第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命

第6章 M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上

中小企業の景況は緩やかな改善傾向にあるものの、市場の成熟化や国内人口の減少、グローバル化といった構造的な課題に直面し、従来に比べて経営判断は更に難しくなっているといえる。加えて、中小企業においては人手不足といった経営資源の制約も大きい。こうした制約下で、中小企業が新事業展開や事業規模の拡大を図り、労働生産性を向上させるためには、成長戦略としてM&Aを中心とした事業再編・統合が有効な選択肢と考えられる。

他方で、中小企業・小規模事業者においては、経営者が高齢化し、それらの休廃業・解散件数は依然として高水準にある。そうした中で、中小企業のM&Aは、後継者不在の企業や廃業予定の企業が経営資源を次世代に引き継いでいく選択肢の一つとされてきた。

成長を目指す中小企業と、後継者不在の中小企業を結び付けていくことが我が国経済全体の生産性向上のためにも重要な課題といえよう。本章では、中小企業のM&Aを中心に、事業再編・統合の現状を概観し、実施の効果や課題を明らかにしていく。

第1節 M&Aの背景

本節では、はじめに、中小企業のM&Aの背景にある経営課題を概観する。その上で、特に大きな課題となっている経営者の高齢化と事業承継について概観し、M&Aの実施背景を見ていく。

1 中小企業の経営課題

前章までで見てきたとおり、中小企業では人手不足が深刻化しており、設備の老朽化が進んでいるといった課題を抱えている。

また、我が国の人口の減少はこうした人手不足の深刻化のみならず、国内需要の縮小にもつながる。人口減少は、三大都市圏以外の地方圏、特に中山間地域の市町村でより深刻化しており1、そうした地域に立地する企業では既存商圏内の顧客の減少という課題に直面している。

1 2015年版中小企業白書の第3-1-3図を参照されたい。

加えて、グローバル化による国際競争の激化や技術革新による製品ライフサイクルの短縮化2等の経営環境の変化が生じている。また、前章で見たとおり、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボット等の新技術が発展しつつあり、今後産業構造が急激に変化する可能性も指摘されており、こうした変化に適応できなければ、継継して成長を図っていくことはますます難しくなっているといえる。

2 2016年版ものづくり白書では、製造業における製品ライフサイクルについて、10年前と比較してどのように変化しているかをアンケートした結果、「あまり変わっていない」という回答が多い中、全ての業種において「長くなっている」より「短くなっている」企業の方が多いという分析結果を掲載している。

こうした状況下において、1社当たりの売上高の推移を企業規模別に見てみると、足下では増加基調にあるものの、20年前の水準を超えていない(第2-6-1図)。

第2-6-1図 企業規模別に見た、1社当たり売上高の推移
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こうした経営環境の中で、事業規模や事業領域を拡大させ売上を向上させる手段として、M&Aの譲受側(以下、「買い手」という。)だけでなく、M&Aの譲渡側(以下、「売り手」という。)においても、M&Aを活用している企業もあると考えられる。

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