第3章 中小企業・小規模事業者を取り巻く環境
我が国経済は、低い経済成長と長引くデフレによる停滞の20年を経験してきた。第2次安倍内閣発足以降は、アベノミクスの「三本の矢」の効果もあり、経済の好循環が動き始め、我が国経済は長期停滞やデフレで失われた自信をようやく取り戻しつつある。現在、成長戦略の成果は、中小企業・小規模事業者や地域経済に波及しつつあり、それが全国津々浦々まで広がり、中長期的な地域経済の展望を見いだせるよう、しっかりとした対応(「ローカル・アベノミクス」)を行うことが必要である。
こうした問題意識の下、本章では、1980年以降の中長期的視点からの中小企業・小規模事業者の動向を、個の側面(企業の視点)、面の側面(地域経済の視点)からそれぞれ捉え、経済の成長性に係る構造分析を行うことにより、中小企業・小規模事業者の成長発展に資する課題を抽出する。
第1節 中小企業・小規模事業者の競争力
本節では、1980年以降の中長期的視点からの我が国における中小企業・小規模事業者の動向を、企業の構造的な競争力の観点から捉えることで、中小企業・小規模事業者が成長していくための課題を抽出する。具体的には、企業の収益力に着目し、企業規模間及び同一企業規模内の比較を通じて、企業の収益力を規定する要因及びその構造的特徴に着目することで、中小企業・小規模事業者の競争力向上、ひいては中小企業・小規模事業者の更なる成長発展に向けた具体的方策に関して考察する1。
1 本節における分析においては、以下の2点が基本的な前提となるため、あらかじめ念頭に置かれたい。
第一に、本節における分析では主に財務省「法人企業統計調査年報」を用いることとしている。本統計を用いる理由としては、〔1〕大企業から小規模企業まで幅広い規模の法人企業が調査対象となっていること、〔2〕長期間に渡り毎年調査されていること、〔3〕主要財務項目が網羅的に調査されていることなどがある。なお、本節における大企業、中規模企業、小規模企業とは、それぞれ資本金1億円以上、同1千万円以上1億円未満、同1千万円未満の企業を指すものとする。企業規模を資本金規模で定義する理由は、法人企業統計調査の調査設計上、業種別、資本金規模別で標本設計が行われているためである。
第二に、企業間で生じている競争力の構造変化をより明確に確認するため、時系列データにおいて観察される不規則変動(その年固有の要因による変動)、循環変動(景気循環による変動)を除去している。具体的には、分析対象である各系列に対してHPフィルター(Hodrick-Prescott Filter)をかけることによって、構造変動のみを抽出している。