第3部 小規模事業者の防災・減災対策 

2 復興に向けて活用したもの

第3-1-15図では、被災した小規模事業者が復興する際に活用した支援策などを示している。これを見ると、「公的機関の相談窓口(商工会・商工会議所含む)」と回答した割合が最も高く、次いで「損害保険」と続いており、公的な支援策のみならず民間サービスの活用も重要であることが分かる。

第3-1-15図 過去の自然災害の被災時において、復興する際に活用したもの
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コラム3-1-1

中小企業の災害に備えた強靱化の取組

●中小企業強靱化研究会の開催(2018年11月~)

2018年度は、2018年7月の西日本豪雨をはじめ、相次ぐ台風被害や北海道胆振東部地震など、地域の中小企業・小規模事業者(以下、「中小企業等」という。)に甚大な影響を及ぼす大規模災害が頻発した。とりわけ、西日本豪雨においては、被害が11府県に及び、中小企業被害額は4,738億円(※)の被害が生ずるなど、広範囲かつ大規模な被害となった。

こうした自然災害に対して、事前のリスク認知や備えを講ずることなく被災した場合、発災直後の混乱や被害により、影響が拡大するおそれがある。一方、平時から防災・減災対策や災害時の代替先の確保、他社との連携、保険・共済などのリスクファイナンスの活用に取り組んでいる事業者は、被災した場合であっても、被害の拡大の回避や復旧支援の獲得、早期の事業再開に成功している事例が存在する。

これまでも中小企業庁では、BCPの策定・運用に必要な事項などをまとめた「中小企業BCP策定運用指針」の公表や、日本政策金融公庫では当該指針に基づき策定したBCPによる施設の耐震化などの取組に対して融資を行う制度を設けて、自然災害への事前の備えを後押しするための施策を講じてきているが、未だ中小企業・小規模事業者の取組は一部に止まっており、一連の自然災害の教訓も踏まえて、更なる取組を促すため、外部有識者からなる「中小企業強靱化研究会」を立ち上げた。

中小企業・小規模事業者の取組を促すためには、事業者自らの取組に加えて、中小企業・小規模事業者を取り巻く関係者の協力も必要である。このため、防災・減災の専門家に加えて、サプライチェーンの大企業や損害保険業界などにも参画いただき、事前の備えを促進するために官民に期待される取組を多角的に検討し、検討結果は、「中小企業・小規模事業者強靱化対策パッケージ」(2019年1月)としてとりまとめた。

(※)中小企業被害額については、激甚災害指定に係る被害調査時点において、自治体から直接被害として報告のあったもの。

●「中小企業・小規模事業者強靱化対策パッケージ」について

官民の多様な主体による取組を強化し、中小企業・小規模事業者の防災・減災対策の取組を加速化していくために、2018年12月14日に改訂された「国土強靱化基本計画(閣議決定)」に沿って総合的な取組を進めていく。

(1)中小企業が、自然災害に備えた事前対策を強化する取組に対して、新たに公的認定制度を設け各種支援措置を講ずる。

(2)公的認定制度の取組内容として、保険加入などを始めとするリスクファイナンス対策の取組を盛り込むことで、リスクファイナンスの取組の促進を図る。

(3)2018年度補正予算を活用して、中小企業の自然災害対応を強化していくため、

〔1〕商工会・商工会議所などの経営指導員による事前対策の啓発活動や、中小企業向けセミナーを全国各地で開催する。

〔2〕公的認定制度を中小企業が活用できるよう、全国各地でワークショップ開催や、中小企業に赴き計画策定を支援するハンズオン支援を実施し、事業者単体又は連携して実施する事前対策の取組を広めていく。

〔3〕中小企業の取組を支援・指導できる人材育成のため、経営指導員や地域の中小企業診断士向けの研修会を開催し、指導人材などを各地に配置していく。

(4)こうした取組を進めていくに当たり、サプライチェーン上の親事業者、地方自治体、損害保険会社・代理店、地域金融機関、商工団体などの中小企業を取り巻く関係者の役割は大きく、これら機関からの働きかけが期待される。

コラム3-2-1図 公的認定制度の基本的な枠組み

●中小企業強靱化法案による支援措置

「中小企業・小規模事業者強靱化対策パッケージ」における対策の実現に向けて今通常国会に、「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律案(中小企業強靱化法案)」を提出した。

同法律案における主要な措置事項は以下のとおりとなっている。

(1)事業継続力強化に対する基本方針を策定する。

(2)中小企業の事業継続力強化に関する計画を認定し、認定事業者に対し、信用保証枠の追加、低利融資、防災・減災設備への税制措置、補助金優先採択などの支援措置を講ずる。

(3)商工会又は商工会議所が市町村と共同して行う、小規模事業者の事業継続力強化に係る支援事業(普及啓発、指導助言など)に関する計画を都道府県が認定する制度を創設する。

事例3-1-1:株式会社IKEMOTO

「豪雨で甚大な被害を受けたが、復旧に向け迅速に対応して再建した企業」

岡山県総社市の株式会社IKEMOTO(従業員数13名、資本金3,500万円)は2012年に設立された、JR西日本関連の橋梁の耐震補強や落橋防止工事のほか、その工法や仮設工事用の資材の開発、資材リースなどを行っている企業である。

