第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 

2 自然災害に対する備えの状況

〔1〕自然災害に対する具体的な備えの取組状況

第3-2-24図は、実際に、自然災害への備えに具体的に取り組んでいる中小企業の割合を示したものである。「取り組んでいる」と回答した企業の割合は45.9%であり、半数以上の中小企業が具体的な備えを行っていないことが分かる。

第3-2-24図 自然災害への備えに具体的に取り組んでいる割合
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第3-2-25図は、自然災害に対する備えに取り組んでいる企業に、その理由を聞いたものである。最も回答が多かったのは、「自身の被災経験」、次いで「国内での災害報道」である。他方、行政機関や販売先など、周囲の関係者から勧められて取組を始めた企業も存在しており、こうした周囲からの働きかけも一定の役割を果たすと考えられる。

第3-2-25図 自然災害への備えに取り組んだ理由
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第3-2-26図は、被災経験がある事業者について、被災により下がった売上が元の水準に戻るまでの期間を、被災前における自然災害対策の実施有無別に見たものである。被災以前に自然災害への備えを行っていた企業では、そうでない者に比べて「半年以内」といった比較的短い期間で元の水準に戻った割合が高く、「元の水準に戻っていない」企業の割合も低くなっている。

第3-2-26図 被災前における自然災害への備えの有無別に見た、下がった売上が元の水準に戻るまでに掛かった期間
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〔2〕具体的な取組内容

次に、自然災害への備えに取り組んでいる企業が具体的にどのようなことを行っているか、大きな設備投資を必要とせずとも実施できるソフト面での対策(以下、「ソフト対策」という。)と、施設整備などを必要とするハード面での対策(以下、「ハード対策」という。)ごとに見ていく。

第3-2-27図は、具体的に取り組んでいるソフト対策を示したものである。「従業員の安否確認に関するルールの策定」の回答が多く、次いで「水・食料・災害用品などの備蓄」、「従業員への避難経路や避難場所の周知」と続いている。全体として、従業員規模が大きいほど取組が進んでいる傾向にあるが、規模によらず十分に取組が進んでいない項目も多い。一般的な防災対策として挙げられる、安否確認ルールや非常食などの準備、防災訓練の実施などに比べて、被災時に活用するための取引先の連絡先リストの準備や、事業継続に必要な資金の確保、代替生産先の確保などの、事業再開に向けて必要となる対策については、実施しているとの回答が相対的に少ない。

第3-2-27図 従業員規模別に見た、自然災害への備えとして行っているソフト対策
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第3-2-28図は、自然災害への備えに取り組んでいる企業が行っているハード対策を示すものである。「建屋や機械設備の耐震・免震、耐震のための固定の実施」、「事業継続に必要な情報のバックアップ対策」、「非常用発電機などの、停電に備えた機器の導入」が上位に挙げられているが、いずれの取組も、従業員規模に関わらず取り組んでいる企業は半数を切っていることが分かる。

第3-2-28図 従業員規模別に見た、自然災害への備えとして行っているハード対策
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事例3-2-2:株式会社白謙蒲鉾店

「東日本大震災での被災を契機に、全社的に災害対策の取組を充実させた企業」

宮城県石巻市の株式会社白謙蒲鉾店(従業員193名、資本金1億円)は、1912年に創業した、蒲鉾などの製造販売事業者である。地域特産品である笹かまぼこのトップシェア企業の一つであり、石巻市中心部の本店と石巻港に近い門脇工場の2か所に主な製造拠点を有し、県内や首都圏の百貨店などに直営店を構えている。

同社は、2011年3月11日、東日本大震災に伴い発生した津波で、本店は80cm、門脇工場は6mの浸水被害を受けた。主力製造拠点である門脇工場は、泥の除去を始めとした復旧作業に時間を大きく要したものの、同年7月上旬に再開した。

被災を契機に、同社はBCPの策定に取り組み、2014年にはISO22301の認証を取得した。BCPでは、人命確保を最優先事項とし、深夜や通勤時など各自で判断が求められる時間帯に被災した場合でも、適切な行動が取れるようにすることを目的とした。そこで、従業員にも意識を定着させるため、緊急時における行動判断の基準を示した「防災・危機管理マニュアル」を作成した。内容が多過ぎて覚えられないと役に立たないため、「津波編」や「火災編」などの災害別、また、派遣社員向けやアルバイト向けなど、立場別に作成することで、簡潔で実効性のあるようにしたという。

