トップページ 白書・統計情報 中小企業白書 2022年版 中小企業白書(HTML版) 第1部 令和3年度(2021年度)の中小企業の動向 第1章 中小企業・小規模事業者の動向 第3節 雇用の動向

第3節 雇用の動向

感染症は企業の事業活動に大きな影響をもたらし、企業で雇用される労働者にも様々な影響が生じている。本節では、感染症流行による雇用環境への影響を概観するとともに、中小企業における雇用状況について見ていく。

1.我が国の雇用環境

始めに、雇用情勢を示す代表的な指標として、完全失業率と有効求人倍率の推移について確認する(第1-1-43図)。完全失業率は、2009年中頃をピークに長期的に低下傾向で推移してきたが、2020年に入ると上昇傾向に転じ、その後は再び低下傾向で推移している。また、有効求人倍率も2020年に入り、大きく低下したものの、再び緩やかな上昇傾向となっている。

第1-1-43図 完全失業率・有効求人倍率の推移

続いて、従業者と休業者の動きについて確認する(第1-1-44図)。感染症の拡大を受けて第1回緊急事態宣言が発令された2020年4月に休業者数と従業者数で大きな変動があったが2021年に入ると、月によって増減を繰り返しながら推移し、足元では従業者が減少傾向、休業者が増加傾向となっている。

第1-1-44図 従業者・休業者の推移

次に、雇用者数の動きを確認する。第1-1-45図は、雇用形態別に見た雇用者数の前年差の推移を見たものである。「正規の職員・従業員」の雇用者数は2015年から毎年前年から増加しているのに対して、「非正規の職員・従業員」の雇用者数は2020年に大きく減少し、2021年も2020年と比べて減少幅が小さいものの、引き続き前年から減少している。また、月別に前年同月差を見ると、2020年の初め頃から「非正規の職員・従業員」の雇用者数は減少し、2021年4月頃にその傾向が一時的に収まったが、8月頃から再び減少している。12月は正規・非正規ともに前年同月より増加しているものの、その増加幅は小さい(第1-1-46図)。

第1-1-45図 雇用形態別に見た、雇用者数の推移(前年差)
第1-1-46図 雇用形態別に見た、雇用者数の推移(前年同月差)

次に、業種別に雇用者数の動向を確認すると、特に感染症による影響を受けた「宿泊業,飲食サービス業」や「生活関連サービス業,娯楽業」は、2020年に引き続き2021年においても前年同月と比べて減少している。2021年12月時点においてもおおむね前年同月を下回っていることから依然として雇用者数が戻っていない様子が分かる。

一方で「情報通信業」の雇用者数は2020年に引き続き2021年においても前年同月を上回っており、業種ごとに異なる傾向となっている(第1-1-47図)。

第1-1-47図 業種別に見た、雇用者数の前年同月比の推移

2.中小企業の雇用状況

ここからは、中小企業の雇用をめぐる状況について見ていく。

第1-1-48図は、景況調査を用いて、業種別に従業員の過不足状況を見たものである。2013年第4四半期に全ての業種で従業員数過不足DIがマイナスになり、その後は人手不足感が高まる傾向で推移してきた。2020年に入ると、この傾向が一転して、第2四半期には急速に不足感が弱まり、製造業と卸売業では従業員数過不足DIがプラスとなった。足元では、いずれの業種も従業員数過不足DIはマイナスとなっているが、製造業を除き僅かに人手不足感が弱まっている。

第1-1-48図 業種別に見た、従業員数過不足DIの推移

第1-1-49図は、従業者規模別に雇用者数の前年同月差の推移を見たものである。どの従業者規模においても2020年4月頃から特に非正規の職員・従業員数が減少しているが、特に従業者規模が「1~29人」の企業においては、他の従業者規模の区分と比べて減少幅が大きい状況が見て取れる。

第1-1-49図 従業者規模別に見た、雇用形態別雇用者数の推移(前年同月差)

次に、従業員規模別に各業種における雇用者数の動向を確認する。従業員規模が「1~29人」の区分では、特に感染症による影響を受けた「宿泊業,飲食サービス業」や「生活関連サービス業,娯楽業」において、2021年も前年同月比で減少している月が多く、依然として雇用者数が戻っていない様子が分かる。

