ここまで、中小企業・小規模事業者の足元の状況を確認してきた。新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という。)の影響により中小企業は引き続き厳しい状況にあり、影響については引き続き注視していくことが必要である。
一方、感染症の影響による事業環境の変化により、課題も浮き彫りになってきた。中小企業・小規模事業者それぞれが、こうした事業環境の変化に応じて将来に向けた経営戦略を明確にすることも求められている。また、支援策についてもそうした中小企業・小規模事業者が目指す役割や機能に即したものにしていくことが必要である。
本章では、中小企業・小規模事業者の多様性に着目するとともに、多様性を踏まえた今後の中小企業・小規模事業者政策の方向性について概観する。
第1節 中小企業の類型
2020年版中小企業白書1においては、中小企業・小規模事業者の多様性に着目し、中小企業・小規模事業者に期待される役割・機能を、「グローバル展開をする企業(グローバル型)」「サプライチェーンでの中核ポジションを確保する企業(サプライチェーン型)」、「地域資源の活用等により立地地域外でも活動する企業(地域資源型)」、「地域の生活・コミュニティを下支えする企業(生活インフラ関連型)」の四つの類型に分類し、企業の特徴や実態を分析している。
1 2020年版中小企業白書第1部第4章第2節
第1-3-1図は、業種別に、中小企業・小規模事業者が目指す類型を確認したものである。「情報通信業」や「製造業」において「グローバル型」を目指す企業の割合が高い一方、「小売業」や「生活関連サービス業, 娯楽業」では「生活インフラ関連型」を目指す企業の割合が高い。このように、業種によって異なるとともに、同じ業種内においても目指す類型が異なり、業種だけでは捉えきれない多様性が存在することが確認された。
第1-3-2図は、業種別・規模別に労働生産性を確認したものである。情報通信業や輸送用機械器具製造業は従業員規模が大きいほど労働生産性が高くなる一方、小売業や飲食サービス業は従業員規模が大きくなっても、労働生産性の上昇は小さいことがわかる。
中小企業庁「中小企業政策審議会制度設計ワーキンググループ」(以下、「制度設計ワーキンググループ」という。)において、類型ごとの目指す方向性と支援の在り方について検討が行われた。四つの類型の特徴を踏まえ、「地域資源型」や「地域コミュニティ型2」の企業については、規模拡大による労働生産性向上ではなく、持続的成長・発展を通じた地域経済や雇用の維持、「グローバル型」、「サプライチェーン型」の企業については、中堅企業への成長を通じて海外で競争できる企業を増やすというそれぞれの観点から、それぞれ支援を進めていくことが必要であることが示された。
2 2020年版中小企業白書における「生活インフラ関連型」に対応する。