付注

付注3-2-1 地域産業連関表1

産業連関表のことを、英語ではInput Output Table という。つまり、経済活動での「投入と産出の表」のことである。ここで投入には二つの概念がある。一つは「他から購入する」という仕入れ概念で、原材料、エネルギー、素材、部品、保守・点検、輸送、金融、保険のようなサービス、アウトソーシング等が該当する。もう一つは「借りる、所有しているものを使う」という概念で、生産要素としての人、建物や設備、土地等が対応する。

産業連関表の数値は、1年間の取引(フロー)の金銭評価額であるので、人については雇用することによって発生する賃金・俸給、購入した建物や設備については、その利用対価として減価償却費(資本減耗額)、そして土地については借りている場合の地代に相当する金額がそれぞれ対応する。産出(額)とは、活動ベースでとらえた出荷額や販売額の概念であり2、どういった経済主体にどれだけ販売されたかというとらえ方をする。なお、産業連関表の数値は、会計上、投入額と産出額(産業連関表での生産額)は一致する。

地域経済を見る上で大事なことは、ものやサービスを、「だれから、どれだけ購入したのか?」に加えて「どこから購入し、どこへ販売したのか?」ということである。一国の場合は、輸出と輸入で表現されるが、地域表の場合は、移出と移入によって表現される。

それでは、その地域産業連関表の成り立ちから見ていくことにする。まず、産業部門間の取引表を、域内と域外を区別して付図1のように示すことができる。横方向に販路構成、縦方向に費用構成(投入構成)を示している。この表では、投入物が域内からきている(自給)のか、域外からきている(移入)のかが識別されている。

1 本付注の作成に当たっては、岡山大学中村良平教授のご協力をいただいた。付図については、「まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする」(前掲書)から転載している。

2 産業連関表では、この産出額のことを生産額と呼んでいる。

付図1 企業間(産業間)取引

この表を売り手方向に拡張すると、付図2のように、企業の生産活動に需要される以外の部分、家計消費や民間や公的な投資、さらには域外からの需要である移出が加わってくる。これらは、最終需要と呼ばれているが、その意味はこれらが生産活動に再び投入されることはないということから来ている。この図においても、消費や投資、移出されたものは、域内で生み出されたものか域外から移入されたものかの区別がなされている。

付図2 取引表の需要方面への拡張

付図2の投入方向に労働や資本に相当する付加価値部門を加えたものが付図3である。ここでは、企業所得と雇用者所得の二つを付加価値部門の代表的なものとして表している。ここで特徴的なのは、分配された企業所得や雇用者所得が、その地域に居住しているかどうかによって地域外に流出することも考慮していることである。

付図3 取引表の付加価値部門の拡張

付図3のような産業連関表は「非競争移入型」と言われている。これは、域内品と移入品は別個のものとして扱われていて競争関係にないという考えからである。これに対して、移入品も域内品も同じ性質をもつものとして競争的に扱った連関表が付図4の「競争移入型」となる。各産業が購入したものは域内品も域外品も合算して中間投入部分に計上し、最終需要のところの移入で一括して控除するという方式である。

我が国の地域内産業連関表は、多くの政令指定都市や都道府県で作成されているが、そのほとんど全てはこの競争移入型の表となっている。これは、非競争移入型を作成することが、多大な労力を伴うことによっている。一般に、非競争移入型の産業連関表は地域経済の予測には適応度が高いが、地域経済の現状分析となると非競争移入型の産業連関表の方が強みを発揮する。

付図4 競争移入型の地域産業連関表

それでは、こういった産業連関表を作成することによって何が分かるのであろうか。それは大きく二つに分けて示すことができる。

一つ目は、産業連関表をしっかりと読み解いて、「地域の内外」のつきあいがどの様になっているのかを判別できることである。これによって、地域にあるものまで、あるいは地域の企業が供給できるものまで、外から購入している事実が判明することがある。そうすると、どうしてそのようになっているのかを、次に考えることになる。もし、「地域の内」で賄うことができれば、それは「地域の外」にお金が出ていくことなく、まちの誰かの所得になるはずである。それならば、地域で賄っていない理由は何であろうか? 品質の問題、納期の問題、これまでのつきあい(人間関係)、供給量の問題等が考えられる。こういったことは、政策として対応ができるかも知れない。有効な施策のあり方を考えるいい機会となる。