一方で、「情報通信業」の雇用者数は、他業種と比較して感染症下にあっても前年同月を上回る月が多い(第1-1-50図)。

従業員規模が「30~99人」の区分では、「宿泊業,飲食サービス業」において、2021年も前年同月比で大きく減少して推移している状況が見て取れる。また、「生活関連サービス業,娯楽業」においては、2021年後半から足元にかけて前年同月比で見た減少率が高まっており、雇用者数の減少が加速している様子が分かる(第1-1-51図)。

第1-1-50図 業種別に見た、雇用者数の前年同月比の推移(従業員規模1~29人)
第1-1-51図 業種別に見た、雇用者数の前年同月比の推移(従業員規模30~99人)

コラム1-1-1:人口減少と人手不足

総務省統計局は、2021年11月に「令和2年国勢調査」において人口基本集計結果を公表した。公表結果では、我が国の人口を男女別や都道府県別などの属性別に集計した人口の確定値が示されている。

これによると、2020年10月1日現在における我が国の人口は1億2,614万6千人であり、前回調査の2015年と比較し、94万9千人減少している結果となった。人口増減率は、第2次ベビーブームにより、1970~1975年に7.0%を記録して以降は増加幅が縮小し、2010~2015年には、1970年以降、初めての人口減少となった。2015~2020年も引き続き人口減少となっているが、減少幅はやや縮小した。

コラム1-1-1〔1〕図 国勢調査に基づく最新の人口状況

また、年齢3区分別の人口の割合を見てみると、2020年における生産年齢人口(15歳~64歳)の割合は、1970年以降初めて60%を下回った。過去の中小企業白書においても当時の人口動態を紹介した上で、生産年齢人口の変化が中小企業の人手不足感の高まりが起こる構造的な背景として指摘してきたが、改めて足元においても生産年齢人口の割合が低下している趨勢が続いていることが確認できる。また年少人口(15歳未満)の割合は調査開始後、過去最低を更新する一方で、老年人口(65歳以上)の割合は1970年以降、過去最高を更新している状況にもあり、生産年齢人口が減少する傾向は将来にわたって継続することが見込まれる。

コラム1-1-1〔2〕図 最新の年齢3区分別人口

コラム1-1-2:感染症流行前後の外国人労働者数

コラム1-1-1では、2015年の国勢調査以降、我が国の人口が減少していることや、生産年齢人口の減少傾向が将来にわたって継続することが見込まれることを示し、前述の第1-1-48図では、足元の動きとしていずれの業種も人手不足感が高まっている状況を紹介した。ここでは、我が国において経済・社会基盤の持続可能性の確保のため、外国人材を受け入れる体制が進められてきた中で、感染症流行前後における外国人労働者数の状況を確認する。

コラム1-1-2〔1〕図は、外国人労働者数と就業者全体に占める割合の推移を確認したものである。これを見ると、外国人労働者数は毎年増加するとともに、就業者全体に占める割合も上昇しており、外国人労働者の労働市場に占める存在が次第に大きくなっていることが見て取れる。こうした中で、感染症流行後の2020年以降においては、対前年比で見た増加率は低下している(コラム1-1-2〔2〕図)。

コラム1-1-2〔1〕図 外国人労働者数と就業者全体に占める割合の推移
コラム1-1-2〔2〕図 外国人労働者数の対前年増加率

コラム1-1-2〔3〕図は、在留資格別に労働者の動向を確認したものである。これを見ると、感染症流行により水際対策が強化された中で、2021年の技能実習は前年比12.6%減少。感染症流行前(2015年~2019年)の5年間では年平均で約2割増加していたが、初めて前年を下回った。資格外活動(留学)5についても2020年、2021年と2年連続で減少している。こうした動きについては、景気による雇用の影響だけでなく、感染症下における出入国制限の影響もあるとされる6。また、技能実習と資格外活動(留学)における2021年の就労業種を見ると、前者は製造業と建設業で約7割を占めており、後者は宿泊業・飲食サービス業、卸売業・小売業で約6割を占めている(コラム1-1-2〔4〕図)。こうした業種では、足元における外国人労働者の確保が感染症流行前と比べて困難になっている可能性が考えられる。

5 「資格外活動」とは、本来の在留目的である活動以外に就労活動を行うものであり、本コラムでは、「留学」の在留資格に係る資格外活動を取り上げている。

6 厚生労働省「外国人雇用対策の在り方に関する検討会 中間とりまとめ」

コラム1-1-2〔3〕図 在留資格別に見た、労働者数と対前年増加率の推移
コラム1-1-2〔4〕図 在留資格別、就労業種の内訳