、こうしたプラットフォームとしての手法を確立し、自社で成功した経営モデルをグループ内の企業に横展開し、グループ全体のブランドイメージを高めていこうという戦略は、BtoCビジネスにおけるブランド戦略に通じるものがある。

さらに、同ホールディングスでは、こうしたプラットフォームを活用して、技術を有するが後継者難などで廃業の危機にある中小製造業のグループ化による「技術継承」を推進している。こうした取組は、中小製造業の一つの事業承継モデルとして機能していくことが期待される。

また、同グループ企業への参加を希望する中小製造業からの問合せも増える中、同ホールディングスは、グループに参加する企業の選定指標を作成・提示している。「中小製造業の技術力、イノベーション力を社会課題の解決につなげていきたい。」と同ホールディングスの大坪正人社長は語る。

グループに参加する企業の選定指標、由紀ホールディングスが持つプラットフォーム「YUKI Method」

コラム2-1-4

産業財産権専門官による知的財産活用の普及・支援

特許庁普及支援課では、中小企業などの更なる成長、発展に知的財産を役立てていくため、様々な支援策の企画・立案、実施を行っている。知的財産といっても特許や意匠、商標など細かくは制度に違いがあり、知的財産の効果を実感してもらうためには、個々の経営課題やニーズを丁寧に把握し、戦略的な権利取得、活用の検討が必要であると考えている。そのため、「産業財産権専門官」が全国各地に赴き、中小企業に直接訪問することで知的財産活用の相談対応や各種支援策の紹介、支援機関などが開催するセミナーや説明会での講演活動なども行っている。

本コラムでは、産業財産権専門官の活動について紹介したい。

1.産業財産権専門官の活動内容

(1)知的財産権制度説明会(初心者向け)での講師

毎年5月~9月頃に、知的財産に関して初心者である方向けの知的財産権制度説明会が実施されており、産業財産権専門官が全国各地に赴いてこの説明会の講師をしている。この説明会では、知的財産とはいったいどういうものであるのかという前提から始め、特許、意匠、商標といった各知的財産権制度の基礎的な説明や、中小企業に向けた支援策などを3時間以上にわたって分かりやすく説明している。この説明会は、毎年各都道府県で最低1回(東京や大阪など、一部の都道府県では複数回)無料にて開催している。

(2)各種セミナーの実施

初心者向けの知的財産権制度説明会だけでなく、各地における支援機関や金融機関、個別の中小企業など、要望があればどこへでも産業財産権専門官が講師として駆け付け、セミナーを行っている。このセミナーは特に決まった形があるわけではなく、ご要望に応じた内容、時間で行っている。例えば、

  • 知的財産権制度の概要(2時間程度)
  • 産業財産権を取得していたことでプラス効果があった事例

など、知的財産に関する活動にこれから取り組もうとする方が広く学びたいという場合に、無料で活用できる。

(3)中小企業の個別訪問

全国各地の中小企業に個別訪問し、知的財産の活用状況などについて意見交換を行っている。各企業における現状や課題などを意見交換の中で把握し、各企業それぞれに合った支援施策を紹介したり、様々な企業から得られた情報を特許庁内の関係各部署で共有し、さらなる支援施策を企画・立案するのに役立てたりしている。さらに、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)とも連携し、必要に応じて営業秘密や海外知財戦略の専門家の派遣も行っている。

コラム2-1-4〔1〕図 産業財産権専門官の活動内容

2.中小企業の更なる飛躍に向けて

大企業のみならず、中小企業においても特許、意匠、商標等の知的財産権を取得することは重要だが、必ずしも取得することのみが知的財産の主たる目的ではない。自社の課題を解決するために必要な権利の取得を進めることが重要である。知的財産というと、難しいイメージを抱きがちだが、意識を変えるだけで企業活動において大きなプラスとなることもある。産業財産権専門官の活動が中小企業の経営者の一助となれば幸いである。

3.中小企業支援施策(一部)のご紹介

コラム2-1-4〔2〕図 特許庁での中小企業支援施策

そのほかにも、多くの支援策がある。詳しくは、特許庁のホームページを参照されたい。

3 人的資本投資

ここでは、人的資本への投資の状況と労働生産性との関係について見ていく。

第2-1-82図は、GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合を時系列で国際比較したものである。これによると、日本では米国・英国・フランスなど欧米主要国と比較して、GDPに占める能力開発費(OFF-JT)の比率が著しく低く、また、OFF-JTの割合は長期的に減少傾向にあることが分かる。

第2-1-82図 GDPに占める企業の能力開発費の割合の国際比較

第2-1-83図は、中小企業における業種別の人材教育・能力開発投資33(OFF-JT)の実施状況を示したものである。これによると、「建設業」や「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」において、人材教育・能力開発投資の実施率が高い。他方で、「生活関連サービス業,娯楽業」、「卸売業」、「運輸業,郵便業」では、実施率が低いことが分かる。

33 ここでは、「人材教育・能力開発投資」とは、外部講師や指導員の招聘、外部セミナー・研修への参加の助成、大学・大学院などへの授業料の助成などのOFF-JTに関する投資をいう。

