第4章 経営の下支え、事業環境の整備
第1節 取引条件の改善
1.下請等中小企業の取引条件の改善【R3年度当初予算:9.8億円の内数】
サプライチェーン全体の取引環境改善を目的として策定された「未来志向型の取引慣行に向けて」を踏まえて、下請法関係法令の周知・徹底を図るとともに、産業界による下請取引適正化への取組をまとめた「自主行動計画」の着実な実行と取組業種の拡大を進めていくとともに、下請Gメンによる下請中小企業へのヒアリング調査などによる取引実態の把握に努めていく。
また、支払条件の更なる改善に向け、自主行動計画やガイドラインの策定といった各業界による自主的な取組を後押しし、手形通達改正を踏まえた見直しが行われるよう働きかけを行っていく。さらに、約束手形の利用をやめたい事業者の意向も鑑み、その利用の廃止に向けた環境を整備していくため、各産業界と金融界による自主行動計画の策定・改定を進めるとともに、その進捗状況をフォローアップしていく。
加えて、知的財産取引における企業間の共存共栄を推進していくため、ガイドラインや契約書のひな形の周知・普及、知財支援の体制強化、中小企業の気づきや知財経営を促す取組を実施する。
さらに、型取引の適正化推進のため、産官学からなる「型取引の適正化推進協議会」を主催し、各業界団体から型取引の適正化に向けた取組の報告を受けるとともに、成功事例を共有するなどし、より一層の取組推進を促していく。
2.下請代金法の運用【R3年度当初予算:9.8億円の内数】
下請取引適正化、下請事業者の利益保護のため、公正取引委員会と中小企業庁が密接な協力関係の下、下請法を執行する。公正取引委員会及び中小企業庁が親事業者等に対して書面調査等を実施するとともに、下請代金法違反に関する情報提供や申告等を受け付けて精査するなど、下請代金法の厳格な運用に努める。
3.取引適正化に向けた取組の周知徹底【R3年度当初予算:9.8億円の内数】
全国48か所に設置する「下請かけこみ寺」において、中小企業の企業間取引に関する相談に対応する。また、下請等中小企業の経営者や営業担当者が、親事業者の調達部門への価格交渉を行う上で必要な価格交渉ノウハウについて、セミナー等を行う。さらに、下請法違反行為等を未然に防止するため、親事業者の調達担当者等を対象とした講習会を開催し、一層の周知を図るほか、全国で親事業者の取組事例等を紹介し、広く下請法等の遵守を呼びかけるシンポジウム等を開催する。
4.下請事業者への配慮要請
経済産業大臣及び公正取引委員会委員長の連名で、関係事業者団体代表者に対し、下請代金法に基づく下請取引の適正化等について要請文を発出し、同法の周知徹底を図る。
5.消費税転嫁状況監視・検査体制強化等事業【R3年度当初予算:26.9億円の内数】
消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「消費税転嫁対策特別措置法」という。)は、2021年3月31日をもって失効したが、失効前に行われた転嫁拒否行為については、失効後も国による調査・指導・勧告の対象となる(附則第2条第2項)。公正取引委員会及び中小企業庁は、消費税転嫁対策特別措置法の失効後も、引き続き、転嫁拒否行為に対する監視・調査・指導等を行う。
消費税の円滑かつ適正な転嫁を行うため、全国に転嫁対策調査官を配置。あわせて、消費税の転嫁拒否等の行為に関する情報を収集するため、公正取引委員会と合同で中小企業・小規模事業者全体に対して大規模な書面調査を実施するなど、転嫁拒否行為等の監視・取締りを行う。
6.大企業と中小企業の共存共栄関係の構築
感染症の影響等により、中小企業・小規模事業者に経営環境悪化のしわ寄せが及ばないよう取引適正化等を促進するために導入した「パートナーシップ構築宣言」の作成・公表に向けた周知や働きかけを実施する。
第2節 官公需対策
1.「令和3年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」の策定及び周知徹底【R3年度当初予算:9.8億円の内数】
毎年度策定する「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」において、国等の中小企業者向け契約目標、中小企業者の受注機会の増大のために実施する措置等を閣議決定する。また、同基本方針を周知徹底するため以下の取組を実施する。
(1)経済産業大臣から各府省等の長、都道府県知事、全市町村の長及び東京特別区の長に対し、文書により基本方針の趣旨を説明するとともに、中小企業・小規模事業者の受注機会の増大に努めるよう要請する。
(2)地方自治体に対し基本方針の周知徹底を図るため、説明会(官公需確保対策地方推進協議会)を全都道府県で開催する。
(3)基本方針をはじめとした国の施策や調達に関する取組事例などの情報共有を行い、国と地方自治体との連携方策を協議するための会議(都道府県中小企業者調達推進協議会)を開催する。
(4)「官公需契約の手引」を作成し、国等の機関、地方公共団体等の機関及び商工関係団体等に配布する。
2.中小企業・小規模事業者の受注機会増大のための「官公需ポータルサイト」【R3年度当初予算:9.8億円の内数】
