第1部 平成30年度(2018年度)の中小企業の動向

第5節 まとめ

本章でははじめに、少子高齢化を原因とする人口減少及び年齢構造の変化について見たあと、就業率の上昇によって就業者数自体は増加傾向にあることを確認した。求人倍率は年々上昇傾向にあり、従業者規模別に見ると規模の小さな事業者程求人数が多く人手不足の状況にあり、また業種別に見ると人手不足の度合いに差が生じていることも分かった。

上記のような人手不足の状況下で、中小企業の労働生産性について見ると伸び悩んでおり、企業全体で見てもOECD加盟諸国の中でも低い水準に位置しており、全企業数の99.7%を占める中小企業の労働生産性を上げることは喫緊の課題と言える。

労働生産性向上の鍵となる労働環境について見ると、賃金は伸び悩み、休暇取得状況についてもまだ改善の余地がある。働きやすさを求めて中小企業に入職した者を離さず、中小企業が稼ぐ力を身に着け労働生産性を向上させるためには、これらの課題に正面から向き合った労働環境づくりが重要である。

事例1-4-1:フルヤ工業株式会社

「外国人人材の受入れを技能実習生から高度人材へ拡大した企業」

兵庫県篠山市のフルヤ工業株式会社(従業員数148名、資本金4,500万円)はあらゆる業種のプラスチック製品を取り扱う製造業者である。種々のプラスチック特殊射出成型技術を駆使し、製品企画から設計開発まで提案できる点が特徴である。1918年創業の同社には、ベトナム人受入れについて15年の歴史がある。

2002年に、降矢寿民社長は、ある海外研修会で初めてベトナムを視察した際に、ベトナム人の器用さや真面目さに感嘆し、帰国後ダイレクトメールでベトナム人の外国人技能実習制度を知り、ベトナム人受入れの検討を始めた。しかし、外国人受入れのノウハウが全くなかったので、まず、ベトナム人を受け入れている取引先を探して見学を願い出た。見学したところ、自社でも受け入れられそうだと判断し、ベトナムの人材紹介機関に紹介を依頼して2003年に技能実習生2名を受け入れることにした。受入れ前は現場に不安の声が多かったが、実際に受け入れてみると働きぶりへの評価が高く、人数を増やすことになった。同社では、週1回、定刻後に日本語教室を継続して開いたり、総務の社員が隙間時間に日本語の個人指導を行ったりと、言語の習得支援に積極的に取り組んでいる。技能実習を終えてベトナムに戻った後に、同社と類似のプラスチック事業を立ち上げた者もいるなど、同社の技能はベトナムでも活用されている。現在では、28人のベトナム人技能実習生が同社で活躍している。

また、同社は高度外国人材1も受け入れている。2008年には、ベトナム人技能実習生のコミュニケーションを円滑にするため、技能実習生の面倒を見ることができるベトナム技術者を正社員として採用した。2017年には、国内で確保できなかった金型の技術者を1人採用した。この金型の技術者は、付き合いのあるベトナムの人材紹介機関に相談し、日系企業に勤務する金型技術者の紹介を受け、実際に現地での勤務ぶりを見学して採用を決めた。当時は、企画や設計を顧客に提案できるほどの水準ではなかったが、金型の知識や機械の操作には問題はなかった。現在では、日本語もマスターし、同社の企画や開発に欠かせない一線級の技術者となっている。

1 ここでは高度外国人材を、「高度外国人材活躍推進ポータルサイト(Open for Professionals)」の「高度外国人材とは」(https://www.jetro.go.jp/hrportal/forcompanies/about.html)に記載されている以下の1.2.3.のいずれかに該当する人材としている。
1.在留資格「高度専門職」、「研究」、「技術・人文知識・国際業務」、「経営・管理」、「法律・会計業務」、「企業内転勤」等のいわゆる「専門的・技術的分野」に該当するもの
2.採用された場合、企業において、研究者やエンジニア等の専門職、海外進出等を担当する営業職、法務・会計等の専門職、経営に関わる役員や管理職等に従事するもの
3.日本国内または海外の大学・大学院卒業同等程度の最終学歴を有している

現地での面接時、この金型技術者には妻子も一緒に日本で生活することを勧めた。降矢社長は「高度外国人材は、日本国内での転職が自由なため、技能実習生以上に配慮している。奥さまが安心して生活できることがエンジニアの長期就労につながると考えている。」と語る。初めての日本で言葉もままならない状態では精神的に落ち込みやすいため、帯同してきた妻も雇用して、ベトナム人技能実習生と交流できる機会を設けた。同社では、日頃からの積極的な声掛けなどベトナム人のストレス解消や日本人との融和に気を配っている。

定刻後の日本語教室、技能実習生を指導中のベトナム人技術者
前の項目に戻る 次の項目に進む