トップページ 商業サポート 商業活性化 平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦 基山モール商店街協同組合/ちびはる保育園

平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦



事業の経緯

町内の消費低迷を踏まえ、商店街の機能転換を図ることの必要性を認識

 基山モールはJR基山駅前の再開発や街路灯整備事業にともなって昭和57年に整備された商店街だ。20店舗余りが立ち並ぶモール型の商店街は、オープン当初は先進的な事例として多くの注目を集め大勢の人で賑わっていたが、近年は空き店舗が目立つようになり、人通りも徐々に減少していった。
 商店街は、7月に開催される地域の祭り「きのくに祭り」に毎年違う山車を作って参加したり、11月中旬からクリスマスイルミネーションを実施したりするなどの賑わい創出事業を実施してきたが、普段の歩行者通行量や売上高の向上にはまだつながっていない状態だった。
 そもそも、佐賀県の東の玄関口である基山町は、古くから交通の要衝としての役割を担っており、久留米までは電車で約15分、博多までは電車で約20分という立地にあることから、町外に買い物や働きに出る住民が多く、町内の消費そのものが低迷しはじめていた。住民の数も平成12年の約19,000人をピークに徐々に減少しており、平成26年には日本創成会議によって「消滅可能性都市」との指摘を受けるまでになっていた。
 このような状況の中、平成25年に町が実施した町民アンケート調査では、「基山町が将来どのようなところであってほしいか」という問いに対する回答で「商業と住宅が調和したまち」が上位になっていた。この結果を受け商店街は平成26年に空き店舗を活用して「まちなか公民館」を開設。サークル活動の場や無料休憩所として開放しているほか、小学生向けの将棋教室や地域住民の写真展の会場として使用するなど、地域の交流拠点として位置付けており、買い物をするだけではなく地域住民が集い交流する場としての商店街への転換の道を歩み出していた。
 平成27年度は、さらに地域住民の生活に密着した取組を行おうと、「まちなか公民館」に隣接する空き店舗への保育園の誘致を計画。子育て世代という新たな来街者層の獲得によって、歩行者通行量や売上高の向上にもつなげていこうとした。


事業の展開

町役場によるマッチングで保育園の誘致が実現

 商店街が本事業の構想を練りだした頃、基山町内には6つの保育園があったが、そのうちの1つは商店街から徒歩5分程度の距離にあった。それが「ちびはる保育園(基山園)」(以下、「ちびはる保育園」)だ。
 当時の「ちびはる保育園」は定員30名程度の小規模なもので、園庭も小さく、道路に面しているという危険性もあった。そこで、町のこども課と副町長(当時)が中心となり、商店街と「ちびはる保育園」とのマッチングが実現。「ちびはる保育園」の園長 杉原伸介氏は当時の状況を次のように語った。
 「平成26年の秋口あたりからもう少し広い場所への移転を考えていると町役場に相談していたところ、商店街の空き店舗を活用してはどうかとの提案がありました。終日歩行者天国の商店街なので危険がないですし、園庭はつくれませんがすぐ裏手に遊具も設置された神社があるためそこで遊ぶことができると思いました。何より、JR基山駅に近接しているという利便性の高さが良かったです」
 杉原氏自ら何度も下見に訪れ、広さや環境を確認。町や商店街との連携で、内装・電気・給排水・空調などの整備を行い、平成28年4月に基山モール商店街への移転が実現した。

事業の成果

商店街全体の雰囲気が変化
園児を中心にした新たな交流や活動が活性化

 平成28年度は、定員41名に対し年少(2歳児以下)クラス19名、年長(3歳~6歳)クラス17名の園児を受入れた。商店街の売上高には即時的な効果は表れなかったが、「ちびはる保育園」に子どもを預けている保護者全員に商店街内の店舗で買い物をすると割引やプレゼントなどのサービスが受けられるカードを配布しており、保護者を商店街の新たな顧客として取り込むための工夫を各店舗で凝らしている。その甲斐あって、送り迎えのついでに買い物をする人の姿も見られるようになった。
 また、数字に表れる効果以上に、商店街全体の雰囲気の変化が大きい。杉原氏は「ちびはる保育園」がまちなかに移ることで園児の声などが地域住民の迷惑にならないか懸念していたというが、商店街の店主や来街者からは「子どもの声がして明るく感じる」などの声が多く聞かれ、まちなかに子どもがいる状況を喜んで受入れている様子だ。基山モール商店街協同組合 理事長 松尾滋氏は次のように語った。
 「たとえば『ちびはる保育園』の園児たちが隣の『まちなか公民館』に入ってくると、場が一気に明るくなり、大人と子どもが一緒に遊んだりしています。小さな子どもがたくさんいることで、商店街全体が和んでいくと感じます」
 「ちびはる保育園」の移転によって、園児を中心にした新たな交流や活動も生まれている。7月の「きのくに祭り」では園児たちも商店街の一員として山車引きに参加したほか、9月には町や地域の協力を得て「ちびはる保育園」裏手にある神社の一角に園児たちの畑が誕生した。園児と商店街の店主たちが一緒になって土を耕し、ブロッコリーや白菜などの野菜を栽培中だ。
 また、地域の住民が自由に集う場所として、商店街の通路の中央にあった植え込みやベンチを撤去した結果、子どもたちが走り回れる空間ができた。園児たちがすべり台などの遊具を持ち出して遊ぶこともあり、商店街全体が園庭代わりになっている。子どもたちが元気に遊び回っている様子を新たな入園希望者が見学に来ることもある。


今後の事業展開

子育て世代向けイベントや商品展開を検討
多様なニーズを受入れる環境を作り出す

 今後は、「ちびはる保育園」の移転によって新たな顧客となった子育て世代向けのイベントの開催を計画していくほか、各店舗でも商品やサービスのラインナップを見直し、子育て世代の取り込みを促進させていきたい考えだ。また、「ちびはる保育園」の休業日には園を開放し子育て相談会や商店街店舗の売り出し情報を発信する場として活用する計画もある。
 商店街にはデイサービスセンターや就労支援施設、学習塾などもあり、今回整備した保育園を含めて、単なる「商売の場」から地域の様々なニーズに応えられる機能を有する場へと変化しつつある。加えて、このような場所を新たに整備するだけではなく、平成28年3月には町内や隣接する鳥栖市の中高生が商店街内の空き店舗のシャッターに地域に関連したイラスト(町おこしとして飼育が始まった大型鳥「エミュー」、町のイメージキャラクター「きやまん」など)を描くシャッターペイント・プロジェクト「モールでアート」を実施するなど、商店街が地域住民の活動の場としても機能し始めている。
 基山モール商店街は、時代の変化に対応しながら地域に求められる役割を果たしていくことで、多世代が集う街そのものの活性化を目指している。



(お問い合わせ先)

中小企業庁経営支援部商業課
電話:03-3501-1929(直通)