トップページ 商業サポート 商業活性化 平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦 志賀商工会/カラクリワークス株式会社

平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦



事業の経緯

人口減少が進む志賀島
空き家バンク事業で創業希望者の呼び込みへ

 「金印(漢委奴国王印)」が発見された地として有名な福岡市の志賀島。「島」と付くが砂州によって九州本土と陸続きになっており、福岡市中心部からは都市高速道路経由で約40分の距離だ。バスや船によるアクセスも便利で、特に夏季には海水浴やマリンスポーツを求めて多数の人が訪れるが、観光動線である志賀海神社までの参道には食堂やクリーニング店、干物販売店など11店舗が営業しているのみで、島内には観光客が消費活動をするような場所はほとんどなかった。
 市街化調整区域として開発が規制されていたこともあり、住民のほとんどが土地や住宅を先代から引き継ぎ漁業などを営んできたが、近年は福岡市中心部への人口流出や少子高齢化の影響で地域活動の担い手が激減。長期間管理されずに放置された空き家が島内に点在する結果となった。
 「このままでは地域の商業が成り立たない」という危機感を抱いた商工会は、市の条例改正による土地利用の制限緩和を機に、志賀島に住みながら働く人をサポートする空き家バンク事業(リーシング事業)の実施を計画。地域活動の担い手として外から人を呼び込むとともに、新規開業を支援することで、観光客が楽しめる新たなコンテンツの創造を目指した。

事業の展開

空き家情報提供サイトをオープン
入居可能な物件を内覧できるツアーも開催

 平成26年度に市と協働して実施した空き家調査では、島の入口に当たる馬場町と本町だけでも約20軒、志賀島全体では約70軒の空き家が存在することが判明していた。まずはこれら空き家の中から賃貸できる物件を選別しその管理を行い、創業兼移住希望者の相談窓口を設置しようと考えた。
 事業の実施に当たっては、福岡市に本社を置くカラクリワークス株式会社(以下、「カラクリワークス」)と連携。カラクリワークスは平成26年に志賀島の交流拠点としてレンタサイクルとカフェを兼ね備えた「シカシマサイクル」をオープンさせており、地域の団体とともにサイクルツーリズムを推進するなど、志賀島活性化のための活動を行ってきた。
 自ら志賀島に新規店舗を開業した経験を活かして、カラクリワークスが運営事務局を担い、新規創業希望者の事業計画作成の支援や地元事業者との調整などは商工会が担当することとなった。
 自治会の協力を得ながら空き家所有者への意向調査や説明会を繰り返し実施し、平成28年2月には4軒の空き家を登録した状態で空き家情報提供サイト「みちきり」を公開した。
 紹介する空き家は全て住居兼店舗としての利用が可能だが、特徴的なのは入居者が自由に改装することが可能で退去時の原状回復が不要であることだ。カラクリワークスの山﨑基康氏はこの条件について次のように語る。
 「僕たちが『シカシマサイクル』をオープンさせるときに、好きに改装していいと言われたのが一番ありがたかった。志賀島で新たに開業したいという人たちも、その場所をつくるところから自分たちでやりたい人たちだと思ったので、創造性を十分に発揮できる仕組みが必要だと思い、この条件を承服してもらえるよう地道に所有者の方にお願いをしてきました」
 この条件をのんでもらう代わりに空き家所有者に提示しているのが、「引き渡し時の空き家内整理不要」だ。空き家バンクに登録されている物件には、布団や服、棚など所有者が放置していった物が多数残されており、これらを片付けるところから入居者の改装は始まるのだ。可能な限り所有者に手がかからないように、そして、入居者の手のかけ甲斐があるように、両者の利が一致する独自のルールを構築した。
 また、空き家所有者と入居者が直接やりとりを行うのではなく、運営事務局であるカラクリワークスが仲介を行う形をとっており、安定的な運営につなげている。「シカシマサイクル」を開業させた時の経験やノウハウを伝えるほか、プロ用工具の貸し出しや廃棄物の処理の手伝いなど細かなサポートも行っていく。
 平成28年3月からは、空き家バンク登録物件を実際に内覧できる「みちきり貸家ツアー」を毎月開催。物件の特徴や入居後の流れ、改装にかかるサポート体制などを説明し、具体的なイメージを持ってもらうことで、入居後のトラブルの発生を防いでいる。
 毎回3~4組の参加があり、特に福岡市内からの移住を考えている人の参加が多い。実際に志賀島を歩いて回ることで、地域全体の雰囲気を掴むこともできると、参加者からの評判は上々だ。



事業の成果

開業&移住第1号はカレー店
2店舗目の雑貨屋開店準備も進行中

 平成28年12月1日、空き家バンクを活用した新規開業&移住第1号として、志賀海神社の参道入口にカレー店「MEGANE CURRY」がオープンを果たした。オーナーは元Webデザイナーの男性で、福岡市南区からの移住者だ。平成28年3月13日の第1回「みちきり貸家ツアー」の参加者で、8月には勤めていた会社を退職した。選んだ空き家は2階建てで、1階を店舗、2階を住居としている。地域住民らの協力やクラウドファンディングの活用で、柱や玄関の土間部分の撤去などを行った。志賀島の米を使ったチキンカレーが地域住民から好評だ。
 また、平成28年12月には別の空き家にも入居希望者が現れ、平成29年6月頃の雑貨屋開業を目指して準備が進められている。

今後の事業展開

空き家バンク事業による新規開業とサイクルツーリズムの連携を計画

 現在の空き家バンク事業は、島内でも規制緩和が認められた馬場町と本町だけを対象としている。商工会ではほかの地域にも同様の取組を広げていきたい考えだが、そのためには自治会の合意を得て市に申請を行う必要があるため、引き続き空き家の現況調査や住民たちとの勉強会を継続していく予定だ。並行して馬場町・本町で新たに空き家バンクに登録できる物件の掘り起こしも進めていく。さらには志賀島のコミュニティにあった人に開業・移住してもらえるよう、体験移住などの実施も検討中だ。
 また、平成27年度には観光客向けのイベント事業として商店街の店主などが講師となった「手縫いdeがま口教室」「おいしい紅茶教室」や、サイクリスタ集客イベントを開催しており、今後は空き家バンク事業で新たに開業した事業者との連携を図ったイベントなども計画していく方針。特にサイクリスタ集客イベントでは福岡市内の自転車販売店と連携し市内から志賀島までのサイクルツーリズムを実施、ゴールの志賀島で志賀島産の海産物や干物のBBQ、地元郷土料理であるサワラ飯や旬のワカメを使った味噌汁を振る舞ったことで、志賀島の特産品や自然環境のPRにもつながった。今後も年齢や性別を問わず参加できるような工夫を凝らし、志賀島を訪れるリピーターの増加を狙う。


(お問い合わせ先)

中小企業庁経営支援部商業課
電話:03-3501-1929(直通)