2 我が国の経営者参入の概観
本項では、総務省「就業構造基本調査」を用いて、「新たな経営の担い手2」の実態や経年変化を概観し、我が国の経営者参入の実態について分析していく。
2 本項でいう「新たな経営の担い手」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答した者をいう。代表権のない役員も含まれることには留意が必要である。
具体的には、まず、新たな経営の担い手全体の経年変化を概観する。新たな経営の担い手には、起業により経営者に参入する「起業家3」、事業承継により経営者に参入する「後継経営者4」が含まれる。これを踏まえて、起業家や起業を希望する者、及び後継経営者や事業承継を希望する者についてもそれぞれ分析していく。
3 本項でいう「起業家」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職をついた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答し、かつ「自分で事業を起こした」と回答した者をいう。なお、副業としての起業家は含まれていない。
4 本項でいう「後継経営者」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職をついた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答し、かつ「自分で事業を起こしていない」と回答した者をいう。
〔1〕新たな経営の担い手の概観
第2-2-2図は、新たな経営の担い手の推移を参入の形態別(起業・事業承継)に見たものである。これを見ると、新たな経営の担い手全体で減少傾向にあり、かつ起業家、後継経営者ともにそれぞれ減少していることが分かる5。
5 なお、自分で事業を起こしたかについて無回答の者については、起業家か後継経営者か区別がつかないため、「その他の経営者(無回答)」とし、以後の分析では扱わない。

第2-2-3図は、新たな経営の担い手が参入する業種の割合の長期的な推移について見たものである。これを見ると、1992年以降、主に情報通信業が増加し、製造業、運輸業、小売業などが減少傾向にあることが分かる。

特に2017年について、起業家と後継経営者に分けて参入する業種を見たものが第2-2-4図である。起業家では後継経営者に比べて飲食店や学術研究、専門・技術サービス業の割合が高く、後継経営者では起業家に比べて農林漁業、製造業、不動産業、その他サービス業の割合が高いことが分かる。

〔2〕起業の担い手の概観
ここからは、起業家や起業を希望する者(以下、本項では「起業希望者6」という。)、起業の準備をする者(以下、本項では「起業準備者7」という。)などを「起業の担い手」と捉え、経年変化を概観することで、我が国の起業の実態について分析していく。
6 本項でいう「起業希望者」とは、有業者のうち「他の仕事に変わりたい」かつ「自分で事業を起こしたい」と回答した者、又は無業者のうち「自分で事業を起こしたい」と回答した者をいう。なお、副業起業希望者は含まれていない。
7 本項でいう「起業準備者」とは、起業希望者のうち「(仕事を)探している」、又は「開業の準備をしている」と回答した者をいう。なお、副業起業準備者は含まれていない。
第2-2-5図は、起業希望者数、起業準備者数、起業家数などの推移を示したものである。これを見ると、起業希望者数、起業準備者数、起業家数ともに2007年以降は減少傾向にある。他方、起業家数の減少割合は、起業希望者数と起業準備者数の減少割合に比べて緩やかであることが分かる。

また、副業として起業を希望する者や準備をする者(以下、本項ではそれぞれ「副業起業希望者」、「副業起業準備者」という。)は増加しており、起業希望者や起業準備者の減少を補っていることが分かる。
なお、起業準備者に対する起業家の割合は、2007年から2017年にかけて、34.7%、40.4%、43.6%と上昇している。
〔3〕起業家の概観
ここからは、起業家について概観していく。
第2-2-6図は、起業家数の推移を男女別に見たものである。男性の起業家が減少する一方、女性の起業家は増加しているため、起業家全体に占める女性起業家の割合は上昇している。

また、第2-2-7図では起業家の年齢構成を男女別に見たものである。2007年から2017年にかけて男女ともに49歳以下の年齢層の割合が高まっており、特に女性については、62.3%から76.2%へ大きく増加していることが分かる。

次に、年代ごとに母集団数の歪みを補正するため、年齢階層別に起業率8の推移を見たものが第2-2-8図である。これを見ると、多くの年代で起業率は低下傾向にある中で、26~39歳では上昇傾向にある。
8 本項でいう「起業率」とは、各年齢階層の総人口に対する起業家の割合をいう。

第2-2-9図は2017年の起業家の起業分野について、男女別、年齢別に見たものである。これを見ると、男性では相対的に建設業、製造業、運輸業、情報通信業、卸売業での起業が多いのに対し、女性では小売業、飲食店、生活関連サービス業、医療・福祉、教育での起業が多い。