次に、現場の声を取り入れることを重視し、毎年3月11日が近づくと、従業員とその家族を対象としてアンケートを実施し、その結果を基に事前対策を強化している。これにより、救助用ボートの購入、食糧の備蓄量の拡大、4階に避難スペースを設置した新管理棟の建設などを門脇工場敷地内に行ったという。

なお、机上演習やおう吐物処理、上級救命講習、取引業者を巻き込んだ訓練など、防災訓練は年間50回を超える。意図的に防災訓練の頻度を増減させたり、時期を開けたりするなど、工夫を行っている。

上記の取組によって、被災時に各自が自主的に考え行動できる環境を整備できたほか、副次的な効果として、人命を最優先する企業というイメージが口コミで広がり、新卒採用におけるエントリー増加という好影響ももたらしているという。

白出雄太常務は、「食品業界は食品安全への取組が優先され、事業継続が後回しになりやすいが、サプライチェーン寸断や風評被害など、災害に関するリスクは大きい。自治体による無償の支援策も効果的に活用しながら、BCPを策定していくべきだ。」と語る。同社では、今後発生が懸念される南海トラフ地震に備え、人命確保及び事業継続に資するべく、より一層の検討を進めていくという。

白出雄太常務、救命ボートを使用した防災訓練、取引業者を交えた地震津波訓練

事例3-2-3:株式会社寺方工作所

「事前対策の実施により、地震の被害を最小限に抑えた企業」

鳥取県北栄町の株式会社寺方工作所(従業員146名、資本金3,000万円)は、1946年に創業したプレス加工と金型製造を行う企業である。同社は、プリンター、パソコンのディスプレイや携帯電話から現在では自動車部品へと、時代とともに多岐にわたる技術分野へ部品・製品を提供してきた。

東日本大震災の被害状況を見た寺方泰夫社長は、災害時にも部品の供給責任を果たす必要性を感じ、取引先からの要望もあって、BCP策定に取り組んだ。

策定に当たっては、鳥取県から勧められた「鳥取県中小企業BCP策定支援補助金」を活用し、BCPに係る専門家派遣制度を利用した。管理職がワークショップ形式の議論で、専門家が用意したひな形に基づいて業務継続上の課題を具体化し、総務課職員が震度6弱の地震及び火災を想定した計画を取りまとめた。特に、2か所の生産拠点での出荷体制を整え、一定量の在庫確保と、各生産拠点での検査・出荷体制について具体的な方策をまとめ、社内や取引先との連絡体制や被害状況チェックシートなども整理した。また、消火器などの設備や落下物の危険箇所を示した避難経路図も作成し、従業員がいち早く避難できるように工場内にも掲示した。

BCP策定後も、電話による従業員の安否確認訓練で、所要時間を計測する、日常的な安全パトロールの一環で、金型などの工場内での落下防止策のチェックを行うなど、BCPの見直しとその定着に向けた取組を続けている。

BCPに基づき、注文が減少する時期に、他社で代替生産が難しい部品の生産量を維持して在庫を確保していた結果、2016年10月の鳥取県中部地震の時も、顧客への納品を止めずに済んだという。また、事前に取引先の連絡窓口や連絡書式のひな形などを整備していたため、地震発生後、早期に関係企業等に第一報を送ることができ、信頼の獲得にもつながった。さらに、日々金型の落下防止などに目を配っていたことで、金型には被害が及ばず、業務遂行上最小限の被害にとどめるなど、事前対策の効果を感じられたという。

寺方社長は、「元々BCPを策定していたが、鳥取県中部地震の経験をいかして対策を上積みしたことで、今はより実践的な対策になった。今後は、現在のBCPに載っていない、業務内容の変化に合わせて現れる新たなリスクにも対応できるよう、検討を進めていきたい。」と語っている。

同社が策定したBCP冊子、寺方泰夫社長、作成された避難経路図

事例3-2-4:株式会社戸田家

「被災時の地域貢献を見据えつつ、災害対策を重ねて自社の体制を強化する企業」

三重県鳥羽市の株式会社戸田家(従業員230名、資本金4,000万円)は1830年に割烹料理店として開業し、1868年に業態転換した老舗ホテルであり、客室数は市内最大規模の169室を誇る。

2010年に三重県が、県内の企業が防災について話し合う「みえ企業等防災ネットワーク」を設置し、同社も事務局であった三重大学から要請を受けて参加した。その中でワークショップなどの活動を行い、専門家の指導を受けながら2011年10月にBCPを策定した。現在は改定を重ね、第8版となっている。

