第2節 起業家の実態と起業活動
前節では、起業の担い手が長期的に減少する中、副業で起業を希望者は足下で増加していることと、フリーランスとして事業を営む者の存在感が大きいことを確認した。例えば、Folta et al. (2010)、Burke et al.(2008)及びStrohmeyer and Tonoyan (2006)によれば、スウェーデン、英国、フランスでは、会社勤めをしながら起業するハイブリッド起業家(副業起業家)が一般的な起業形態と認識されつつあるという。また、藤井・藤田(2017)は、副業として事業を行う者やフリーランスなどを、「マイクロアントレプレナー」と称し、「プロフェッショナルとアマチュア、あるいは創業と勤務の境界線で区切ることのできない小さな起業家」とみなしているなど、近年、副業やフリーランスが起業形態の一つとして注目されている。
これを受けて本節では、「中小企業・小規模事業者における経営者の参入に関する調査17」を基に、事業を開始してから10年以内の経営者を「起業家」と定義し、これを第2-2-22図のとおり、「フリーランス起業家」、「副業起業家」、「フリーランス・副業以外の起業家」の三つに類型化し、その特徴を分析する。また、その成長意向にも着目し、特に成長意向が強い起業家の特徴と支援ニーズなどについても確認していく。
17 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が2018年12月に実施したアンケート調査。インターネットによるスクリーニング調査を全国の20歳以上69歳以下の男女18万人に対して行った。
調査方法はスクリーニング調査と本調査の2段階で行われており、スクリーニング調査で本調査の調査対象となる起業や事業承継をする可能性のある者、既に起業した者などの対象者を抽出して、本調査への回答者とし、5,853人から回答を得た。うち、本章では既に起業した者2,922人(うち有効回答者数2,275人)の回答を利用する。なお、スクリーニング調査については、人口構成比に合わせるため、平成27年国勢調査を基に、性別、年齢階層別(35歳以下、36歳以上55歳以下、56歳以上)のバランスを考慮して配信しており、本調査については、ウェイトバックなどの調整は行っていない。

まず、今回の分析対象のうちの「起業家」の割合について見ていく(第2-2-23図18)。これを見ると、「起業家」は全体の約3%で、男女で比較すると、女性起業家が男性の1/3程度となっている。さらに、起業家を分類すると、全体では「フリーランス起業家」と「フリーランス・副業以外の起業家」の割合がほぼ拮抗する一方、「副業起業家」は全体の1割弱であることが分かる。
18 スクリーニング調査の全体の傾向について確認するため、平成27年国勢調査を基に、性別、年齢階層別(35歳以下、36歳以上55歳以下、56歳以上)のバランスを考慮して、スクリーニング調査の回答者のうち2万件を抽出している。

1 起業家のバックグラウンドの実態
本項では、前掲第2-2-22図のように、「フリーランス起業家」、「副業起業家」及び「フリーランス・副業以外の起業家」の三つに類型化し、それぞれの特徴について分析していく。
〔1〕起業家の年齢構成及び家計の状況
まず、第2-2-24図は起業家の年齢構成を見たものである。男性は、副業起業家が他の起業家に比べて49歳以下の年齢層の割合が相対的に高く、女性は、フリーランス・副業以外の起業家が他の起業家に比べて49歳以下の年齢層の割合が相対的に低いことが分かる。

次に、第2-2-25図は起業家の個人収入の金額及びその世帯収入に占める割合の構成を見たものである。いずれも、世帯収入に占める割合が50%以上の者が過半数を占めていることが分かる。また、フリーランス起業家は、他の起業家に比べて個人収入額が400万円未満と回答した割合が高い。

続いて、第2-2-26図は、男女別に個人年収の世帯収入に占める割合を見たものである。女性においては、男性に比べて50%未満の割合が高い。また男女ともに、フリーランス・副業以外の起業家は、その他の起業家に比べて50%以上の割合が高い。

また、第2-2-27図は、起業家の個人収入の金額を男女別に見たものである。男性の個人収入額の方が女性に比べて総じて高いことが分かる。前掲第2-2-26図の結果も踏まえると、男性は女性に比べて個人年収の世帯収入に占める割合が高く、個人年収額においても女性に比べて高い。

〔2〕起業前後の満足度
ここでは、起業前後の満足度について見ていく。まず、第2-2-28図は、現在の収入に関する満足度の推移である。フリーランス起業家は、起業前に比べて収入に関して「満足」、「やや満足」と回答する起業家の割合は減少し、副業起業家は「どちらともいえない」と回答する起業家の割合が増加していることが分かる。

次の第2-2-29図は、仕事の自由度・裁量に関する満足度の推移について示したものである。いずれの類型も起業前に比べて、「満足」及び「やや満足」と回答する起業家の割合は増加しており、特にフリーランス起業家の満足度の変化が顕著といえる。

〔3〕起業家の最終学歴及び事業に関する経験等
第2-2-30図は、起業家の最終学歴について見たものである。副業起業家は、男女ともに「短期大学・大学・大学院等」を最終学歴とする者の割合が高いことが分かる。他方、フリーランス起業家及びフリーランス・副業以外の起業家は、男女ともに回答割合に差異が見られないことが分かる。

次に、第2-2-31図は、現在営む事業に関する仕事と同種の経験を、起業前にどの程度の期間経験したかを示したものである。副業起業家は、男女ともに、その他の起業家と比べて3年未満の割合が高いことに加え、10年以上の割合が低く、平均年数を比べても現在営む事業に関する経験年数が相対的に短いことが分かる。

第2-2-32図は、起業家の類型別に見た開業費用である。フリーランス起業家及び副業起業家は、それ以外の起業家に比べて、開業費用が低いことが分かる。特に女性のフリーランス起業家及び副業起業家は、10万円未満の低コストで開業している者の割合が相対的に高い。類型ごとに男女で比較すると、女性の方が男性に比べて、開業費用が低いという傾向が見て取れる。