中小企業・小規模事業者が官公需に関する発注情報を入手しやすくするため、国等や地方公共団体がホームページで提供している発注情報等を中小企業・小規模事業者が一括して入手できる「官公需情報ポータルサイト」を運営する。
第3節 資金繰り支援
1.セーフティネット貸付【財政投融資】
日本政策金融公庫が、社会的、経済的環境の変化等外的要因により、一時的に売上の減少等業況悪化を来している中小企業・小規模事業者等の資金繰りを支援する。
2.資本性劣後ローンの推進【財政投融資】
日本政策金融公庫が、新事業展開や経営改善に取り組む中小企業・小規模事業者に対し、財務体質を強化するとともに、民間金融機関からの資金調達の円滑化を図るため、金融機関の資産査定上自己資本とみなし得る一括償還の資金(資本性資金)を供給することで、中小企業・小規模事業者の資金繰りを支援する。
3.信用補完制度を通じた資金繰り支援等
信用補完制度により、〔1〕取引先の倒産、自然災害、取引金融機関の経営合理化等により経営の安定に支障が生じている中小企業・小規模事業者に信用保証協会が通常の保証枠とは別枠を措置し、〔2〕自然災害等の影響により経営の安定に支障が生じた中小企業に対しセーフティネット保証4号を措置。また、東日本大震災により被害を受けた中小企業・小規模事業者を対象とした保証制度(東日本大震災復興緊急保証)を引き続き措置、〔3〕信用保証協会による複数の借入債務の一本化を通じて足下の返済負担の軽減を図る借換保証等を引き続き実施、〔4〕2020年に創設した事業承継特別保証や経営承継借換関連保証により、我が国中小企業の課題である事業承継を推進、〔5〕信用保証協会の利用者又は利用予定している創業(予定)者、経営改善や事業承継、生産性向上に取り組もうとする中小企業・小規模事業者に対して信用保証協会が地域金融機関と連携して、専門家派遣をはじめとした経営支援を実施し、資金繰り支援と一体となった支援を引き続き実施する。
4.認定支援機関による経営改善計画策定支援事業
借入金の返済負担等の財務上の問題を抱え、金融支援を伴う本格的な経営改善を必要とする中小企業・小規模事業者や、資金繰り管理・採算管理といったより早期の経営改善が必要な中小企業・小規模事業者の経営改善を促進するため、中小企業等経営強化法に基づく認定支援機関(税理士・公認会計士・地域金融機関等)が中小企業・小規模事業者に対して行う経営改善計画の策定支援やフォローアップに要する費用の一部(2/3)を負担する。
5.日本政策金融公庫による設備投資の推進等【財政投融資】
日本政策金融公庫が、新事業やビジネスモデルの転換等、生産性向上を図るための設備投資について適用利率を引き下げることで、中小企業・小規模事業者の資金繰りを支援する。
6.小規模事業者経営改善資金融資事業(マル経融資)【財政投融資】
小規模事業者を金融面から支援するため、商工会、商工会議所、都道府県商工会連合会の経営指導を受けている小規模事業者に対して、日本政策金融公庫が無担保・無保証人・低利で融資を行う。
7.小規模事業者経営発達支援融資事業【財政投融資】
事業の持続的発展に取り組む小規模事業者を支援するため、経営発達支援計画の認定を受けた商工会・商工会議所による経営指導を受ける小規模事業者に対し、日本政策金融公庫が低利で融資を行う。
8.(再掲)中小企業・小規模事業者経営力強化融資【財政投融資】
9.金融行政における中小企業・小規模事業者に対する経営支援の強化等
金融機関に対し、担保・保証に過度に依存することなく、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)することを通じて、企業に有益なアドバイスとファイナンスを行うよう促す。
10.沖縄の中小企業金融対策【財政投融資】
沖縄振興開発金融公庫を活用した沖縄の中小企業対策は、日本政策金融公庫が行う業務・取組について同様に行うとともに、沖縄の特殊事情を踏まえ独自の貸付制度を拡充する。
第4節 経営改善支援、再生支援の強化
1.(再掲)認定支援機関による経営改善計画策定支援事業
2.経営支援と一体となった高度化融資による設備資金の支援
工場団地・卸団地、ショッピングセンター等の整備、商店街のアーケード・カラー舗装等の整備などを行う中小企業組合等に対して、都道府県と中小企業基盤整備機構が一体となってその設備資金を長期・低利(又は無利子)で貸し付ける。貸付けに際しては、事前に事業計画について専門的な立場から診断・助言を行う。
第5節 小規模事業者の持続的発展支援
1.(再掲)小規模事業者経営改善資金融資事業(マル経融資)【財政投融資】
2.(再掲)小規模事業者経営発達支援融資事業【財政投融資】
3.小規模事業者支援法による経営発達支援計画の認定
小規模事業者支援法第7条に基づき、商工会・商工会議所が関係市町村と共同して、小規模事業者の技術の向上、新たな事業の分野の開拓、その他の小規模事業者の経営の発達に資する支援計画を作成し、経済産業大臣が認定する。
4.(再掲)地方公共団体による小規模事業者支援推進事業【R3年度当初予算:10.8億円】
