第3節 まとめ
本章では、中小企業の事業承継の動向とM&Aに対する関心の高まりについて見てきた。
第1節では、休廃業・解散や経営者の高齢化の状況を踏まえて、事業承継の動向について分析した。事業承継の意向を確認したところ、親族への承継を希望する経営者が多いものの、近年の事業承継は親族内承継から親族外承継にシフトしていることが確認された。また、事業承継を実施した企業の承継後の業績を分析したところ、後継者の年齢や事業承継の方法などにかかわらず、総じて事業承継実施企業のパフォーマンスが同業種平均値を上回っていることが分かった。先代経営者や後継者が、事業承継が単なる経営者交代の機会ではなく、企業の更なる成長・発展のための転換点であることを認識した上で、事業承継に向けた準備や承継後の経営に臨むことの重要性を指摘した。
第2節では、近年M&Aの件数が増加していることを踏まえて中小企業のM&Aの実施意向について分析した。M&Aに対するイメージは「プラスのイメージになった」と感じる経営者が多いことが分かった。また、特に過去にM&Aを実施したことがある企業や経営者年齢が若い企業などでは買い手としてのM&A実施意向が高く、売上・市場シェアの拡大など成長戦略の手段として検討している企業が多いことが分かった。また、過去M&Aを実施したことがない企業では、「期待する効果が得られるかよく分からない」ことや「判断材料としての情報が不足している」ことがM&Aの障壁となっている割合が高く、M&A支援機関のサポートの重要性を指摘した。一方で、雇用維持などの事業承継策としてだけでなく、事業の成長・発展や事業再生を目的に売り手としてのM&Aを検討する企業も一定程度存在することを確認した。
事業承継は、企業が更に成長するための転換点と言える。M&Aもまた買い手・売り手双方にとって企業の成長につながる機会と言える。事業承継やM&Aを通じて、これまで企業が培ってきた経営資源を有効活用し、我が国の中小企業が更なる成長・発展を遂げることを期待して、本章の結びとしたい。