第4節 まとめ
本章では、共通基盤としての取引適正化とデジタル化、支援機関・伴走支援の状況について確認した。
第1節では、取引適正化と価格転嫁について確認した。感染症流行前や、2021年と比べて受注量・受注単価が回復傾向にある企業も存在することが確認された。一方で、足下の物価変動を受けて、原材料価格や人件費、エネルギーコストの上昇が多くの受注側事業者において実感されている。特に労務費やエネルギーコストなど、コストの内容によって価格転嫁が厳しい状況にあることが分かった。今後の適正な価格転嫁に向けては、受注側事業者が特定の企業間取引に依存しないように販売先数を増やすことや、価格交渉月間の実施及びその結果を踏まえた指導・助言、実効性を高めるための踏み込んだ情報開示により、受注側事業者の取引環境を整えることを通じて、中小企業・小規模事業者のより一層の価格転嫁を進めることが必要となっている。
第2節では、中小企業のデジタル化について、過去2年間の白書の分析を踏まえながら、中小企業のデジタル化のきっかけや市区町村の人口規模別にデジタル化進展の背景を概観した上で、中小企業がデジタル化の取組を進展させるための戦略やデジタル人材等について確認した。
人口規模の小さい市区町村に所在する中小企業ほど、デジタル化の取組に対する自治体や支援機関による支援、ITベンダー、通信インフラの整備等の現状が十分ではないと感じている傾向にあることを確認した。自治体は中小企業のデジタル化に対して積極的にリーダーシップを発揮するとともに、デジタル田園都市国家構想総合戦略に基づくデジタル推進人材の育成や通信インフラの整備等について、地方のニーズに合わせて今後もスピード感を持って推進していくことが期待される。
次に、デジタル化のビジョン・目標の設定や業務の棚卸しなどを戦略的に実施している企業では、デジタル化による効果を実感しながら着実に取組段階を進展させており、組織的・戦略的にデジタル化に取り組んでいくことが重要であることを指摘した。また、中小企業では高度なスキルを持つデジタル人材を確保できていない企業においてもデジタル化の取組段階を進展させている企業が一定数存在しており、必ずしも高度なスキルを持つデジタル人材を自社内に抱えていなくても、デジタル化の取組を進展させることが可能であることを指摘した。さらに、デジタル人材の確保・育成に向けて、求めるスキルや人材像の明確化等ができている企業ではデジタル人材を確保できている割合が高く、こうした取組の重要性を指摘した。また、5年前と比べて中小企業からデジタル化に関する支援機関への相談件数が増加する中で、支援機関もデジタル支援に関する支援能力を向上させていることを確認した。中小企業のデジタル化支援において他の支援機関と連携している支援機関では、その頻度が高いほど、連携による効果を実感しているとともに、現在のデジタル化支援について対応できている支援機関が多いことを確認した。支援機関が組織・団体を超えた連携体制を構築し、互いの強みをいかしながら支援を行っていくことが期待される。
第3節では、支援機関による課題解決の状況や、本質的な課題設定の状況、伴走支援の実施状況などを確認し、支援機関の現状を概観するとともに、支援機関の能力向上の取組や支援機関同士の連携について分析した。
支援機関における課題解決の状況を概観したところ、支援機関の支援により事業者の経営課題は一定程度解決されているものの、解決状況には向上の余地もあることが確認された。また、事業者は、支援機関に対して本質的な課題設定を伴う支援を期待しており、支援機関においては、本質的な課題設定と事業者の自己変革を促す伴走支援の取組が進展していることも確認された。
支援機関の支援能力向上の取組については、支援ノウハウが蓄積されることで、事業者の課題解決や、本質的な課題設定、伴走支援の取組が進展することが示された。支援ノウハウの蓄積においては、各相談員の支援能力の見える化を通じたOJTや有効事例の共有、相談員同士の連携の取組が効果的であることが示された。また、組織全体の支援件数を見える化し、支援計画を策定してPDCAサイクルを回すことが、事業者の課題解決につながる可能性も示された。
支援機関が単独では対応できない経営課題については、支援機関同士で連携して支援することの有効性も確認された。他機関との連携においては、連携相手となる他機関に対する理解度が高いほど効果的な連携を実施できることや、各相談員の支援能力を対外発信することが他機関からの理解につながり、連携が促される可能性が示された。