以前から火災を想定した防災訓練は実施していたが、BCPの策定を契機に、南海トラフ地震に備えるための津波を想定した訓練も行うようになった。火災時とは違い、津波の場合は地上や下階から上階に避難する必要があるため、初訓練では混乱が生じたが、車いすの宿泊者への対応など課題が明確となった。その後、従業員から様々な提案があり、災害への意識の高まりを感じているという。

さらに、災害発生時に社長と連絡が取れないことによる混乱を防ぐため、BCPに基づいて鳥羽市内の社長宅と同社、同社から徒歩5分ほどの社員寮の3か所に無線機を設置し、緊急時に連絡を取り合える環境を整えた。なお、緊急時には寮で待機している従業員に出社を要請する体制も整備している。また、「みえ企業等防災ネットワーク」にて知り合った三重大学の教授に相談し、対策を検討してもらうことになった。厨房に定点カメラを設置して調査した結果、安全面の問題や、使用頻度の低い設備・備品や非効率な導線配置について指摘を受けるなど、さらなる対策を進めている。防災を専門とする専門家と接点ができたことは、判断に迷う難しいことでも直接相談できるため、災害対策を進める上で非常に大きいという。

現在では、災害対策に取り組むホテルとしてのイメージが形成され、行政や金融機関からの信頼も高まりつつある。2019年2月には、鳥羽市と「災害時における避難所等施設利用等に関する協定」を締結し、災害時には最大4,400人をホテル内に収容することになった。同社は、2018年に耐震工事も全て終えており、今後も被災時の避難拠点として貢献度を高めていくという。

宍倉秀明業務支配人は「今後は、受入れ拠点としての機能を一層強化し、地域の旅館全体での防災対策も推進していくつもりである。また、より広域での対応も検討し、緊急時に多くの人の支援を行えるようにしたい。」と語っている。

宍倉秀明業務支配人、同社全景、車いすの宿泊者を想定した防災訓練

〔3〕自然災害への備えを行うに当たって、支援を受けた者

第3-2-29図は、中小企業が自然災害への備えを行うに当たって支援を受けた者を示したものである。「特になし(自社のみで対応)」の割合が57.5%と最も高いものの、「行政機関」、「取引のある保険会社、保険代理店」、「地域の支援機関(商工会・商工会議所、中小企業団体中央会など)」を始めとした周囲の関係者の支援を受けている者が一定数存在することが分かる。

第3-2-29図 自然災害への備えを行うに当たって支援を受けた者
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事例3-2-5:泉谷電気工事株式会社

「商工会の伴走支援により、効率的にBCPを策定した企業」

泉谷電気工事株式会社(従業員24名、資本金8,080万円)は、1976年に現会長の泉谷隆雄氏が大阪府泉大津市で創業した、電気設備工事、情報・通信工事、空調設備工事、消防設備工事などの企画・設計・施工・保守及び関西電力株式会社の変電所工事を行う事業者である。

2013年に泉谷仁博氏が2代目社長に就任し、2017年には既存顧客との取引強化や新規顧客開拓を目指し、大阪市に本社を移転した。同社の営業エリアは和歌山、滋賀、兵庫と複数県にまたがり、それぞれの工事現場に従業員が従事している。

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、同社は被災せず、防災や事業継続の意識は低かったという。しかし、東日本大震災では、東北地方の復旧・復興優先のため、電線などの資材の供給が滞り、工期に影響が出るなど間接被害を経験した。また、同社が受け持つ現場は各地に点在しており、大規模災害が発生した際の、従業員の安否確認方法について社内から疑問の声が上がったことで、防災や事業継続に対する問題意識が芽生えたという。

そのような中、大阪府商工会連合会が主催するBCP策定支援セミナーを受講し、社会インフラである電気を支える企業として、大規模災害でも確実に事業を継続し、被災後の復旧・復興に必要な電力を供給する責任があるという想いを強くした。そこで、同連合会の事業継続計画(BCP)策定支援制度に申し込み、派遣された講師の指導によりBCPを策定した。BCPは、泉谷社長と安全衛生管理担当者、総務担当者が中心となり策定した。講師は2か月に1回、計3回派遣され、伴走支援により効率的に検討を進められ、半年ほどで計画を策定できたという。

