第2部 小規模事業者の労働生産性の向上に向けた取組

第2節 企業間連携による労働生産性の向上

企業間連携を取り組んだことによる労働生産性向上の効果を見ていく。

1 企業間連携の実施有無別の経常利益額の傾向

〔1〕企業間連携の実施有無別の直近3年間の経常利益額実績

はじめに、第2-4-5図は企業間連携の実施の有無別に直近3年間の経常利益額の実績を見たものである。企業間連携を実施した事業者は、実施していない事業者に比べて経常利益額は増加傾向にある。企業間連携を実施した事業者の方が労働生産性は高い傾向にあると推察できる。

第2-4-5図 企業間連携の実施有無別の直近3年間の経常利益額実績
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〔2〕企業間連携(同業種・異業種)の有無別の直近3年間の経常利益額実績

次に、第2-4-6図は、同業種の企業間連携と異業種の企業間連携別に、直近3年間の経常利益額の傾向を示したものである。同業種の企業間連携に比べ、異業種連携の方が直近3年間の経常利益額は増加傾向であり、効果が高いことが分かる。

第2-4-6図 企業間連携(同業種・異業種)の有無別の直近3年間の経常利益額実績
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事例2-4-1:三立木材株式会社

「共同事業者と連携することで、人手不足解消とサービス向上を図った企業」

静岡県浜松市天竜区の三立木材株式会社(従業員20名、資本金1,000万円)は、1926年に創業した不動産販売業、木造建設業者である。もともとは、天竜杉をはじめとした地元の木材を販売していたが、安価な外国産材に押されて売上が低迷したため、1989年頃に注文住宅を中心とした事業に転換し営業している。

同社の本社は中山間地域に近く、住民の高齢化や人口減少が進み、今後、住宅需要の減少が見込まれている。そのため、営業拠点として浜松市の市街地にある住宅ショールームを2016年に取得した。

ショールームを取得したが、管理運営を担う人材がいなかったため、専務取締役の河島由典氏の旧知であるデザイナー白川亜紀子氏へ協力を依頼し、共同で管理運営を行うこととした。白川氏がショールームのレイアウト管理等を担当し、市街地エリアの物件の図面作成や打ち合わせのサポートも行う。白川氏からの紹介で、住宅設計やインテリアコーディネーターの経験がある子育て女性スタッフらが協力しており、同社の人手不足解消に役立っている。顧客からは、女性が打ち合わせに加わることで安心感があるという声があがっており、サービスの向上につながっている。

ショールームは「天竜そだちの家」と名付けオープンしたが、周辺エリアへの周知が不十分であった。天竜商工会の経営指導員の支援のもと、2016年、白川氏と共同で小規模事業者持続化補助金を活用し、周知イベントを月1回半年間実施した。同社は、木工工作のワークショップ等を担当し、白川氏は、告知用のホームページ作成やアロマ教室や石鹸づくり等の女性向けワークショップの企画を行った。イベントは近隣住民の好評を博し、「天竜そだちの家」及び同社の認知度が向上し、住宅建築セミナー等を開催するきっかけになり、需要喚起につながった。

「社内の人材不足を、女性デザイナーと連携することで補うことができました。これからも、天竜杉を扱う当社の強みと女性目線の提案を活かし、サービスの向上を図っていきたいです。」と河島氏は語る。

河島由典氏・ワークショップの様子

事例2-4-2:株式会社ダブルエムエンタテインメント

「企業間連携で地域の観光振興に取り組む企業」

北海道札幌市の株式会社ダブルエムエンタテインメント(従業員なし、資本金1万円)は、自治体やイベント向けにVR(ヴァーチャルリアリティ)コンテンツの制作・開発を行う小規模事業者である。三田健太社長は、2000年代に趣味で行っていた動画投稿等を通じて知名度を高め、2009年に映像制作やWEBデザイン等を手掛ける同社を設立した。

他社との差別化に悩む中、2014年末に流行の兆しを見せたVRに商機を感じ、VR機器とVR撮影用の全天球型カメラを導入した。北海道美唄市のイベントの撮影中に同市の観光課職員と市長の目に留まり、VRを使った市の観光PRアプリ制作業務を受注した。2015年夏には同市の観光VRが完成し、これを使ってタイの観光博でPRした結果、美唄市へのタイからの来訪客は翌年11倍に増加した。三田社長のプロデュース力と動画作成技術が評価され、道内の他の自治体との取引も増えている。

営業、動画撮影、加工・編集に至る一連の業務は、基本的には三田社長が一人で対応してきたが、近年は人脈を活かして、YouTuberへ編集業務の外注や、VRアプリの制作技術等を持つ企業との連携を進めている。IT系企業の勉強会に参加した際に、三田社長は、富良野でレストランや土産店の運営を行う株式会社JEROPの吉田社長と意気投合し、観光振興について共同プロジェクトを企画した。冬に富良野へ訪れた観光客に、ラベンダー畑のVR動画を体験してもらい、夏の再訪を狙う取組である。同社が、超高精細8K映像で魅力あるVR動画を制作し、JEROPの土産店内に設置した体験ブースで来訪客に提供した。JEROPが販売するラベンダーのアロマオイルを使って、視覚・聴覚だけでなく嗅覚にも働きかけるなど新たな手法も試みている。このような企業間連携により観光客が増えれば、同じ地域の企業の売上向上等、波及効果が期待される。

「北海道が大好きだという気持ちと、社名に冠したエンタテイメント性を忘れずに、観光資源を掘り起こしてVRで発信したい。地元自治体や民間企業と連携してVRを活用し観光振興する方策を考えていきたい。」と三田社長は語る。

三田健太社長・ラベンダー畑VRの様子(上)、VRゴーグル(下)
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