第2-1-83図 業種別、人材教育・能力開発投資の実施状況

また、経営者年齢別に、人材教育・能力開発投資の実施状況を見ると、「39歳以下」の若い経営者において、実施率が最も高い結果となった(第2-1-84図)。

第2-1-84図 経営者年齢別、人材教育・能力開発投資の実施状況

続いて、人的資本投資と労働生産性との関係を見ていく。先行研究では、人的資本投資を行うことで、労働生産性が高まる効果があることが指摘されている34 35

34 内閣府「平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)」第2-2-9図では、人的資本投資額(OJT・OFF-JTの機会費用と直接費用の合計)と労働生産性の関係を分析すると、平均的には1人当たりの人的資本投資額の1%の増加は0.6%程度労働生産性を増加させる可能性を示唆している。

35 厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」第2-3-1図では、国際比較を行うと、能力開発の実施割合と労働生産性の上昇率とに正の相関がみられることを示している。

第2-1-85図は、アンケート調査を用いて、人材教育・能力開発投資の実施の有無別に、労働生産性の変化を見たものである。これを見ると、人材教育・能力開発投資を実施している企業は、実施していない企業と比較して、労働生産性の上昇幅が大きくなる傾向が確認された。

第2-1-85図 人材教育・能力開発投資の実施の有無別、労働生産性の変化

次に、人材の階層別(経営者・役員、営業・販売人材、技術者・エンジニア、企画・マーケティング人材)に、各階層への人材教育・能力開発投資を重視する企業とそうでない企業との労働生産性の上昇幅を比較していく(第2-1-86図第2-1-87図第2-1-88図第2-1-89図)。

上記四つの階層のうち、経営者・役員への人材教育・能力開発投資で、製造業・非製造業共に、労働生産性の上昇幅が大きい傾向が最も明瞭に見られた。他に、営業・販売人材では非製造業で、技術者・エンジニアでは製造業・非製造業で、企画・マーケティング人材では非製造業で、人材教育・能力開発投資を重視する企業において、労働生産性の上昇幅がやや大きい傾向が見られた。総じて見ると、非製造業において、特に各人材の階層別に人的資本投資の結果が労働生産性の上昇として明瞭に表れることが分かる。

第2-1-86図 経営者・役員への人材教育・能力開発投資の重視度別、労働生産性の変化
第2-1-87図 営業・販売人材への人材教育・能力開発投資の重視度別、労働生産性の変化
第2-1-88図 技術者・エンジニアへの人材教育・能力開発投資の重視度別、労働生産性の変化
第2-1-89図 企画・マーケティング人材への人材教育・能力開発投資の重視度別、労働生産性の変化

第2-1-90図は、人材教育・能力開発投資の実施の有無と売上高研究開発費比率との関係を示したものである。これを見ると、人材教育・能力開発投資を実施している企業は実施していない企業と比較して、研究開発費比率も明確に高い傾向にあることが分かる。経営戦略上、無形資産への投資を重要視する企業は、人的資本投資を通じた人材の質の向上と同時に、研究開発を通じた技術・ノウハウの蓄積に取り組んでいることが推察される。

第2-1-90図 人材教育・能力開発投資の実施の有無別、売上高研究開発費比率

4 働き方改革36

36 ここでの「働き方改革」とは、「個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革(例えば、残業規制、育休・介護休制、フレックスタイム制、テレワーク制、副業の導入・拡充などを指す。)」と定義している。

次に、働き方改革の実施状況や、働き方改革の狙いと労働生産性との関係について見ていく。

〔1〕働き方改革の実施状況

まず、働き方改革の実施状況を確認していく。第2-1-91図は、働き方改革の実施状況を従業員規模別に確認したものである。これによると、全体として83.9%の中小企業が働き方改革に取り組んでおり、従業員規模が大きい企業ほど、働き方改革の実施率は高くなることが分かる。

第2-1-91図 従業員規模別、働き方改革の実施状況

続いて、業種別に、働き方改革の実施状況を見ていくと、「学術研究,専門・技術サービス業」、「建設業」、「情報通信業」において、働き方改革に取り組んでいる企業の割合が高いことが分かる(第2-1-92図)。

第2-1-92図 業種別、働き方改革の実施状況

〔2〕働き方改革の狙い

続いて、働き方改革に取り組んでいる企業について、働き方改革の狙いとして最重要視しているものを、従業員規模別に見ていく。まず、いずれの従業員規模でも「残業規制への対応」を挙げる企業が最も多い。また、従業員規模が大きくなるほど、「従業員の満足度向上」を挙げる企業の割合が下がり、「生産効率の向上」を挙げる企業の割合が高くなる傾向が見て取れる(第2-1-93図)。

第2-1-93図 従業員規模別、働き方改革の狙いとして最も重要なもの

続いて、業種別に、企業が働き方改革の狙いとして最重要視しているものを見ていく(第2-1-94図)。「宿泊業,飲食サービス業」、「卸売業」、「小売業」、「生活関連サービス業,娯楽業」では、「残業規制への対応」以外の狙いを挙げる企業の割合が高い。また、「製造業」では「生産効率の向上」を挙げる企業の割合が他の業種と比較すると高い傾向にある。

第2-1-94図 業種別、働き方改革の狙いとして最も重要なもの

第2-1-95図は、働き方改革の狙い別に労働生産性の変化との関係性を示したものである。製造業では「従業員の満足度向上」、非製造業では「生産効率の向上」を働き方改革の最も重要な狙いと考える企業において、労働生産性の上昇幅が比較的大きい傾向にある。

第2-1-95図 働き方改革の狙い別、労働生産性の変化