第2部 小規模事業者のライフサイクル

4 過去の起業関心者の実態と再度起業に関心を持つための支援の在り方

ここからは、起業無関心者のうち、起業希望者・起業準備者になり得る過去の起業関心者に着目し、その実態について見ていくとともに、過去に起業を諦めそうになったことがある又は諦めたことがある起業希望者・起業家にも着目し、起業を諦めそうになったものの諦めなかった時の相談相手の状況や、一度は起業を諦めたものの、再度起業を志したきっかけ等についても確認していくことで、過去の起業関心者が再度起業を志すきっかけや支援の在り方について検討していく。

〔1〕過去の起業関心者の起業に対するイメージ

はじめに、過去の起業関心者の実態について見ていく。第2-1-33図は、過去の起業関心者の起業に対するイメージを起業希望者・起業準備者と比較したものであるが、これを見ると、過去の起業関心者は「リスクが高い(失敗時の負債等)」、「所得・収入が不安定である」といった、マイナスイメージを有する割合が起業希望者・起業準備者に比べて特に高くなっていることが分かる。

第2-1-33図 過去の起業関心者の起業に対するイメージ
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〔2〕過去の起業関心者が、過去に起業を諦めた理由

続いて、第2-1-34図は、過去の起業関心者に対して、過去に起業を諦めた理由について聞いたものであるが、これを見ると、「資金調達が困難」と回答する割合が最も高く、次いで「起業への不安(収入の減少、失敗時のリスク等)」の順になっており、またこれらの二つの項目の割合が突出して高くなっていることが分かる。

第2-1-34図 過去の起業関心者が、過去に起業を諦めた理由
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〔3〕過去に起業を諦めた、諦めそうになった時の相談相手

ここで、過去に起業を諦めそうになったことがあるが、諦めずに起業にまで至った起業家について、諦めそうになった時に相談した相談相手の状況について見てみる(第2-1-35図)。これを見ると、過去に起業を諦めそうになったものの、諦めずに起業にまで至った起業家は、過去に起業することを諦めそうになった時に約6割が「家族・親戚、友人・知人」、約3割が「周囲の起業家・先輩経営者」に相談していることが分かる。他方で、過去に起業を諦めてしまったことがある過去の起業関心者については、半数以上が「相談相手はいなかった」と回答していることからも、起業を諦めそうになった時の周囲の相談相手の存在は起業を諦めることをとどまらせるためにも非常に重要であるといえよう。

第2-1-35図 起業家が起業を諦めそうになったものの諦めなかった時の相談相手及び過去の起業関心者が起業を諦めた時の相談相手の状況
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〔4〕過去に起業を諦めたことがある起業準備者・起業家が、再度起業を志すきっかけとなった支援施策等の内容

最後に、過去に起業を諦めたことがある起業準備者・起業家が、利用することで再度起業を志すきっかけとなった支援施策等について見たものが第2-1-36図である。これを見ると、「インターネット等による起業・経営に関する情報提供」をはじめ、「起業・経営相談」、「起業・経営支援講座等」等様々な支援施策等を利用することで、一度は起業することを諦めたものの、再度起業を志していることが分かる。この結果からも、過去に起業を諦めたことがある起業準備者・起業家は、起業することを諦めた後で、インターネット等を通して起業に関する情報を見たり、家族や友人、周囲の起業家や経営者等に相談したりすることで、再度起業についての関心が強くなり、再び起業を志したものと考えられる。

第2-1-36図 過去に起業を諦めたことがある起業準備者・起業家が、再度起業を志すきっかけとなった支援施策等の内容
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以上、本項では過去の起業関心者の実態及び過去の起業関心者が再度起業に関心を持つために有効な支援施策等について見てきたが、今後我が国の起業を増やしていくためには、過去に起業を諦めた人が再度起業を志すことも重要である。そのためにも、商工会・商工会議所や地方自治体、よろず支援拠点といった支援機関だけではなく、前掲第2-1-25図で述べた起業家コミュニティのような、起業を志している人であれば誰でも気軽に悩みを相談できる、受け皿となる支援機関・コミュニティ等のより一層の充実が今後求められよう。

コラム2-1-4

再チャレンジとしての起業の実態

本コラムでは、過去に起業し一度は事業を辞めてしまったが、再度起業を目指している、すなわち過去に起業経験がある起業希望者と起業準備者(以下、それぞれ「再チャレンジとしての起業希望者」、「再チャレンジとしての起業準備者」という。)の実態について概観していく。これまで本文では、円滑な起業を促すための支援の在り方や、過去の起業関心者が再度起業を志すための支援の在り方等について分析してきたが、今後我が国の起業家を増やしていくためには、過去に起業に失敗した起業希望者・起業準備者の、再チャレンジとしての起業を促進していくこともまた重要である。