結果、当初の課題だった安否確認方法が確立し、被災後の行動(作業継続・帰社・帰宅など)の基準も現場ごとに作られた。また、被災した従業員が帰宅できないことを考え、1週間程度の食糧を本社、事業所それぞれで備蓄している。さらに、BCP策定を通じ、火災や取引先の倒産などの事態に対しても備えが必要であるという気付きが得られたという。

また、策定に当たっては、既存のマニュアルに則るのではなく、自社独自に検討を行ったことなどが評価され、2018年度に国土強靱化貢献団体認証(レジリエンス認証)の認定を得ることができた。

同社の事業継続に関する取組は取引先からも評価されており、「BCPを策定したことで取引先の信頼を得ることができている。インフラを担う企業として、災害発生時に地域に貢献するためにも、今後も事業継続力の強化に努めたい。」と泉谷社長は語る。

泉谷仁博社長、同社のレジリエンス認証・登録証

事例3-2-6:内外香料株式会社

「支援機関の力を借りたことで、災害対策に取り組む体制を整備した企業」

東京都台東区の内外香料株式会社(従業員62名、資本金1,000万円)は、食品香料やシーズニング(粉末調味料)などの食品添加物を取り扱う企業である。東京都台東区内に本社と開発部の2拠点を構え、千葉県成田市に製造工場を有する。同社は、主に国内の製菓メーカーからオーダーメイドで製品の製造・開発を請け負い、定番商品数千点の製造に加え、取引先の新商品開発に合わせて年間1~2万点の試作品を開発し、月30~40点が新商品として採用されている。

東日本大震災発災時、自社の製造ラインに影響はなかったが、原料の仕入先の業務停止により、顧客の希望する納期に製造が間に合わないといった混乱が生じた。この経験を通じて、自社の供給責任や災害対応への意識が高まったが、社内に災害対応のノウハウがなかったことから、東京都の商工会議所が実施したBCP策定セミナーに参加することから取組を開始した。初回のセミナーでは机上でのシミュレーション訓練を行い、それ以降はBCPの目的や作成方法などについて学んだ。セミナーには主に社歴の長い従業員が参加し、そのメンバーを中心に、社内の全5部署横断で「BCP委員会」を設立し、BCPの素案を策定した。

その後、取組を次世代につなげるため、委員会メンバーを若手従業員に交代し、公益財団法人東京都中小企業振興公社が実施する個別コンサルティング支援プログラムに参加した。全3回の集中研修に参加し、計5回の個別コンサルティング支援を受けて、2017年に地震を想定したBCPを完成させた。支援を受けながら取り組むことで、被災時の優先事項と対応策を効率的に検討できたという。

以降も、BCP委員会の定例会議は2か月に1回程度開催しており、従業員の防災意識の醸成やBCPの内容について検討を行う場となっている。従業員の提案により、一部の秤を乾電池式に変えたほか、現在は非常用電源の導入に向けた検討も行っている。

BCP委員会のメンバーは通常業務と兼任であるため、策定作業の負担は小さくなかったものの、策定を通じて、災害時に起こり得る事象の洗い出しや、課題が生じた際に行うべきことが把握・整理できたことは、大きな成果だったという。今後は、東日本大震災時の混乱を経験した者としていない者の間の意識の差を埋めるため、毎年全社で実施している災害研修における情報共有や、他部署との業務の代替実施についての仕組みづくりを進めていく予定であるという。

成田事業所(工場)外観、消火訓練の様子

事例3-2-7:有限会社岩間東華堂

「地域の健康福祉拠点として、災害発生時の機能保持に向け取り組む企業」

茨城県水戸市の有限会社岩間東華堂(従業員5名、資本金300万円)は、水戸徳川家御免の生薬屋「筑波屋」として1683年に創業し、主に漢方薬を中心に扱ってきた老舗薬局である(現「岩間東華堂薬局」)。その後、まちなかデイサービス「ななほし」や「岩間東華堂クリニック」も開業し、300余年にわたり地域の健康と医療を支え続けている。

2011年の東日本大震災時、岩間東華堂薬局では医薬品や商品などが散乱し、ガラス製の薬瓶が破損した。薬剤の臭いが充満し、加えて、店の奥の倉庫も倒壊するなど甚大な被害を受けた。また、店舗入口の電動シャッターが停電の影響で閉じることができなくなってしまい、防犯のため、岩間みち子社長や子息である取締役の岩間賢太郎氏らは、店に寝泊まりしながら復旧活動を続けた。

