第1部 平成28年度(2016年度)の小規模企業の動向

第3節 まとめ

本章では、我が国の企業の生産性及び開廃業の現状、中小企業のライフサイクルの動向が我が国の中小企業全体の生産性に与える影響について分析した。

我が国企業の労働生産性は、特に中小企業において伸び悩んでおり、製造業における労働生産性の低迷が目立った。また、大企業と比較すると、付加価値の増加ではなく、従業者数の減少によって労働生産性が上昇していた側面が強いことが分かった。

また、我が国の企業数は減少傾向にあり、2009年から2014年にかけては39万者減少しているが、その要因としては、小規模企業の大幅な減少が挙げられる。他方で、中規模企業は増加した。企業数が大幅に減少する中で、大企業及び小規模企業が従業者数を減少させたが、中規模企業は増加させた結果、全体の従業者数はほぼ横ばいとなった。この結果、1者当たり従業者数は中規模企業で顕著に増加した。2009年から2014年の期間においては、我が国の企業数及び従業者数に占める中規模企業の存在感が高まったといえる。

企業数の大幅な減少と整合する形で、我が国の休廃業・解散件数は2016年に過去最多となった。こうした企業の経営者年齢を確認すると、60歳代以上及び80歳代以上の企業の割合は過去最高となり、休廃業・解散件数の増加の背景には、経営者の高齢化があると推測される。また、休廃業・解散企業のうち、売上高経常利益率が判明している企業について見ると、半数が黒字で廃業しており、その多くが小規模企業であることが分かった。

これまでの分析で、我が国の企業数や従業員数の変化において、開業や廃業といった企業のライフサイクルが大きな影響を持っていることが分かったが、本章ではさらに、第1期(2003-2007年)から第3期(2009-2013年)にかけての、開業や廃業といった企業のライフサイクルの構成要素の動向が、我が国の中小企業全体の生産性にどのような影響をもたらしてきたかを分析した。

開業は参入効果を通じて中小企業全体のTFPを押し上げているが、押し上げ効果は縮小している。また、生産性の高い存続企業がシェアを拡大し、再配分効果を通じて全体のTFPを押し上げる一方で、存続企業のTFPの水準は低下しており、内部効果は伸び悩んでいる。また、生産性の高い企業の倒産・廃業によって全体の生産性が押し下げられており、特に廃業効果による押し下げ効果が大きい。

TFPの変化について企業規模別に比較すると、大企業と中小企業でリーマン・ショック後(第3期)の回復状況に差が見られる。大企業では内部効果及び参入効果のプラス幅が拡大したのに対して、中小企業では内部効果がマイナスになったこと、参入効果のプラス幅が縮小したこと及び廃業効果のマイナス幅が拡大したことが要因として挙げられる。既存の中規模企業の生産性が大きく伸び悩んだことが、中小企業全体の内部効果をマイナスに転落させ、TFPの伸びを抑制したと考えられる。

また、中小企業のTFPの変化を業種別に比較すると、製造業、非製造業共にTFPの上昇率が鈍化している。製造業のTFP低迷の要因として、中小企業が大企業の研究開発から受けるスピルオーバー効果の減退によって内部効果が伸び悩んだことが考えられる。非製造業におけるTFPの上昇率が低下した背景には、サービス業におけるシェアの大きい生活関連サービス業の内部効果がプラスから大幅なマイナスに転落し、サービス業におけるTFPの上昇率がマイナスに転落したことが挙げられる。

さらに、どのような特徴を持った中小企業が各効果をもたらすのかを分析した。まず、TFPの高い企業が市場シェアを拡大し、TFPの低い企業がシェアを縮小することで全体のTFPが上昇しており、中小企業間で健全な競争環境が担保されていることが確認された。他方で、存続企業のTFPの水準自体は伸び悩んでおり、積極的に設備投資を行う企業が売上拡大を達成できていないことが要因として考えられる。また、企業の新規参入によるTFPの押し上げ効果は縮小しており、小規模ながら稼ぐ力の高い企業の開業促進が課題である。さらに、倒産及び廃業によって退出した企業のうち、5割から6割はTFPの低い企業であるが、ごく一部のTFPの高い、規模の大きな企業の倒産及び廃業によって全体のTFPが押し下げられていることが分かった。また、TFPの高い廃業企業の中で比較的規模の小さいグループは、後継者不足による廃業が想定され、我が国の長期的な生産性向上の観点から、経営資源の引き継ぎを円滑に行うことが重要といえる。

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