第2部 経営者の世代交代

第5節 まとめ

本章では、経営者が引退する企業からの、経営資源の引継ぎについて概観してきた。

第1節では、経営者引退の全体像を確認した。経営者の高齢化が進み、経営の担い手の数も減少しており、このままでは中小企業が持つ貴重な経営資源が散逸してしまう恐れがある。そのため次世代に経営資源を引き継ぐ取組が重要である。経営資源の引継ぎには、事業承継のほか、廃業企業から経営資源を引き継ぐという形もある。

第2節では、事業承継について分析した。事業承継の形態別で、後継者を決定する上で重視した資質・能力、有効だと感じた後継者教育に違いがあることが分かった。これから事業承継を検討する経営者は、それぞれの状況に応じた後継者探しや後継者教育を検討することが大切だと考えられる。また、効果的な後継者教育を行うためには、十分な時間が必要であり、早めに準備することが大切である。さらに、事業承継後の企業のパフォーマンスについて見ると、事業承継を実施していない企業に比べ、売上高や資産が増加傾向にあることが分かった。事業承継は、企業の財務状況向上に貢献する傾向があると考えられる。

第3節では、廃業企業からの経営資源の引継ぎについて見てきた。「従業員」、「販売先・顧客」、「設備」、「事業用不動産」について保有する廃業企業のうち、約半数が他者に引き継ぐことができていることが分かった。他方、廃業にあたって経営資源の引継ぎを行っていない経営者について、引き継がなかった理由を確認すると、経営資源ごとに異なるが、「引継ぎするという発想がなかった」、「引き継ぐ価値があるとは思わなかった」、「引継ぎ先が見つからなかった」というものが多かった。このことから、廃業に当たって、経営資源の引継ぎという選択肢があることの周知、経営資源の引継ぎを検討する上での価格算定、経営資源のマッチング、などの支援ニーズがあると考えられる。また、廃業企業の収益状況について確認すると、高い利益水準にあった企業が、徐々に利益率を減少させた後に、休廃業・解散するに至る場合があることが分かった。収益状況が悪化していく前に、早めに先を見据えた経営改革もしくは事業承継・廃業の準備をすることが重要だといえよう。

第4節では、経営者引退時と引退後について概観した。経営者引退に際しては、様々な課題があり、準備期間を長く確保することが余裕につながると分かった。また、引退後の経営者の状況を確認すると、収入の状況はそれぞれだが、生活の満足度については、事業承継した経営者・廃業した経営者とも、「満足」、「やや満足」している者の回答が多かった。多忙さや責任感から離れることで、肩の荷が下りたと感じている者が多いと考えられる。

経営者は、誰しもいつかは引退するものである。経営者として有終の美を飾り、これまで作り上げてきたことを未来の価値につなげていくには、引退が視野に入る早い段階から、事業や経営資源の引継ぎや、自身や周囲の人の暮らしの満足に向けた準備をすることが重要である。

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