5.(再掲)小規模事業者持続的発展支援事業【R1年度補正予算:3,600億円の内数】
第6節 経営安定対策
1.中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済制度)【中小機構交付金の内数】
中小企業倒産防止共済制度は、取引先企業の倒産により売掛金債権の回収が困難となった場合に、積み立てた掛金の額に応じて無利子、無担保、無保証人で共済金の貸付けを行う制度を引き続き行う。
2.経営安定特別相談事業
経営の危機に直面した中小企業の経営上の様々な問題の解決に資するため、全国の主要な商工会議所及び都道府県商工会連合会に「経営安定特別相談室」を設置し、本相談室において、経営安定に関する幅広い分野の経営相談が円滑に実施されるよう日本商工会議所及び全国商工会連合会の実施する指導事業等の支援を実施する。
3.ダンピング輸入品による被害の救済【R3年度当初予算:1.1億円】
貿易救済措置のうちアンチダンピング措置は、他国企業から我が国に対するダンピング輸入により、国内産業が損害を受けた際に、国内産業からの申請に基づき政府が調査を実施した上で関税を賦課することにより、公正な市場競争環境を確保する措置である。2021年度も、国内産業からの申請を受け、国際ルール及び国内法令に基づき公正かつ適切に調査を進めていく。また、企業等への説明会やWTO 協定整合的に調査を行うための調査研究を実施する。
第7節 財務基盤の強化
1.法人税の軽減税率【税制】
中小企業の年間800万円以下の所得金額に対する法人税率を、19%から15%に引き下げる措置を講じる。令和3年度税制改正において、適用期限を2年延長することとされた。
2.中小企業投資促進税制【税制】
機械装置等を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(税額控除は資本金3,000万円超の法人を除く)ができる措置を講じる。令和3年度税制改正において、対象業種の追加等を行った上で適用期限を2年延長することとされた。
3.中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例制度【税制】
取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合、年間300万円を限度に、全額損金算入することができる措置を講じる(連結法人及び従業員500人超の法人を除く)。
4.欠損金の繰越控除・繰戻還付【税制】
欠損金の繰越控除は、当期の事業年度に生じた欠損金を繰り越して翌期以降の事業年度(繰越期間:10年間)の所得金額から控除することができる措置を講じる。また、欠損金の繰戻還付は、当期の事業年度に生じた欠損金を1年繰り戻して法人税の還付を請求することができる措置を講じる。
5.交際費等の損金不算入の特例【税制】
交際費等を支出した場合、〔1〕定額控除限度額(800万円)までの損金算入又は〔2〕支出した接待飲食費の50%までの損金算入のいずれかを選択適用できる措置を講じる。
6.中小企業投資育成株式会社による支援
中小企業投資育成株式会社において、中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な成長発展を図るため、株式、新株予約権、新株予約権付社債等の引受けによる投資事業及び経営相談、事業承継支援等の育成事業を実施する。
第8節 人権啓発の推進
1.人権教育・啓発活動支援事業【R3年度当初予算:1.9億円】
健全な経済活動の振興を促進するため、事業者を対象とした人権啓発のためのセミナー等の啓発事業を実施する。また、小規模事業者等が多く、特に重点的な支援が必要な地域又は業種に係る小規模事業者等の活性化のため、経営等の巡回相談事業及び研修事業を実施する。
第9節 経営支援体制の強化
1.中小企業連携組織支援対策推進事業【R3年度当初予算:6.1億円】
中小企業組合を支援する専門機関の全国中小企業団体中央会等を通じて、経営革新・改善に取り組む中小企業組合等に対して、中央会指導員がサポートしつつ、その実現化に向けた取組を支援する。さらに、外国人技能実習生受入事業を行う中小企業組合(監理団体)等の事業が適正に行われるように支援を行う。
2.中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業【R3年度当初予算:40.9億円/R2年度3次補正予算:9.8億円】
新型コロナウイルスによる影響も含めた中小企業・小規模事業者等が抱える様々な経営課題に対応するワンストップ相談窓口として、各都道府県に「よろず支援拠点」を設置する。地域の支援機関では解決困難な課題に対して、それぞれの課題に対応した専門家を派遣し、その解決を支援する。
3.ローカルベンチマークの活用促進
ローカルベンチマークを活用した企業の事業性評価に基づく、経営改善や生産性向上に向けた取組を引き続き推進する。具体的には、中小企業・小規模事業者支援施策との効果的な連携を検討するほか、各支援機関などのローカルベンチマーク活用に関する取組をフォローアップする。