農産物は食料品製造業で投入要素となり、商業やサービス業でも使われるであろう。工業製品は、個人消費だけでなく、同じ製造業種や農家へも販売されるであろう。金融保険や運輸といったサービスは、農業でも工業でも必要である。そうすると、どの産業でも頑張れば、その効果は、つきあい(取引)のある全ての産業へと波及することになる。

二つ目は、産業連関表は連立方程式になっているので、それを解くことによって、こういった波及効果を定量的に掴むことができるということである。消費や投資、更には移出などの最終需要の変化によって、どの産業がどの程度の影響を受けているのか、また、どこに影響を与えているのかが定量的に分かる。

しかしながら、どの産業も生産したものが売れないと企業が成り立たない。その場合、考え方は二通りある。一つは、消費者(あるいは最終需要者)は必要なものは購入するという前提である。すると需要があるので、そこから派生して生産が生まれるということになる。もう一つは、良いものを作り(商品の差別化)、あるいはこれまでなかったものを作り(技術開発による新製品や新サービス)、消費者の需要を呼び起こすことである。これは、供給が需要を生み出すという考え方である。ガラパゴス系の携帯電話からスマホへの移行がその典型であろう。

産業連関分析は、前者の立場をとる。つまり、需要があって供給(生産)が生まれるということである。だから生産波及効果が〇〇万円という表現になる。

ところで、これまでの産業連関表は、国際間のものはあっても地域表は、せいぜい政令指定都市までが主に自治体の手によって作成されてきた。地方の市町村のような(経済規模が小さいという意味で)小地域の場合、多くが全国GDPの動きでまちの経済が規定されている状況にあるといって差し支えないであろう。それは、地域の経済に自立性が低く、「地域の経済」が地域の外からの移入に依存している部分が圧倒的に大きいということを意味している。つまり、わざわざ連関表など作らなくても、全国GDPとの相関さえ見ておけば良いということになるのである。しかしながら、自立を目指すなら、なおのこと「地域の連関構造」がどのようになっているかを、きちんと掴んでおくべきである。

小地域の場合は県のような大きな地域と違って、住民との距離が近いところが多い。そういったところでは、きちんとした調査ができる可能性は高く、意義があるといえるであろう。しかも、それぞれの部門での生産活動に用いる原材料や中間財がどこから来ているかを捉えておくことも可能となる。これは、実体経済の分析にパワーを発揮する「非競争移入型」の産業連関表の作成を意味する。

産業連関分析を行うときに知っておくべきこととして、いくつかの前提条件がある。産業連関分析は、ある経済構造(1年間の実物経済のマネーフロー)を前提に話を進めることから、いわゆる短期なので生産技術は固定されている。言い換えると、原単位方式、資本とは完全補完関係にある。たとえば、ある車1台を生産するのに必要な鉄鋼の投入額は一定比率に保たれている。

既に述べたが、最初に需要があって、そこから生産波及効果や所得誘発効果が生まれる。したがって、基本は下流(最終需要)から上流(企業が生産に用いる中間財生産)への波及効果をみていることになる。企業の生産活動が活性化するのは、最終需要あってのこと。企業が自律的に生産を増やすことは(内生部分なので)モデルの想定外だが、その分析も技術的には可能ではある。また、需要が増えても財の価格上昇を伴わず供給(生産)は十分満たされる。最終需要の消費も所与(外生変数)だが、ケインズモデルのように内生化モデルに変えることも可能である。

産業連関表を少し解析することで、どのような需要項目(消費、投資、移出)がどういった産業にどの程度の影響を与えているか、また、どのような産業がどういった需要項目(消費、投資、移出)からどの程度の影響を受けているか、そして、ある産業が頑張ると、どういった産業の生産に刺激を与えるかなどが定量的に把握できる。

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