第2節 中小企業・小規模事業者の労働生産性
将来的に人口減少が見込まれる中、我が国経済の更なる成長のためには、企業全体の99.7%を占める中小企業の労働生産性を高めることが重要である。本節では、中小企業・小規模事業者の労働生産性について現状を把握していく。
第1-2-11図は、企業規模別5に、従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)6の推移を示したものである。これを見ると、中小企業の労働生産性は製造業、非製造業共に、大きな落ち込みはないものの、長らく横ばい傾向が続いていることが分かる。
5 本節において、財務省「法人企業統計調査年報」を用いた分析では、資本金10億円以上の企業を「大企業」、資本金1億円以上10億円未満の企業を「中堅企業」、資本金1億円未満の企業を「中小企業」とする。
6 労働生産性の算出に当たっては、厳密には分母を「労働投入量」(従業員数×労働時間)とする必要があるが、本白書ではデータ取得の制約等から、分母に「従業員数」を用いている点に留意されたい。
第1-2-12図は、企業規模別に上位10%、中央値、下位10%の労働生産性の水準を示している。これを見ると、いずれの区分においても、企業規模が大きくなるにつれて、労働生産性が高くなっている。しかし、中小企業の上位10%の水準は大企業の中央値を上回っており、中小企業の中にも高い労働生産性の企業が一定程度存在していることが分かる。反対に、大企業の下位10%の水準は中小企業の中央値を下回っており、企業規模は大きいが労働生産性の低い企業も存在している。
第1-2-13図は、企業規模別、業種別に労働生産性の中央値を比較したものである。これを見ると、業種にかかわらず、企業規模が大きくなるにつれて労働生産性が高くなることが見て取れる。
第1-2-14図は、大企業と中小企業の労働生産性の差分を用いて、労働生産性の規模間格差を業種別に示したものである。これを見ると、「建設業」や「情報通信業」、「運輸業,郵便業」、「卸売業」では大企業と中小企業の労働生産性の格差が大きいことが分かる。一方で、「小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」、「生活関連サービス業,娯楽業」では、大企業も含め業種全体での労働生産性が低いこともあり、企業規模間の格差は比較的小さい。
また、第1-2-15図は労働生産性の規模間格差について、中小企業の労働生産性に対する大企業の労働生産性の倍率を用いて、業種別に示したものである。これを見ると、「小売業」や「生活関連サービス業,娯楽業」では、倍率で見ても企業規模間の格差が比較的小さいことが分かる。
第1-2-16図は、上位25%と下位25%の値の差分を用いて、同一企業規模内における労働生産性の企業間格差を業種別に示したものである。これを見ると、労働生産性の水準が相対的に低い「小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」、「生活関連サービス業,娯楽業」では、同一企業規模内での企業間格差も小さいことが見て取れる。
以上から、労働生産性の規模間格差や企業間格差の状況は、業種によっても大きく異なることが分かる。特に、業種全体として労働生産性の水準が低い「小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」、「生活関連サービス業,娯楽業」においては、個別企業の経営努力や企業規模の拡大のみによって、労働生産性を大幅に向上させることは容易でない可能性も示唆される。