第1部 平成28年度(2016年度)の小規模企業の動向

3 TFPの変化要因の規模別比較

はじめに、第1期から第3期にかけてのTFPの変化要因について、大企業と中小企業で比較・分析を行う。大企業のTFP上昇率については、経済産業省「企業活動基本調査」を用いて計測する。中小企業のTFP上昇率については、前項と同様に、(一社)CRD協会のデータを用いて計測したが、大企業との比較を可能にする観点から、企業活動基本調査が対象とする業種に絞って分析する。また、大企業、中小企業共企業が市場から退出することによる生産性への影響を「倒産」と「廃業」に区別せず、「退出効果」として分析する14

TFPの上昇率は第1期と第3期で大企業の方が中小企業よりも高く、大企業のTFP上昇率は第2期にはリーマン・ショックの影響で大幅なマイナスに転落したが、第3期に順調に回復し、リーマン・ショック以前の上昇率を超えているのに対して、中小企業のTFP上昇率は回復状況が芳しくない(第1-2-25図)。第1期と第3期における各効果の寄与を見てみると、第1期、第3期共大企業では内部効果、中小企業では再配分効果がTFPを最も大きく押し上げており、大企業、中小企業共退出効果がTFPを最も大きく押し下げている。第1期から第3期にかけての大企業と中小企業の回復状況の差については、大企業では内部効果、参入効果及び再配分効果のプラス幅が拡大したのに対して、中小企業でも再配分効果のプラス幅は拡大したものの、内部効果がマイナスになったこと、参入効果のプラス幅が縮小したこと及び退出効果のマイナス幅が拡大したことが要因として挙げられる。

14 大企業に関する分析(企業活動基本調査を使用)においては、中小企業に関する分析(一般社団法人CRD協会のデータ使用)と異なり、退出企業の「倒産」と「廃業」を区別することができない。このため、両分析の平仄を揃える観点から、大企業、中小企業共「倒産企業」と「廃業企業」を区別せず、「退出企業」として扱った。また、「参入企業」については、大企業に関しては、設立年による分析対象の限定は行っていない(中小企業に関する分析では設立後3年以内の企業に限定)。

第1-2-25図 TFP伸び率の要因分解(大企業及び中小企業)
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続いて、第1期から第3期にかけてのTFP上昇率の変化要因について、中規模企業と小規模企業で比較・分析を行う。前項と同様に、中規模企業、小規模企業共TFPを(一社)CRD協会のデータを用いて計測しており、倒産と廃業を区別している(第1-2-26図)。

TFPの上昇率は第1期では中規模企業の方が小規模企業よりも高かったが、第3期では小規模企業の方が高い。中規模企業、小規模企業のTFP共第2期にはリーマン・ショックの影響で大幅なマイナスに転落し、第3期には回復したが、第1期の上昇率には届いていない。第1期と第3期における各効果の寄与を見てみると、第1期、第3期共再配分効果がTFPを最も大きく押し上げており、退出効果が最も押し下げていることは中規模企業、小規模企業で共通している。第1期から第3期にかけて、再配分効果のプラス幅が拡大し、参入効果のプラス幅が縮小し、廃業効果のマイナス幅が拡大したことは中規模企業、小規模企業で共通しているが、内部効果の状況には差が見られる。小規模企業の内部効果は、第1期から第3期にかけてマイナス幅が縮小したのに対して、中規模企業は内部効果が比較的大きなプラスからマイナスに転落している。第1期から第3期にかけて、存続中規模企業の生産性が大きく伸び悩んだことが、中小企業全体の内部効果をマイナスに転落させ、TFPの上昇を抑制したといえる。

第1-2-26図 TFP伸び率の変化要因(中規模企業及び小規模企業)
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