第2部 中小企業の稼ぐ力

3 IT人材の活用

IT投資を行っている企業が抱えている課題や、IT投資を行っていない企業がIT投資を行わない理由の一つとして「IT人材24」が挙げられていたが、本節では、IT投資を行う上で必要なIT人材の現状、課題について見ていく。

24 ここでいう「IT人材」とは、ITの活用や情報システムの導入を企画、推進、運用する人材のことをいう。

■IT人材活用の現状

第2-2-15図は、IT人材の充足度を業種別に示したものであるが、IT人材が「十分確保されている」、「おおむね確保されている」と回答した企業の割合は、いずれの業種についても3割程度である。他方で、「やや不足している」、「とても不足している」と回答した企業の割合は、いずれの業種についても約5~6割であり、全体的にIT人材が不足している傾向にあることが分かる。

第2-2-15図 業種別に見たIT人材の充足度
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次に、第2-2-16図と第2-2-17図は、IT人材の活用状況を業務領域別に見たものと、さらに業務領域別に活用しているIT人材について見たものである。業種によっては必要性がない業務領域があることに留意する必要はあるが、IT人材が最も活用されている業務領域は「財務・会計」であり、次いで「販売・企画」、「社内の情報共有」、「調達・仕入」の順になっている。また、どの業種においても必要性が高い「財務・会計」、「人事・総務」といった業務分野においては、システムエンジニア25、プロジェクトマネージャー26といったシステム開発・運用を行うIT技術者、データサイエンティスト27といったデータ分析を行うIT技術者を社内で雇用するよりも、情報システム会社、フリーランス28といった外部から外注により専門性の高いIT人材を活用している企業の割合がほかの業務領域に比べて高いことが分かる。

25 ここでいう「システムエンジニア」とは、システムが円滑に稼動するようにシステムの企画立案、設計、運用を主業務として行う技術者のことをいう。

26 ここでいう「プロジェクトマネージャー」とは、スケジュールの調整や工数の掌握、対外交渉、マネジメントを主業務として行うプロジェクトの責任者のことをいう。

27 ここでいう「データサイエンティスト」とは、統計学、データ分析等を駆使して、膨大なデータを事業戦略に活用させる業務を行う技術者・研究者のことをいう。

28 ここでいう「フリーランス」とは、特定の企業や団体に専従しておらず、自らの技能を提供することにより社会的に独立した個人事業主若しくは個人企業・法人をいう。

第2-2-16図 業務領域別に見たIT人材の活用方法
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第2-2-17図 業務領域別に見た活用しているIT人材の構成比
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これらの結果より、製造業は開発・設計、生産等の業務領域において、卸売業・小売業等は調達・仕入、物流等の業務領域において、それぞれ他社との差別化を行うために、専門性の高いIT人材を社内で雇用している割合が高いことが考えられる。他方で、どの業種においても必要な財務・会計といった業務領域では、他社との差別化も行う必要がないために、外注を活用したIT人材の活用が進んでいることが推察される。

■IT人材確保・育成の取組

第2-2-18図と第2-2-19図は、IT人材が確保されている企業に対し、それぞれIT人材確保とIT人材育成のために企業が行っている取組をそれぞれ見たものである。これを見ると、IT人材確保については、「ITに精通した社員の配置」の取組を行っている企業が最も多く、次いで「中途採用によるIT人材の採用」、「自社業務に精通した社員へのIT教育強化」の順になっている。このことより、IT投資を行う企業は、IT投資に伴いまず社内の従業員の配置換えを行い、次に中途採用によりIT人材を採用することでIT人材を確保している企業が多いことが推察される。

第2-2-18図 IT人材が確保されている企業が行っているIT人材確保の取組状況
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第2-2-19図 IT人材が確保されている企業が行っているIT人材育成の取組状況
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また、IT人材育成については、IT人材が確保されている企業でも「IT人材育成は必要だが特に行っていない」と回答する企業の割合が31.3%と最も高くなっている。IT人材が確保できている企業は、様々な課題等を抱えているために、スキルアップさせるための人材育成の取組が十分に行えていないことが考えられる。IT投資により利益率や生産性を向上させていくためには、導入したITを十分活用、運用していく必要がある。そしてそのためには、技術を有した高度なIT人材が必要である。自社で抱えるだけでなく、柔軟に、外注により高度なIT人材を活用することも、企業がIT活用により収益力を向上させるために必要ではないだろうか。

■IT人材確保・育成の課題

続いて、IT人材を確保・育成するにあたり企業が抱えている課題について見ていく。第2-2-20図と第2-2-21図は、IT人材が不足していると回答した企業に対し、それぞれIT人材確保・育成に係る課題を示したものである。IT人材確保における課題については、「必要とする人材像が不明確」が最も高く、次いで「求める質の人材がいない」、「求める人材の数が少ない」の順になっていることからも、IT人材を確保しようと考えていても、質・量の両面で必要なIT人材がいないため、思うようにIT人材確保が進んでいないことが推察される。

第2-2-20図 IT人材が不足している企業が抱えるIT人材確保の課題
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第2-2-21図 IT人材が不足している企業が抱えるIT人材育成の課題
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また、IT人材育成における課題については、「指導・育成を行う能力のある社員が不足している」が最も高く、次いで「社員が多忙で教育を受ける時間が確保できない」、「指導・育成の手段やノウハウが乏しい」の順になっている。IT人材が不足している企業は、社内にITの指導ができる能力を有した社員がおらず、また人材育成のノウハウもなく、さらに業務多忙により人材育成にかける時間もないために、人材育成の取組が行えていないことが考えられる。

■外注によるIT人材の活用

以下では、中小企業における外注によるIT人材の活用状況について見ていく。第2-2-22図は、業務領域別に見た、社内雇用に加えて外注によりIT人材を活用している企業の割合を、高収益企業と低収益企業で比較したものである。これを見ると、高収益企業の方が低収益企業に比べて、外注によりIT人材を活用している企業の割合が高いことが分かる。

第2-2-22図 高収益、低収益別に見た外注によりIT人材を活用している割合
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以上、本項ではIT人材の活用について見てきたが、中小企業はIT投資を行う上でIT人材を必要としているもののIT人材が不足しており、また、第2-2-20図、第2-2-21図で示したとおり、様々な課題を抱えているために、人材確保・人材育成が十分行われていないことが分かった。しかし、高収益企業では、外注の活用によりこうしたIT人材不足を克服している様子も見受けられた。少子高齢化、人口減少が今後ますます進むことにより、我が国の中小企業における人手不足はますます加速していくことは間違いないだろう。他方で、ITをうまく活用して合理化を図ることができれば、人手不足を緩和することもできる。外部環境が変化する中、中小企業は社内リソースのみでIT投資の実施を図るのではなく、必要に応じて外部のリソースも活用することで、積極的に自社に見合ったITを活用していくことも、今後の方法の一つであると考えられる。

コラム2-2-6

IT人材不足に対する支援策

■戦略的CIO育成支援事業

中長期的な経営戦略の実行のためにITを組織的に活用しようとする中小企業に、IT経営に十分な知見と実績がある専門家を比較的長期間派遣し、経営戦略に基づくIT化計画の策定及びその実施を支援するとともに、当該企業におけるIT人材を育成するために、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施している事業である。

【制度概要】

29 ここでいう「ITコーディネーター」とは、ITと企業経営両方の知識を持ち、経営者の経営戦略を実現するIT化支援サービスを行う専門家のことをいう。

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