2024年版「小規模企業白書」 第1章 厳しい経営環境を克服するための資金繰り支援・価格転嫁対策 | 中小企業庁

第1章 厳しい経営環境を克服するための資金繰り支援・価格転嫁対策

第1節 事業継続の後押し

1.日本政策金融公庫等による資金繰り支援【財政投融資】

新型コロナウイルス感染症の影響により業況が悪化している中小企業・小規模事業者への資金繰り支援として、株式会社日本政策金融公庫において、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」及び「新型コロナ対策資本性劣後ローン」等を実施(商工組合中央金庫は、令和4年9月で新規受付を終了)。2020年1月末に新型コロナウイルスに関する特別相談窓口を設置して以降、2023年12月末での新型コロナ関連の融資実績は、約123万件、約21兆円となっている。

2.民間金融機関を通じた資金繰り支援(信用保証制度)【令和5年度当初予算:34.8億円、令和5年度補正予算:71億円】

信用補完制度により、

〔1〕取引先の倒産、自然災害、取引金融機関の経営合理化等により経営の安定に支障を生じている中小企業者に信用保証協会が通常の保証枠とは別枠を措置、

〔2〕自然災害等の影響により経営の安定に支障を生じた中小企業者に対しセーフティネット保証4号を措置するとともに、引き続き、東日本大震災により被害を受けた中小企業者を対象とした保証制度(東日本大震災復興緊急保証)を措置する。

〔3〕加えて、新型コロナウイルス感染症の長期化や物価高等の影響により引き続き厳しい状況にある中小企業者へ、積み上がった債務の返済負担への対応や、事業再構築などの前向きな取組の促進などの資金繰り支援として、金融機関による継続的な伴走支援等を受けることを条件に信用保証料の事業者負担を大幅に引き下げるコロナ借換保証を措置し、

〔4〕併せて、経営サポート会議や認定経営革新等支援機関が経営改善計画策定支援事業によって策定を支援した再生計画等に基づき、中小企業者が経営改善・事業再生を実行するために必要な資金を支援する経営改善サポート保証について、新型コロナウイルス感染症の影響で特に経営状況の苦しい中小企業者に対して、据置期間を5年に延長した上で、信用保証料の事業者負担を大幅に引き下げる措置を実施。

〔5〕信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする新たな信用保証制度を創設し、新制度の活用を促す観点から制度創設後3年間に行った保証承諾案件に限り信用保証料の補助を段階的に実施。

〔6〕これらの資金繰り支援に加えて信用保証協会の利用者又は利用を予定している創業(予定)者、経営改善や事業再生、生産性向上に取り組もうとする者に対して、信用保証協会が地域金融機関と連携して、専門家派遣をはじめとした経営支援を実施し、資金繰り支援と一体となった支援を引き続き実施した。

3.LPガス等価格高騰対策(小規模事業者持続化補助金の加点措置)【令和5年度補正予算:2,000億円の内数】

小規模事業者等が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む販路開拓等の取組を支援する中で、ウクライナ情勢や原油価格の上昇等の影響を受けている小規模事業者等については加点による優先採択を実施した。

4.中小企業サイバーセキュリティ対策促進事業【令和5年度当初予算:2.0億円】

中小企業のサイバーセキュリティ対策を強化するため、各地域において、サイバー脅威の机上演習(経営者向け)や自社の情報資産のリスク分析(担当者向け)、セミナー開催等を50回以上実施するとともに、中小企業のセキュリティ対策機器と事後支援がセットになった「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の普及に向けた基準改定等を実施。

5.中小企業等事業再構築促進事業 ※令和5年度予算では計上されず、既存基金を活用して実施

ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、新分野展開や事業転換等、中小企業等の思い切った事業再構築を支援した。新型コロナウイルス感染症や物価高等により依然として業況が厳しい事業者への支援として「物価高騰対策・回復再生応援枠」を措置することに加え、産業構造の変化等により事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者への支援として「産業構造転換枠」、海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化及び地域産業の活性化に取り組む事業者(製造業)への支援として「サプライチェーン強靱化枠」、成長分野への事業再構築を支援するべく売上高減少要件を撤廃した「成長枠」を新設するなど、ポストコロナ社会を見据えた未来社会を切り拓くための取組を重点的に支援した。

6.両立支援等助成金(新型コロナウイルス感染症対応特例)【令和5年度当初予算41.6億円の内数】

両立支援等助成金の育児休業等支援コースにおいて、新型コロナウイルス感染症への対応として、小学校等の臨時休業等により、子どもの世話をする労働者が利用できる特別休暇制度及び両立支援制度を導入し、特別休暇の利用者が出た事業主に対して支給した。

両立支援等助成金の介護離職防止支援コースにおいて、新型コロナウイルス感染症への対応として、法定の介護休業とは別に家族の介護が必要な労働者が利用できる有給休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く。)を設け、仕事と介護の両立支援制度の内容を含めて周知し、当該休暇を取得させた中小企業事業主に対して支給した。

