平成27年度地域商業自立促進事業モデル事例集 全国商店街の挑戦
事業の経緯
地域ならではの魅力を活かして「大曲の花火」開催日以外も魅力ある街へ
大仙市大曲は、日本三大花火大会の一つとして知られる「全国花火競技大会」(通称「大曲の花火」)の開催地だ。JR大曲駅西口から南方向に伸びる花火通り商店街は、以前は「サンロード商店街」という名称だったが、この「大曲の花火」にちなんで平成16年から現在の「花火通り商店街」に名を改めた。例年8月の最終土曜日に開催される「大曲の花火」には80万人もの観光客が訪れ商店街も大いに賑わうが、それ以外の日は、人口減少やモータリゼーションの発展にともなう郊外型大型店舗の出店などの影響で、商店街への来街者数は年々減少。昭和40年代までは約3㎞続いていた商店街も、現在は約350mまで縮小した。
このような状況を打開しようと、商店街は平成20年に「地元の親子三代揃ってお馴染みさんで暮らせる場所づくり」と「外からの来街者にとって魅力ある店・まちづくり」を目標に掲げ、地域の有志グループや行政、商工会議所などと連携し、まちゼミの実施やまち歩きマップの作成、ご当地グルメ「大曲納豆汁」のPR、発酵食品文化の祭典「カモースリング大曲」の開催など、様々な事業に取り組んできた。特に8年前にスタートした毎月第4日曜日に開催する街中マルシェ「土屋館(どやだて)わいわい広場」は地域の恒例行事として十分浸透するまでになり、毎回老若男女が大勢参加している。(「土屋館」は大曲駅前の昔の町名)
平成26年11月には、ヒト・コト・モノを横断的に集約することでより効率的・効果的なまちづくり活動ができるよう、前述の取組を行っていた各グループの有志が出資してまちづくり会社「ひなび大曲有限責任事業組合」(以下、「ひなび大曲」)を設立。組合名は「鄙(ひな)びた場所には都会の雅(みやび)とは異なる美しさがある」との思いからで、大曲ならではの魅力を活かした取組で地域活性化につなげていこうとした。
事業の展開
30~40歳代女性をターゲットに設定し、新商品開発と販売所兼交流拠点の設置へ
平成26年3月に市が策定した「大仙市花火産業構想」では、平成30年中に商店街に近接する地域に文化交流拠点として「花火伝統文化継承資料館(仮称)」を整備する計画が示されていた。地域に集客の核ができることを受け、商店街でも新たな来街者の取り込みや商店街内の消費促進に向けた事業に着手。地域住民へのニーズ調査では「花火を活用したイベントや商品」のほか、「大曲の食の発信」や「飲食スペース」に対するニーズが高かった。特に「大曲の食の発信」については地域住民自身がその魅力に気付いていない物が数多くあることがわかり、これらを活用できないかと考えた。
「たとえば大曲の鮭孵化放流事業は120年の伝統があり、海から60㎞内陸での大規模な孵化放流は珍しく、成魚の帰還率が非常に高いため全国的に評価されています。こうした歴史と伝統を活かして、地元の人たちはもちろん、ほかの地域の人たちにも購入していただけるような商品を開発し発信したいと思いました」と「ひなび大曲」の代表組合員 辻卓也氏は語る。
こうして、大曲の地域資源を活かした商品開発とその販売所を兼ねた交流拠点の整備を行うことを決定。地域住民や関係機関などとの調整は商店街が、商品開発と販売所の管理運営は「ひなび大曲」が担当し、事業コンセプトを「ウンチクと語りで元気になる街・大曲 ~人っこいいな~」に定めた。
商品開発については、「大曲の伝統を尊重しながら毎日の生活を豊かにする商品」として、ブランド名を「毎日大曲」に決定し、ターゲット層を30~40歳代の女性に設定した。その理由はマーケティング調査で購買力が高いという結果が出たほか、辻氏が「30~40歳代の女性は何事にも敏感で行動力があり、しかも情報発信力を持っている」と語るとおり、口コミによるPR効果が大きく見込めると考えたからだ。ターゲット層のニーズを満たす要素として「健康」「かわいらしさ」「伝統格式」「本物」といったキーワードを掲げ、素材や製法にこだわった。
完成したのは、鮭の燻製「さけジャーケー」、地元酒蔵との連携で戦前の銘柄を復活させた日本酒「人丸」と新たに開発した蔵人甘酒「小丸」(プレーン、黒酢、ゆず)、地元和菓子店が40年前まで販売していた人気商品を復活した「花丸カステラ」、長年地域住民に親しまれてきた「なつかしの大学イモ」、地元農業者が製造した「季節のピクルス」(冬、春、インド(カレー風味))、国産の手持ち花火「毎々花火」の計7品目だ。
また、オリジナル商品を取り扱う拠点として、駅と「花火伝統文化継承資料館(仮称)」建設予定地との中間地点に位置する木造2階建・昭和初期建設の薬局の内蔵をリノベーションし、交流拠点「毎日大曲」を整備。外観・内装ともに極力元の状態を活かすことで、大曲の歴史を感じさせる佇まいを維持した。商品販売スペースだけでなく「飲食スペース」へのニーズに応えるべくカフェを整備したほか、地域の若手作家や秋田の工芸品などを取り扱う雑貨店がテナントとして入居。平成28年3月18日にオープンした。
事業の成果
オリジナル商品は地域内外から大人気
地域住民も大曲の持つ資源の豊かさを再発見
交流拠点「毎日大曲」についてはオープン前からSNSなどを活用して広報活動を展開。オープン初日から地域住民はもとより市外・県外からもたくさんの人が訪れた。オリジナル商品の売上も順調で、特に「さけジャーケー」は原材料となる鮭の捕獲時期が限られていることもありオープン後3ヵ月で初年度生産分が完売したほどの人気だ。
様々な地域資源を活用した大曲の歴史や伝統を感じられるウンチクある商品を「毎日大曲」という統一ブランドで売り出したことで、地域住民も大曲の持つ資源の豊かさに改めて気付くこととなり、「胸を張って人に贈れる新しい地場産品ができた」と評判は上々だ。
地域外の人にも「大曲らしさ」が好評で、平成28年11月には東京・上野駅の地産品ショップで開催された秋田フェアへの出品も果たした。
今後の事業展開
オリジナル商品の開発は今後も継続
「大曲らしさ」を活かし次なる目標の実現へ
地域資源を活かした新たな商品開発は今後も継続していく予定だが、単に商品数を増やすことを目指すのではなく、大曲オリジナルとしてのブランド力向上につながるものだけを厳選していく方針だ。
また、新たな取組として、「さけジャーケー」の商品開発で連携した雄物川鮭養殖漁業生産組合と商店街を流れる丸子川に遡上鮭の捕獲ウライを新設し、食文化を発信する計画もスタートしている。
「毎日大曲」の交流拠点としての活用方法も検討していく。すでに民話語り会や展示会など地域イベントの会場として活用しているが、地域のシンボルとしてより多く活用されるようPRを進める方針だ。
さらに商店街は本事業で発掘した地域資源などを活用し、地域ブランドを広報するための映画を制作することを次の目標として掲げている。「大曲らしさ」を活かした取組で地域活性化を目指す花火通り商店街の挑戦はまだまだ続く
(お問い合わせ先) 中小企業庁経営支援部商業課電話:03-3501-1929(直通) |