●過去の起業経験の有無

コラム2-1-4〔1〕図は、男女別、年代別及び起業後に目指している成長タイプ別に、過去の起業経験の有無を起業希望者・起業準備者に聞いたものである。これをはじめに男女別に見てみると、男性の方が女性に比べて「起業経験あり」の割合が高くなっている。次に、年代別に見ると、60歳以上の年代の方がほかの年代に比べて「起業経験あり」の割合が高く、さらに起業を検討している業種については、いずれの年代についても、過去に経験した事業と同業種で起業を希望している割合が高くなっている。また、起業後に目指している成長タイプ別に見てみると、高成長型を目指している起業希望者・起業準備者の方が、安定成長型、持続成長型を目指している起業希望者・起業準備者に比べて、「起業経験あり」の割合が高くなっていることが分かる。

コラム2-1-4〔1〕図 過去の起業経験の有無
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●再チャレンジとしての起業希望者・起業準備者が過去の事業を辞めた理由

次に、コラム2-1-4〔2〕図は、再チャレンジとしての起業希望者・起業準備者が過去に事業を辞めた理由について、男女・年代別に見たものである。はじめに男性について見てみると、男性は年代によらず、「資金繰り、資金調達が難しかった」の割合が最も高くなっている。またそのほか、34歳以下の年代は「人材確保・育成が難しかった」、「必要な設備等の確保が難しかった」、35~59歳と60歳以上の年代は「収入が少なかった」、「新たな顧客・販路の開拓が難しかった」、「業績が悪化した」等の割合がそれぞれ高くなっている。次に、女性について見てみると、34歳以下の年代は「資金繰り、資金調達が難しかった」、「新たな顧客・販路の開拓が難しかった」、「時間的・肉体的な負担が大きかった」の順になっており、一方で35~59歳と60歳以上の年代については、「収入が少なかった」、「家庭の問題(結婚・出産・介護等)のため」、「資金繰り、資金調達が難しかった」等の割合が高くなっている。以上より、男性については、資金繰りや資金調達が困難であることが理由として最も強くなっている。また、34歳以下の男性については、人材や設備の確保が困難という理由の割合が高いことからも、事業規模を大きくしようとしたものの、人材や設備等の経営資源が確保できなかったために、事業を辞めたものと考えられる。このように、男性は年代によって事業を辞めた理由が多岐にわたっていることが分かる。他方で、女性については、資金繰りや資金調達が難しかったことよりも、事業による収入が少なかったことが事業を辞めた理由としては強く、さらに、結婚・離婚・出産・育児・介護といった家庭環境が変化したことや、事業に対して時間的・肉体的な負担が大きかったことにより、事業を辞めている割合もまた男性に比べて高いことがうかがえる。

コラム2-1-4〔2〕図 再チャレンジとしての起業希望者・起業準備者が過去の事業を辞めた理由
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●再チャレンジとしての起業の担い手

コラム2-1-4〔3〕図は、総務省「就業構造基本調査」を活用して、起業希望者全体に占める再チャレンジとしての起業希望者と、起業準備者全体に占める再チャレンジとしての起業準備者、そして起業家全体に占める再チャレンジで起業した起業家の、それぞれの割合の推移を見たものである。これを見ると、足下2012年では、起業希望者全体に占める3.6%、起業準備者全体に占める3.8%の人が、それぞれ再チャレンジとして起業を考えていることが分かる。また、起業家全体に占める2.7%の人が再チャレンジとして起業を果たしている。ここで、2007年から2012年の推移を見てみると、起業希望者と起業準備者に占める、再チャレンジとしての起業希望者と起業準備者それぞれの割合はいずれも増加している一方で、起業家に占める再チャレンジとしての起業家の割合は減少している。このように、再チャレンジとしての起業希望者・起業準備者の割合が足下5年間で上がっているのに対して、再チャレンジとして起業を実現させた起業家の割合は足下5年間で下がっていることからも、再チャレンジとしての起業が近年注目され、再チャレンジでの起業を検討する割合は近年上がってきているものの、起業にまで至っていない人が多くいることが推察される。

コラム2-1-4〔3〕図 再チャレンジとしての起業の担い手
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●再チャレンジとしての起業希望者が起業準備に着手していない理由