水戸市街地のライフラインの早期復旧により、発災後3日目には業務再開したが、体調を崩した高齢者や小さな子を抱えた母親などが店に駆け込んでくる姿を見て、岩間社長は、「医薬品や医療機器を取り扱う薬局は、平時の健康情報拠点及び医療提供拠点であるとともに、災害時には、医師や医療機関と連携して地域を守る役割がある。地域の健康医療を守り抜くためにも、災害時も事業を維持できる体制を整える必要がある。」と実感したという。

こうした中、岩間賢太郎取締役は、地域のことをもっと知る必要があると考え、震災直後に地元消防団に入団した。そして、茨城県主催の「いばらき防災大学」を受講し、防災士を取得する過程でBCPの存在を知った。BCPは、大手の医療機関での策定実績はあるものの、薬局での策定がないと知り、薬局版BCPを策定すべく水戸商工会議所の声がけを受け「茨城県BCP策定支援事業」を活用、2014年度に第一版を策定した。

BCP策定後、店内のレイアウトも見直し、瓶など割れやすい薬品や重い商品は棚の下部に、紙箱に入った漢方薬などは上部に配置した。また、岩間社長中心に、停電時において自動分包機に頼らずに調剤ができるよう、手作業での分包作業方法を、職員や、薬局で受け入れている薬学生へ指導した。

このほか、緊急時における近隣の医療機関や薬局との連携体制を構築した。災害時に顧客が持参した処方箋で指定された医薬品が無く、且つ、処方した医師にも連絡がつかないような場合には、近隣の医療機関と交わした「医療の提供についての同意書」に基づき、近隣薬局と相互に薬剤の不足分を補うこととしている。

BCPによる事業継続環境が整備されたことで、2015年9月に発生した茨城県内の大雨では、BCPに添付していたハザードマップを確認しながら、薬局周辺の安全を確認し、状況が悪化する前に従業員を帰宅させるなどに役立ったという。

岩間賢太郎取締役は「今後もBCPの整備を進め、被災時においては地域の健康情報拠点・医療提供拠点としての役割を果たしたい。」と語る。

同社外観

事例3-2-8:協同組合横浜マーチャンダイジングセンター

「災害対策の取組を牽引することで、組合員の事業継続力強化につなげている協同組合」

神奈川県横浜市の協同組合横浜マーチャンダイジングセンター(以下、「MDC」)は、横浜市金沢区の埋立地に進出していた卸売事業者などにより設立された組合で、1980年に卸商業団地の造成を協同して実施した事業体である。組合員86社にて構成され、共同保有施設の組合会館(会議室、飲食店)や駐車場を経営するとともに、組合員に対する共同経済事業(共同販売・研修など)などを実施している。

新潟県中越地震等を契機に、組合員の防災意識が高まったこと、卸商業団地が液状化するリスクがあると判明したことを通して、MDCが先導して防災・減災対策に着手した。

取組は複数年かけ、三つのステップで進めた。はじめに、卸商業団地に立地する事業者の従業員が災害時に安全に非難し、命を守ることが事業継続につながるとの考えから、「BCP推進委員会」を組成し、「安全な避難経路と避難場所」を設定した。加えて、団地内を12ブロックに編成し、「防災指導員」と「自衛消防隊」を組成したほか、災害時の対応組織として組合理事長を本部長とする「災害対策本部」を設置した。また、各種防災機器(ジャッキ、スチールカッター、発電機、ストレッチャーなど)を配備するとともに、年2回の「合同防災訓練」を通して、実働環境も整えた。

第二に、個別企業の防災力を高めるため、各企業でのBCPの策定を促す取組を行った。中小企業が無理なくBCPの策定ができるようマニュアルを作成するとともに、複数の事業者をモデルにBCPの検討を行い、各社の計画内容を相互に発表・意見交換することで、ノウハウの共有・相互協力意識の向上を進めた。結果、組合員の意識が醸成され、BCPを策定していなかった30社の中小企業の組合員のうち、12社においてBCPが策定された。

第三に、団地内事業所が被災しても、経理情報などを別の場所で復旧・活用できる環境を整備した。バックアップができるクラウドサーバーの構築を進めるとともに、県卸商業団地組合協議会を構成する4団地で「災害時団地間相互応援協定」を締結し、災害発生時において物資供給、備品貸与、倉庫・駐車場等の一時貸与や人的な相互支援を行うこととした。結果、被災しても他の団地で事業継続できる環境を整えることができた。

