平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦
事業の経緯
賑わいを取り戻すために、民間出資のまちづくり会社を設立
勝田駅を軸とする中心市街地は昭和17年頃から大企業の社宅が次々に建設され、居住者が増加していった地域である。それに連動する形で、住民の日々の買い物や食事処として発展してきたのが表町専門店商店街。しかし、その後昭和50年代後半頃から社宅が次々に廃止されたことで居住者が減少し、さらに大型店の台頭などが拍車をかけ商店街を取り巻く環境は厳しいものとなっていった。
その結果、商店街内の八百屋など生鮮三品を扱う店や小規模小売店は次々と経営難となり廃業。平成24年には商店街が立地するひたちなか市の大型店の面積比率は、全体の売場面積の80%を超えるまでになってしまっていた。空き店舗は増加していき、歩行者通行量も加速度的に減少していった商店街であったが、そのような中でも増加していったのが飲食店やサービス業であった。この状況から、今後商店街は単に“モノ(商品)”を売る場から、より“コト(体験)”の魅力を売る場へと変わっていき、さらには地域住民が活動する場として機能する必要性があることに気づき、この考えをもとに商店街はひたちなか商工会議所と連携のもと中心市街地の再生を検討していくこととなった。
そこで、まず最初に取りかかったのが再生計画を実行するための組織づくり。第一に「まちおこし」、第二に「稼いで継続的に事業を実施する」ことを念頭に置き、大分商工会議所や株式会社大分まちなか倶楽部などの他地域で成功しているまちづくりの現場を視察した。それらの分析から、行政ができないこと、商店街・商工会議所ができないことを迅速に行うことができる組織が必要であると考え、自治体などからの出資を仰がず、地元民間企業や商店街、商工会議所などの出資による民間主導の「ひたちなかまちづくり株式会社」を平成27年4月に設立。機動性と柔軟性がある組織が誕生したことで、次なるステップである再生計画の実行に移していった。


事業の展開
地域住民の活動拠点としてカフェ・スタジオ・多目的ルームをオープン
商店街は飲食店が多くなったことでその必要性を見いだすことができた反面、夜の商店街利用率が高く日中の来街者が減少した状態が続いていた。そこで、まちづくり会社は、
駐車場が欲しいという商店街と多くの市民のニーズに応えて、表町パーキングTAMARIBAの整備・運営と勝田TA・MA・RI・BA横丁イベントを実施。次に、表町商店街の中央部に位置する3階建ての空きビル「にこにこプラザ」のリノベーションによって、商店街の賑わい・活性化の拠点施設の整備に取り組んだ。
本事業を進めていく中で、日中の来街者が少ない現状においては昼間の利用客を収益源とするカフェやスタジオは難しいとの意見もあった。しかし、利益優先の民間企業が敬遠する事業だからこそ、「まちおこし」を第一に掲げるまちづくり会社が先陣を切って行わなければ商店街の再生は達成できないと考えて挑戦した。
ただし、失敗に終わることがないよう、地域住民に対する綿密なニーズ調査や商圏などのマーケティング調査を実施し、第二の「稼いで継続的に事業を実施する」ことに尽力した。
1階のコミュニティカフェ「cafe
tamariba」はまちづくり会社が直営し、運営を安定させるためスタッフとしてカフェ経験者2名を採用。ランチを中心に女性客を呼び込んでいる。そして、夜はcafe
barとしてカップルや男性客を中心に、人気を博している。その後、シェフや接客サービス係のパートを入れ、ランチメニューも増やすなど客の利用増に努めている。
2階は壁に大きな鏡を設置したスタジオ施設となっており、地元の子どもたちのバレエ教室、女性向けのハワイアンダンス教室、ヨガやストレッチ教室など様々な用途に利用されており、30代〜50代の女性で子育てがひと段落したお母さん方に多く利用されている。また、3階は地域住民の学び・交流の場として利用できる多目的ルームを開設。ワークショップや地域の勉強会などに広く利用されている。
ここで、まちづくり会社は本施設の継続性を担保していくため、整備した駐車場の収益をもとに、立ち上げ間もない「にこにこプラザ」の運営費を一部捻出している。
また、カフェや商店街の認知度をアップさせるため、商店街とまちづくり会社が連携して、勝田TA・MA・RI・BA横丁イベントを定期的に開催。1回あたり集客する1,500人〜1,700人に対してPRを実施している。
さらに、ひたちなか市と協賛し絵画コンクールを開催。商店街では受賞作品をパネルに貼って店頭に展示する「表町アート」を実施し、親子に関心を持ってもらうとともに、カフェへの誘客も期待される。


事業の成果
「たまり場」ができて利用者が増えつつあり、日中の商店街の回遊に期待
1階のコミュニティカフェは徐々に利用者が増加してきてはいるが、開業してから間もないこともあり黒字運営とまでは至っていないため、従業員の練度を向上させることや広報を積極的に行うことでさらなる利用につなげていく予定だ。
2階のスタジオは平均して月500人ほどの利用があり、稼働率も50%を超えるまでになっている。教室を利用した住民が、その後カフェを利用するなど相乗効果も出ている。また、スタジオの利用料金を低く設定したこともあり、自宅でストレッチ教室などを開いていた方などがスタジオを活用するという事例も増えている。
3階の多目的ルームでは、商店街環境調査などで連携してきた茨城大学が商店街・まちづくり会社の取組に関心をもち、単位が取得できる正式な授業の場として3日間の講習を実施するなど活用の幅が広がっている。
一連の取組の結果、商店街としては空き店舗が減少したほか、坂東市中心商店街から視察がありその後まちづくり会社が設立されるなど波及効果も出てきている。


今後の事業展開
利用者の拡大で事業を継続し“モノ”から“コト”を売る場へ
今後は事業継続のために、癒しと健康のコンセプトを明確にし、利用者の拡大を図り収益性の向上を目指す。1階のコミュニティカフェでは新鮮な地場野菜を取り込んだメニュー開発を実施して、主婦層の利用につなげていく。また、2階のスタジオは現在順調なスタートを切っているが、さらなる稼働率向上を目指し積極的な広報を展開。3階の多目的ルームは、今後起業者向けのレンタルオフィスなどとしての活用も検討中だ。
そのほか、商店街はまちづくり会社と連携して、毎月第3日曜日に駐車場を利用したTA・MA・RI・BAフェスなどのイベントを盛り上げていく計画だ。また、「まちゼミ」を多目的ルームも活用しながら開催していくことで、“モノ(商品)”を売る場からより“コト(体験)”の魅力を売る場に商店街を変えていく。さらに、まちづくり会社が主体となり、空き店舗にレンタルスペースや昼間開店できるテナントを誘致することでシャッターを開けていき、商店街の日中の来街者を増やしていく計画だ。


(お問い合わせ先) 中小企業庁経営支援部商業課電話:03-3501-1929(直通) |