年齢別では、60~69歳では農林漁業や学術研究、専門・技術サービス業、50~59歳では運輸業、40~49歳では建設業や教育、26~39歳では情報通信業や生活関連サービス業が比較的多いことが分かる。
〔4〕起業希望者の概観
ここからは、起業希望者について概観していく。
第2-2-10図は、起業希望者の推移について男女別に見たものである。これを見ると、1997年から2007年にかけて男女とも起業希望者・副業起業希望者の合計が減少したが、2012年から2017年にかけては男女ともに副業起業希望者の増加が起業希望者の減少を補う形で、起業希望者・副業起業希望者の合計が横ばいを維持していることが分かる。

第2-2-11図は年齢別の起業希望率9の推移を見たものである。これを見ると、多くの年代で起業希望率は低下傾向にある。直近では26~39歳、40~49歳で起業を希望する割合が高いことが分かる。
9 本項でいう「起業希望率」とは、各年齢階層の総人口に対する起業希望者の割合をいう。

第2-2-12図は、今の仕事をやめて「ほかの仕事に変わりたい」者(転職希望者)を、起業したい者(以下、「起業希望者(有業者)という。」)とそれ以外の者(以下、「その他の転職希望者」という。)に分けて、仕事を変えたい理由について比較したものである。これを見ると、「収入が少ない」、「時間的・肉体的な負担」を理由に、仕事を変えたいと回答した起業希望者(有業者)の割合は、その他の転職希望者より少ない。また、「知識・技術を生かす」を理由に仕事を変えたいと回答した起業希望者(有業者)の割合は、その他の転職希望者より多いことが分かる。

〔5〕後継経営者の概観
ここからは、後継経営者や、事業承継を希望する者(以下、本項では「後継希望者10」という。)などを「事業承継の担い手」と捉え、経年変化を概観することで、我が国の事業承継の実態について分析していく。
10 本項でいう「後継希望者」とは、有業者のうち「他の仕事に変わりたい」かつ「家業を継ぎたい」と回答した者、又は、無業者のうち「家業を継ぎたい」と回答した者をいう。家業以外の事業を継ぎたいと考えている者は含まれていないことには留意が必要である。
まず、後継経営者について概観していく。
第2-2-13図は、後継経営者数の経年変化を見たものである。これを見ると、後継経営者数は下げ止まっており、2017年では女性の後継経営者が占める割合が高くなっていることが分かる。

第2-2-14図は、後継経営者の年齢構成について見たものである。2017年を見ると、男性では60~69歳の割合が高く、経営者や会社役員に就任する中心の年代であることが分かる。女性では、26~39歳の割合が高く、男性に比べて若い年代が多いことが分かる。

経年変化については、2017年は2012年に比較して、男女ともに49歳以下の割合が増加している。経営の担い手の若い年代への代替わりが進んでいるものと考えられる。
次に、年代ごとに母集団数の歪みを補正するため、年齢階層別の事業承継割合11の推移を見たものが第2-2-15図である。これを見ると、2012年から2017年にかけて50~59歳、60~69歳が低下しており、26~39歳は上昇していることが分かる。
11 本項でいう「事業承継割合」とは、各年齢階層の総人口に対する後継経営者の割合をいう。

第2-2-16図は2017年の後継経営者の事業承継分野について、男女別、年齢別に見たものである。これを見ると、男性では相対的に農林漁業、建設業、製造業、情報通信業、その他サービス業での事業承継が多いのに対し、女性では小売業、不動産業、生活関連サービス業での事業承継が多いことが分かる。また、女性の事業承継分野を起業分野(第2-2-9図)と比較すると、事業承継では建設業や製造業も相応にいることが分かる。

年齢別では、60~69歳では農林漁業、50~59歳では製造業、40~49歳では建設業、26~39歳では情報通信業や小売業が比較的多いことが分かる。
〔6〕後継希望者の概観
ここからは、後継希望者について概観していく。
第2-2-17図は、後継希望者数の推移について見たものである。これを見ると、男性は減少傾向にあるのに対し、女性はほぼ横ばいで推移していることが分かる。

次に、年齢別の後継希望率12の推移を見たものが第2-2-18図である。これを見ると、25歳以下では減少しているものの、26~39歳での後継希望率は、比較的高い水準で推移していることが分かる。
12 本項でいう「後継希望率」とは、各年齢階層における総人口に対する後継希望者の割合をいう。

〔7〕まとめ
以上より、経営の担い手全体では、起業家、後継経営者ともに減少傾向にあるものの、年代別で見ると26~49歳の割合が増加していることが分かった。
起業の担い手については、副業起業希望者が増えていることや、起業希望者は転職希望者に比べて技術・知識をいかすために仕事を変えたい者が多いことが分かった。
技術・知識をいかすために起業する場合、必ずしも現職をやめたい理由があるとは限らない。副業起業希望者が増えているのも、現職をやめることによるリスクを考慮している者が増えているからではないだろうか。起業家を増やしていくためには、現職を続けるか起業するか迷っている層に対して、起業に失敗しても再起しやすい環境や、現職をやめずに副業として起業できる環境を提供することも有効といえよう。