同組合では今後、災害直後に必要となる「資金調達」、商品流通に欠かせない「輸送手段」の確保などについて、関係機関との協議、調整を進めていく予定である。

自衛消防隊の救助訓練、自社BCPマニュアル作成発表会

〔4〕自然災害への備えに取り組んでいない理由

第3-2-30図は、自然災害への備えに取り組んでいない企業について、その理由を示したものである。最も回答が多いのは「何から始めれば良いか分からない」であり、「人手不足」、「複雑と感じ、取り組むハードルが高い」と続いている。このように、災害への備えについてのノウハウが不足しがちな中小企業においては、取り組むに当たっての心理的ハードルも高いと推察され、こうした企業に対しては、周囲の関係者が支援を行うことが効果的な可能性がある。他方、「法律や規則での要請がない」、「顧客や取引先からの要求がない」といった他律的な要因がないために取り組まないとする回答や、「被災した時に対応を考えれば良い」、「災害には遭わないと考えている」といった回答も一定数存在しており、災害への備えの必要性について一層の啓発の余地があると考えられる。

第3-2-30図 自然災害への備えに取り組んでいない理由
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第3-2-31図は、前掲第3-2-30図で「何から始めれば良いか分からない」と回答した企業における、自社の地域のハザードマップの確認状況を示したものである。「何から始めれば良いか分からない」と回答した者のうち、ハザードマップを見たことがある者の割合は28.9%にとどまり、7割以上の者がハザードマップを確認していないことが分かる。さらに、ハザードマップを見たことがない者の約33%は水害による浸水リスクを抱えており、こうした企業が被災すれば大きな事業上の被害を受ける恐れがある。ハザードマップは国土交通省のホームページ8や各地方自治体などで公開されており9、容易に見ることができる。自然災害対策を考えるには、まずは、ハザードマップを確認することから始めるのが良いといえよう。

8 詳細は、コラム3-2-2を参照。

9 ハザードマップが整備されていない地域もある旨に留意が必要である。

第3-2-31図 「何から始めれば良いか分からない」と回答した者における、ハザードマップの確認状況
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コラム3-2-3

自然災害に対する防災・減災のための事前対策例

自然災害の発生時において被害を軽減させ、中小企業におけるその後の事業継続につなげるためにも、事前に対策を講じておくことは重要である。他方、自然災害への事前対策の種類は多岐にわたり、対象とする自然災害の種類によって備えの内容も異なることなどから、具体的にどのような取組を行えば良いか判断のつかない事業者も存在すると考えられる。

2018年11月から中小企業庁にて開催された、「中小企業強靱化研究会10」における中間取りまとめでは、自然災害の種類ごとに、効果的と考えられる具体的な事前対策の例を示している。

10 頻発する自然災害等に対し強靱な中小企業経営を確保し、中小企業の事業継続のために必要な官民の取組について検討するために設置・開催。2018年11月より、5回の研究会を経て、中間取りまとめを行い、「中小企業・小規模事業者強靱化対策パッケージ」として、中小企業の防災・減災対策を加速化するための総合的な取組についてまとめている。
詳細は、(http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kyoujin/190131torimatome.htm)を参照。

災害全般に関する対策

地震に関する対策

水災に関する対策

資料:中小企業庁「中小企業強靭化研究会中間取りまとめ」(2019年1月)より

〔5〕まとめ

本項では、中小企業における自然災害への事前の備えの取組状況を見てきた。具体的な備えに取り組んでいる中小企業の割合は半数に満たず、取組を拡大する余地が大きいと考えられる。第1節でも見たように、経営資源が脆弱な中小企業は一たび被災すれば、物的損失にとどまらず、営業停止、取引先の減少、売上高の減少といった事業上の影響を受ける恐れが高い。災害への備えはこうした被災時の事業影響の軽減に資するものであり、実際に、災害への備えに取り組んでいる者では、下がった売上が元に戻るまでの期間が短かった。

また、備えに取り組んだ理由としては、自身の被災経験や国内の災害報道が多い一方、行政機関、販売先を始めとした、周囲の勧めがきっかけとなっていることも分かった。リスク認知の取組と同様に、周囲の関係者の働きかけが重要であると考えられる。

他方、自然災害への備えに取り組んでいない理由として、何から始めれば良いか分からないという回答が比較的多かった。こうした企業について、取組の第一歩と言うべきハザードマップの確認状況を見てみると、確認している企業の割合はあまり高くはない一方、その中には実際に浸水リスクを抱えている事業者が一定数含まれていることが分かった。

今後も発生が懸念される自然災害による被害を軽減するためにも、事前に対策を講ずる者が増加していくことが期待される。

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