中小企業庁長官 令和8年 年頭所感

中小企業庁長官

 

令和8年という新しい年を迎え、謹んで新春の御挨拶を申し上げます。

昨年は、熊本県での記録的大雨や、青森県東方沖を震源とする地震をはじめとして、多くの自然災害が発生した1年でした。被災された皆様にお見舞いを申し上げるとともに、なりわいの再建に全力を尽くします。また、能登半島地震から2年が経過いたしましたが、引き続き現場に寄り添った支援策を講じてまいります。

また、昨年は大阪・関西万博が開催され、大変な盛況を博しました。中小企業庁でも、中小企業基盤整備機構と共催で、社会課題や時代の変化に対する中小企業の挑戦を発信する展示を行いました。日本の中小企業の、社会課題の解決に向けた果敢な挑戦が、「いのち輝く未来社会」の実現につながるよう、万博の閉会後も、中小企業の皆様の挑戦を支援してまいります。

国内経済の状況を見ると、昨年の春闘労使交渉では、一昨年を更に上回る高水準の賃上げ率となり、最低賃金も歴史的な高水準となりました。賃上げの機運は着実に高まっているほか、国内投資も100兆円を超えるなど、「潮目の変化」が定着しつつあります。一方で、地域や規模によって、投資や賃上げの程度にはばらつきがあります。さらに、中小企業・小規模事業者の皆様は、最低賃金を含む賃上げはもとより、物価高や人手不足、米国関税措置等も相まって、厳しい経営状況におかれているものと承知しております。
中小企業・小規模事業者が生産性を上げて賃上げ原資を獲得し、賃上げにつなげていくことが、我が国の経済成長にとって極めて重要です。

また、現時点でも約6割の中小企業が人手不足の問題に直面しているほか、我が国は人口減少や少子高齢化という構造的要因に直面しております。そのような「労働供給制約社会」において、企業の投資や生産性の向上により「稼ぐ力」を高め、筋肉質な「強い中小企業・小規模事業者」を目指して経営を行っている中小企業・小規模事業者の役割が極めて重要です。

こうした認識のもと、中小企業庁としては、「強い中小企業・小規模事業者」を目指す企業・事業者の支援策として、「価格転嫁・取引適正化の推進」「成長投資支援」「生産性向上支援」の3つと事業承継・M&A、金融といった欠かせない事業環境整備を本年も強力に推進してまいります。

中小企業庁は、本年度も価格転嫁・取引適正化の推進に全力で取り組みます。物価上昇に負けない大幅な賃上げを成し遂げるには、賃上げ原資の確保が不可欠であり、価格転嫁・取引適正化の徹底に向けて更なる後押しが必要です。昨年度の通常国会で改正した中小受託取引適正化法(取適法)・受託中小企業振興法(振興法)が本年の1月1日に施行されました。取適法・振興法の着実な執行等に努めます。さらに、価格交渉促進月間フォローアップ調査を実施し、価格交渉・転嫁等の状況の整理・把握に努めるほか、国・地方自治体の公共調達の契約金額が物価上昇等を適切に反映したものとなるよう、関係省庁一丸となって見直しを強力に進めてまいります。

また、中小企業の「稼ぐ力」の強化に向け、中小企業の成長支援を一層強化してまいります。特に、売上高100億円を超える「100億企業」は、直接輸出額や域内仕入高が大きく、賃金も高いなど、国内投資や地域経済を牽引していくような存在です。昨年5月に、売上高100億円へ成長する目標を掲げる「100億宣言」の受付を開始して以来、既に2,000者を超える企業から宣言をいただいており、全国各地での経営者ネットワークイベントの開催等を通して、「100億企業」が一層増えるよう取り組んでまいります。令和7年度補正予算では、「100億宣言」をした企業の意欲的な投資を実現するための支援の抜本的拡充・強化を行っており、「100億企業」の創出に向けた大胆な取組を進めてまいります。

さらに、労働供給制約が深刻化する中では、人も企業も数より質が重視されるとの前提のもと、「強い中小企業・小規模事業者」への行動変容を促すためには、中小企業の生産性向上への取組は極めて重要です。中小企業庁では、今後も引き続き、ものづくり補助金や省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金により、中小企業・小規模事業者の生産性向上・省力化投資を支援してまいります。

雇用や地域機能を支える中小企業を維持・存続させるだけでなく、経営革新による生産性の向上及び事業の成長を通じた賃上げにつなげていくためにも、戦略的な事業承継・M&Aは重要な手段です。中小企業庁としては、設備投資や専門家活用等への支援を通じた円滑な事業承継・M&Aを推進してまいります。また、昨年策定した「中小M&A市場改革プラン」に基づき、金融機関等との連携による事業承継・引継ぎ支援センターを中心とした支援体制の強化や、中小M&Aアドバイザーに係る資格制度の創設に向けた検討等の施策に取り組んでまいります。さらに、親族内承継に関する有識者検討会での議論も踏まえて、事業承継に係る施策のあり方についても議論を深めてまいります。

多様な事業を創出し、地域の経済成長や雇用を支えている小規模事業者は、大変重要な存在です。昨年度の経済対策では、重点支援地方交付金を活用した、地域の実情に応じた賃上げ支援や、商工会・商工会議所やよろず支援拠点等によるプッシュ型の伴走支援体制の強化を通して、全国津々浦々の支援体制の整備を図りました。時代の変化に応じて経営力を向上させ、「強い中小企業・小規模事業者」を目指す小規模事業者を全力で応援してまいります。

令和8年の干支である「午」は、スピード感や力強さの象徴といわれております。中小企業庁も、馬のように勢いよく力強く、皆様の挑戦、成長を後押しし、現状維持ではなく、変化に挑む企業や人が報われる形に軸足を移していきたいと考えております。ヘビー(巳)な昨年を乗り越えた皆様にとって、本年がうま(午)く事の運ぶ、飛躍的な進歩を遂げられる一年となるよう心より祈念し、新年の御挨拶とさせていただきます。

 

令和8年元旦
中小企業庁長官 山下 隆一

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