平成30年7月豪雨により、本社事務所兼資材倉庫のある総社営業所が被災し、約1m浸水した。資材倉庫に保管していた資材や工具の多くが水に浸かり、車両7台を廃車にせざるを得ない状況で、被害額は総額で約8,000万円に上った。また、請求書などの紙の書類も全て濡れてしまったため、事務面でも大きな被害を受けてしまったという。従業員全員が無事であったことが、せめてもの救いだった。

それでも、池元博之社長は、再建に向けて迅速に対応した。まず、被災翌日の7月7日の午後には全従業員を集めて、1週間で復旧させることを明確な目標に掲げた。そして、復旧に必要な備品が品薄になり手に入らなくなることを危惧し、ワイパーや長靴、スコップなどを直ちにホームセンターで購入し、復旧作業用のレンタカー10台も早急に手配した。このような迅速な行動により、復旧が大いに進んだ結果、JRの災害復旧にも早期に駆け付けることができた。

また、損害保険に加入していたことも支えになった。同社の特殊な業務上、工具類には1台数百万円するものもあるため、事務所のすぐ脇に高梁川があること考慮して、ちょうど豪雨の約1か月前に工具全てに保険を掛ける内容に見直していた。その結果、保険金は約3,500万円支払われることになり、実質的な被害額を抑えることができた。

現在、上記の経験を教訓に、大雨が予想される時には、全ての営業車両を高台へ退避させ、床面に置いてある工具類を全て移動させるなどの対策を行っている。また、外付けハードディスクで管理していたデータが浸水により失われた経験を踏まえ、被災以降はクラウド管理するように切り替えた。また、被災を機に従業員が防災対策を意識するようになり、緊急時の連絡体制の構築、工具類の保管場所、各対応事項のリストもできた。

池元社長は「被災による事業への影響は大きかったが、下を向いていても仕方なく、自社の事業で利益を出し、現在開発中の仮設足場材料や耐震補強材・剥落防止材の開発を進めていけば良いと考えている。今回の件を踏まえ、今後は被災時の体制強化のため、2019年度上旬を目処にBCPを策定したい。」と語っている。

池元博之社長・浸水の痕跡を残す資材倉庫の壁面

事例3-1-2:有限会社瀬戸生花

「大規模災害の被災をきっかけに、生産性向上に取り組む企業」

福井県坂井市の有限会社瀬戸生花(従業員7名、資本金300万円)は、主にキクの花束の製造、加工を行う企業である。もともとはキクなどの栽培農家で、ハウス34棟で年間95万本のキクを出荷するまで成長し、1999年に6次産業化の取組として生花を加工する法人を設立した。キクを加工した花束は、福井県内のスーパーやホームセンターなどの量販店30店以上に出荷している。

同社は、2017年からの約1年間に3回もの自然災害に遭い、甚大な被害を受けた。2017年10月の台風第21号と2018年2月の福井豪雪により、34棟あったハウスのうち27棟を倒壊で失った。続いて、2018年7月の西日本豪雨により、農地が冠水し、お盆用に作付けした露地栽培のキク約25万本のうち、7万本以上が出荷できなくなり、加工用の生花を外部から調達せざるを得なくなった。自社栽培と比べ、外部調達は原価率が高く、被害を受けるまでの栽培に係る人件費(約115万円)や、ハウスの解体・撤去など広範に渡る被害は経営に大きな打撃を与えたという。

被災経験をきっかけに、瀬戸誠市社長は収益性の高い事業体制へ見直しを行った。まず、倒壊したハウスの再建を6棟にとどめ、露地栽培中心に切り替えた。ハウス栽培では通年出荷が可能であったところ、お盆や彼岸、正月など需要が集中する時期へ絞り込んで花束を出荷する方針とした。

この事業体制の見直しには、鮮温庫を中心とした「鮮温保管システム」の構築が鍵となる。2018年の試験導入では、生花の保管を2倍近く長期化でき、需要期まで待って花束を出荷することが可能になったため、これまでは従業員が残業して集中的に行っていた加工作業を平準化することができた。また、自前の農地だけでなく外部からもキクを調達していたが、需要期よりも早い安価な時期に仕入れて保管することも可能となり、利益率が大幅に向上するなどの効果も見込まれている。

現在、鮮温庫は建設中であるが、2年後には経常利益の450%以上の増加を見込んでいる。また、システム構築に当たり、生産体制の見直し・管理運営は経験を積んだ従業員に任せ、経営安定化に向けた新規事業は瀬戸社長が担うという役割分担の明確化も、同社の業務効率化に大いに奏功している。

「災害で極めて大きな被害を受けたが、それを逆手に取って、働き方改革や収益性の向上に結び付けることができた。この地域は米も美味しいため、業務効率化を進め、創出した余力で、新規事業として稲作の拡大を進めたい。」と瀬戸社長は語る。

同社の従業員の皆さん(鮮温庫前にて)・導入された鮮温庫の内部・パック花加工作業
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