7.新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援【令和5年度当初予算:3.9億円】

新型コロナウイルス感染症の感染に不安やストレスを抱える妊娠中の女性労働者の雇用の安定を図るため、新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として、医師等の指導により休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が取得できる有給の休暇制度を設け、当該休暇を取得させた事業主に対し助成を行った(対象期間は2023年9月30日まで)。

第2節 取引環境の改善

1.中小企業取引対策事業

○下請等中小企業の取引条件の改善

「未来志向型の取引慣行に向けて」(2016年9月)の公表以降、中小企業庁では、取引適正化に向けた重点5課題(〔1〕価格決定方法の適正化、〔2〕支払条件の改善、〔3〕型取引の適正化、〔4〕知財・ノウハウの保護、〔5〕働き方改革に伴うしわ寄せ防止)を設定し、サプライチェーン全体にわたる取引環境の改善に向けた取組を行ってきた。

(1)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(2021年12月27日)に基づく価格転嫁対策、(2)価格交渉促進月間など、特に、価格転嫁のしやすい取引環境の整備に向け必要な対策を講じていく。2023年度に講じた具体的な取組内容としては、下記の通り。

(1)パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ

中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、コスト上昇分を適切に転嫁できることを目的とし、2021年12月27日に「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられた。同パッケージに基づき、1~3月を「集中取組期間」として、中小企業庁と公正取引委員会は、事業所管省庁などとも連携し、下請法の執行強化等、価格転嫁に向けた取組を実施した。

(2)価格交渉促進月間

9月と3月を価格交渉促進月間と設定し、広報や講習会を集中的に実施するとともに、月間終了後には、下請Gメンによる中小企業へのヒアリング調査や、アンケート調査といった、フォローアップ調査を実施し、「業界別の転嫁率」や「発注企業ごとの価格交渉・転嫁状況の企業リスト」を公表した。また、その結果に基づき、価格転嫁や価格協議の状況について、問題があるおそれがある発注側企業に対して、下請中小企業振興法に基づく指導・助言を実施した。

○下請代金支払遅延等防止法(下請代金法)の運用

下請代金支払遅延等防止法(下請代金法)の厳正な執行のため、定期調査の結果を踏まえ、下請代金法違反の可能性がある企業に赴いて注文書などの帳簿書類を検査、違反事項に対する改善指導を行うべく立入検査を実施。

○下請中小企業振興法(下請振興法)に基づく対応

大企業と中小企業との取引の適正化を図るため、必要に応じて、振興基準を改正するなど所要の措置を講じた。また、年に2回実施する価格交渉促進月間のフォローアップ調査結果を踏まえ、価格転嫁や価格協議の状況について、問題があるおそれがある発注側企業に対しては、下請中小企業振興法に基づく指導・助言を行った。

○下請かけこみ寺の運営

全国48か所に設置した「下請かけこみ寺」において、中小企業の取引に関する相談対応や、裁判外紛争解決手続(ADR)にかかる相談などを実施した。

○講習会・セミナーの開催等

〔1〕価格交渉促進月間の実施にあわせた、中小企業の担当者を対象とする価格交渉サポートセミナーや、〔2〕下請法の違反行為を未然に防止するための親事業者の調達担当者等を対象とした下請法や下請ガイドラインに関するセミナーなどを開催した。

○消費税転嫁状況監視・検査体制強化等事業

消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため、相談専用電話、違反被疑情報受付サイト等を通じて違反行為の情報を収集し、取引先に買いたたき等の消費税転嫁拒否行為を行っている可能性がある事業者に対し、立入検査等を実施した。違反行為が確認された場合は、違反事業者に対して改善指導を行った。

2.パートナーシップ構築宣言の推進

サプライチェーン全体の共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」の宣言企業数拡大のための周知等を行うとともに、宣言の実効性向上に向けて、宣言の取組状況に関する調査を行い、その結果を12月に開催した「第5回未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」に報告した上で、宣言企業に対して調査結果のフィードバックを行った。また、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大、意義の浸透、実効性の向上と、サプライチェーン全体での協力拡大に向けた機運醸成を目的として3月に「第2回パートナーシップ構築シンポジウム」を開催し、新たな連携に取り組む優良事例の表彰・紹介を行った。

3.デジタル取引環境整備事業【令和5年度当初予算:4.9億円】

デジタルプラットフォーム(オンラインモール、アプリストア、デジタル広告)を利用する中小事業者等(出店事業者、デベロッパー、広告主、媒体社等)向けに、取引上の悩みや相談に専門の相談員が無料で応じる「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」を設置するとともに、各種デジタルプラットフォームを巡る取引環境等を把握するための市場調査等を実施する。

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