それでは、再チャレンジとしての起業希望者・起業準備者は、起業に至るまでにどのような課題を抱えているのであろうか。コラム2-1-4〔4〕図は、再チャレンジとしての起業希望者が起業準備に着手していない理由について見たものであるが、これによると、再チャレンジとしての起業希望者は「資金調達方法の目途がつかない(補助金、自己資金含む)」、「家庭環境の変化(結婚・出産・介護等)」の割合が起業希望者全体に比べて高くなっている。他方で、過去に事業を経験したこともあるため「事業に必要な専門知識、経営に関する知識・ノウハウの不足」、「起業の具体的なイメージができていない」の割合については、起業希望者全体よりも低くなっている。このことからも、再チャレンジとしての起業希望者は、起業に必要な知識・ノウハウはあり、起業のイメージもできているものの、過去の事業に係る負債等の影響といった理由により資金調達の目途がつかないために、起業準備に着手できていないことが推察される。

コラム2-1-4〔4〕図 再チャレンジとしての起業希望者が起業準備に着手していない理由
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●再チャレンジとしての起業準備者が起業できていない理由

次に、再チャレンジとしての起業準備者に着目して、起業できていない理由について起業準備者全体と比較することで確認していく(コラム2-1-4〔5〕図)。これを見ると、再チャレンジとしての起業準備者は、「資金調達ができていない」の割合が最も高く、次いで「周囲(家族、友人、取引先等)に反対されている」の順になっている。また、起業準備者全体と比較してみると、再チャレンジとしての起業準備者は「起業への不安(収入の減少、失敗時のリスク等)」の割合は起業準備者全体に比べて低い一方で、「周囲(家族、友人、取引先等)に反対されている」、「家庭環境の変化(結婚・出産・介護等)」、「質の高い人材(経理、営業、技術等)が確保できていない」等の割合については、起業準備者全体に比べて高くなっていることが分かる。このことからも、再チャレンジとしての起業準備者は、過去に事業経験があるため起業への不安は比較的少ないものの、一方で資金調達ができていない、家族や友人をはじめとした周囲に反対されている、質の高い人材が確保できていないといった理由により、起業にまで至っていないことが考えられる。

コラム2-1-4〔5〕図 再チャレンジとしての起業準備者が起業できていない理由
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●再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)

過去に事業経験があり廃業歴等がある事業者が、事業に再チャレンジするために必要な資金の融資を(株)日本政策金融公庫が行っている(コラム2-1-4〔6〕図)。

コラム2-1-4〔6〕図 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)制度概要

事例2-1-4:株式会社プログレスト

「過去の事業経験と勤務経験を活かし、再度起業を実現させた企業」

大阪府大阪市の株式会社プログレスト(従業員3名、資本金1,200万円)は、外国人向けの通訳アプリの開発・運営を行う会社である。

同社の主力サービスである外国人向けアプリは、タブレットやスマートフォンのビデオ通話ソフトウェアを活用した同時通訳サービスである。具体的には、飲食店・小売店をはじめとしたサービス提供店舗で店員が同社のアプリを起動すると、スマートフォン等を通して通訳者に繋がり、通訳者を介して店員と外国人客がリアルタイムでやりとりができるというものである。昨今の訪日外国人の増加に伴い、同社の契約数も増えており、業況も順調に推移している。

このような着想は、同社の村井広宣代表取締役社長のビジネス経験に基づいたものである。村井社長は、大学卒業後の1988年に、地元の北海道で、商業施設に企業を誘致したり、看板の企画制作を行ったりする個人事業として起業するも、バブル崩壊の余波を受け仕事がなくなってしまった。そこで、事業を辞め、サラリーマンとして人材派遣会社、全国トップクラスのコールセンター会社、全国の大学入試資料を扱う会社等を経て、ビジネスに必要な知識、経験、ノウハウ等を獲得していった。その後、同社における現事業のアイデアを思い付いた村井社長は、過去北海道で事業を辞めた経験で後ろ向きになることはなく、さらに、周囲からの起業の勧めもあったことから、インバウンドがブームとなっている今、アプリを介した通訳サービスは我が国に必要なサービスであり、これまでのビジネス経験を活かすことでビジネスとしても成功できるという強い信念を持って、2013年に同社を創業するに至った。再度起業するに当たって、事業が上手くいくという自信はあったものの、事業を開始するため、軌道に乗せていくための資金調達にはかなり苦労した。(株)日本政策金融公庫に融資を申込み、審査を重ねて同社のビジネスモデルの将来性を理解してもらうことで、何とか必要な資金を調達することができた。

現在はサービスの提供に必要な通訳者を社内で確保している状況であるが、将来的には、通訳を必要としている人が、ネットワーク上で必要な言語を使えるユーザーを探し、それに対して通訳ができるユーザーが手を挙げるというサービスも開発していきたいと村井社長は考えている。さらには、現在のインバウンドも一過性のものと捉え、今後はインバウンド以外の分野にも対応できるサービスの開発も進めていく予定である。

同社のサービスの概要
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