2016年版 中小企業白書のまとめ

2016年版 中小企業白書のまとめ

第1部では、中小企業の動向として、経常利益は過去最高水準に達し、倒産件数は減少し、中小企業の事業者数の減少のペースは緩やかなものとなっているものの、中小企業の売上は増加していないことや、設備投資が伸び悩み、設備の老朽化が進んでいること、人手不足が深刻化していること等を示した。

こうした状況を踏まえると、経常利益が過去最高水準にある今こそ、中小企業は省力化・合理化や売上拡大等を通じて稼ぐ力を高めることが重要であるため、第2部以降では、中小企業の稼ぐ力に着目し、一貫した分析を行った。第2章から第4章においては、生産性向上のためのIT活用、売上拡大のための海外展開、稼ぐ力を支えるリスクマネジメントについて分析した。その結果、稼ぐ力のある企業には、経営者が、〔1〕ビジョンを明示し、〔2〕従業員の声に耳を傾け、〔3〕人材育成や、〔4〕業務プロセスの高度化、〔5〕段階的・計画的な投資等を行っているという共通点が見られた。

また、第5章では、中小企業の成長を支える金融について、中小企業に対する金融機関の貸出態度は改善傾向にある一方で、金融機関から中小企業への貸出は大企業ほど伸びていないことや、金融機関からの借入れのない企業よりもある程度借入れのある企業の方が利益率が高いこと、今後の融資手法として中小企業も金融機関も事業性評価に基づく融資を重視しているものの、現在の財務内容や資産余力が評価される傾向にあることを示した。その上で、事業性評価に基づく融資の推進に向け、企業側には事業計画等を積極的に金融機関に伝えることが必要であり、金融機関側には他の支援機関と連携した支援の強化が求められることを述べた。

さらに、第6章では、稼げる中小企業の経営力について、低収益企業は設備投資や人材育成投資をはじめとする投資に保守的な傾向が見られるのに対して、高収益企業は、計画的かつ積極的に投資を行い、また、リスクへの備えにも取り組んでいることを示した。また、経営者年齢が上昇するほど、投資意欲が低下し、リスク回避性向が高まることや、経営者が交代した企業の方が僅かながら利益率が上昇していることも示した。

これらを踏まえ、今後は、経営者が、現場の声にしっかりと耳を傾けつつ、経営理念を明示し、金融機関等の外部の専門家と連携しながら組織的な経営を行い、IT投資や海外展開投資等の成長投資を積極的に行い、生産性向上や新陳代謝に取り組み、自らの稼ぐ力を向上させていくことを期待して、2016年版中小企業白書の結びとしたい。

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