4 まとめ
第1項では、経営者引退前の状況について見てきた。経営者引退にかかる懸念事項、実際に問題になったことは、「自身の収入の減少」、「顧客や販売先、受注先への影響」、「従業員への影響」など様々ある。経営者引退に関する相談先は大半が「公認会計士・税理士」となっており、その相談内容は、「引退するまでの手順や計画を整理できた」が最も多い。経営者引退というデリケートな相談内容であるが、それぞれ強みを持つ支援機関から助力を得ることができれば、解決する課題もあるだろう。経営者引退の準備期間を長く取り、余裕をもって、専門機関・専門家に相談することが、滞りない引継ぎにつながると考えられる。
第2項では、経営者引退に際した借入金の状況について見てきた。廃業した経営者について、引退決断時に借入金がある割合は少ないが、事業承継した経営者に比べ、経営者保証割合が高い。また、廃業した経営者は、完済に向けた借入金の返済に際して、個人や家族の資産を原資とする割合が高い。倒産した場合だけでなく、廃業をした場合も、経営者の引退に際し、個人資産を減少させてしまっているケースが一部ではあるが存在すると考えられる。
第3項では、経営者引退後の状況について見てきた。引退した経営者のその後の状況を確認すると、収入の状況はそれぞれだが、生活の満足度については、事業承継した経営者・廃業した経営者ともに「満足」、「やや満足」とした回答が多かった。理由としては、「時間的余裕がある」、「精神的余裕がある」とする割合が高く、多忙さや責任感から離れることで、肩の荷が下りたと感じている者が多いと考えられる。経営者を引退することは決して後向きなことではないといえよう。また、引退準備の期間を長く確保する方が、引退後の経営者の生活の満足度の向上につながるということが分かった。経営者として有終の美を飾るためには、引退後の生活を見据えるという観点からも、早めの引退準備が重要であるといえよう。
コラム2-1-7
事業承継や廃業にあたっての意見(生声集)
本章の分析で用いた「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」では、引退した経営者から、事業承継や廃業に当たっての意見を聞いている。将来、事業承継や廃業を考えることになる現経営者などの参考として、意見の一部を紹介する。
●当初は60才で代表を退く予定であったが、後継者の引継ぎへの覚悟を待つ時間として5年を要した。早めに準備し、後継者本人にその気になってもらうことが大切である。 (福岡県 不動産業、物品賃貸業)
●廃業は余力のあるうちにするのが理想的だと思う。我社は5年かけて少しずつ事業を縮小していった。結果的に、周りへの影響を最少に抑えられたと思う。 (東京都 卸売業)
●技術・ノウハウの引継ぎへの考えの甘さが、反省点となる。人材育成が不足していた。(愛知県 学術研究、専門・技術サービス業)
●事業の将来性について、後継者ともっと早くより話し合うべきだった。事業環境の変化に、自分の能力で対応ができなくなってしまった。成長期に培った自信を捨てきれなかった。(滋賀県 小売業)
●M&Aであれ親族間譲渡であれ、会社を他に譲るに当たっては、事前の「整理整頓」が大変重要だと経験に基づき考える。Happy Retirementとするため、これから会社の代表者になる人に是非認識して欲しい。(岩手県 製造業)
●引退した経営者の経営ノウハウなど、活用できるものが多くあると思うが、それらが消滅してしまうのが勿体ないと思う。後進に伝えたいものがあるので、それを行う場があってもよいと思う。(山形県 情報通信業)