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中小企業の会計に関する検討会 第5回ワーキンググループ 議事要旨

日時:平成23年5月17日(火) 16:00~18:10
場所:経済産業省別館11階 1120会議室
議事概要:日本商工会議所の荒井担当部長よりプレゼンテーションが行われた後、自由討議。WGにおいて検討すべき論点について意見交換を行った。また、事務局より「会計の活用」について説明の後、自由討議。


プレゼンテーションについて

  • 有価証券について、「法人税法上の売買目的有価証券」という区分が明示されているが、属性あるいは保有目的に着目した区分なのか、明確にしておく必要があるのではないか。また、「時価で計上する」とあるが、時価の概念は広いので、「市場価格がある」など、どのレベルをイメージしているのか明確にしておく必要があるのではないか。
  • 減価償却は毎期規則的に実施しなければならないが、金額算定の妥当性が分からないという事情があるため、一つの尺度として法人税法上の減価償却限度額と実際の減価償却額との差額を開示することとしてはどうか。償却が出来ない場合は実施しなくてもよいと解釈できるような記載は、減価償却しないことを認めることになるため問題である。
  • 外貨建取引や引当金等の項目はどうなったのか。
  • 今回は最終的な仕上がりの形式の確認のために作成したもの。形式がこれでよければ今後他の勘定科目についても提示していきたい。
  • 棚卸資産の評価減については、会社法上強制規定となっており、学説上、回復不明の場合も含むこととなっているが、回復の見込がない場合だけにした方が、中小企業の経営者には分かりやすくてよい。
  • 減価償却については、明示的に「毎期継続して、規則的な」とした場合、規則的に減価償却をしないことはいけないことと捉えられかねない。「相当の償却」もしくは単に「減価償却」とし、実務上の理由により、規則的に出来ない時には差額を注記することの方が、中小企業の実態に配慮した現実的な対応ではないか。
  • 実務上、法人税法上の繰越欠損金との兼ね合いで減価償却を計上せず、繰越欠損の適用を求められる場合があり、毎期一定の割合で減価償却されていないのが現実であることを考慮すると、「毎期継続して、規則的な」償却より、会社法の通り「相当の償却」の方が実状に沿っているように思われる。
  • 「相当の償却」という表現には相当幅があるように思うが、基本的には会社法上も継続性と規則性は含意されているのではないか。また、所得税法においては減価償却が強制償却であることを考慮すると、本来、法人であればなおさら当然に減価償却するべきである。会計の考え方として、減価償却における継続性と規則性はセットで考えるべきではないか。
  • そもそも、減価償却とは、事実が分からない減価現象に対して一定の認められた方法を当てはめているだけである。公開企業にとって、減価償却の規則性は外部投資家の持分の衡平性の観点から重要であるが、中小企業にとって、そのような意義はほとんどないように思える。
  • 耐用年数に関しては必ずしも法人税法に定めるものに従う必要はなく、実態に則して法人税法以外の耐用年数を使うこと自体は問題ない。
  • 本来的には減価償却資産は、税法の耐用年数または実際の使用可能年数にわたって減価償却すると考えられる。実際の使用可能年数は、経営者本人及び第三者である会計士等が、恣意性がないと判断すれば問題無い。ただし、金融機関が見る場合、償却不足が必ず問題となってくる。実務的なことを考慮して法人税法上の耐用年数で規則的に減価償却しない場合については、注記や補足資料等でその旨を説明できれば、企業の信頼性に問題が無いと判断してもらえるというような文言を新ルールに入れられないか。
  • 実務上、法人税法上の耐用年数を使用していない場合、金融機関としては償却不足と判断することが多いと思う。情報の非対称性の問題もあり、それぞれの顧客が主張する使用可能年数を検証する手段も無いことから、例えば、同じ設備に対し、A社は10年、B社は5年を採用するということになると、金融機関の現場が混乱するのではないか。
  • 新ルールの様式等について何かあればご意見お願いしたい。
  • 「自社の経営状況を適切に把握できる『経営者に役立つ会計』」ということがワーキンググループの「基本的な考え方」であることを前提にすると、使いやすさも大事だが、リスクの高い経営環境にあることが一般的な中小企業の経営者に対して、会計の基本的な考え方である「保守的な会計ルール」をベースに経営の実態を意識させるように方向づけることが重要だろう。その点からすると、償却すべきことが当然であると明示的に示す表現ぶりの方が、減価償却に関して望ましいのではないだろうか。
  • 債務不履行、自己破綻に陥る企業は必ずと言っていいほど粉飾している。ただ、減価償却をしていないという粉飾ではなく、資産性が無い資産を計上する、または簿外債務の存在等が原因である。したがって、粉飾を防ぐために減価償却を規則的に行うべきである、という考えは現実的ではない。
  • 提示された形式については分かりやすくてよい。有価証券及び棚卸資産の強制評価減に関して、「明らかに価値がゼロと判断できるものについては、少なくとも評価損を計上すべきか確認が必要」とされているが、これは当たり前のこと。むしろ、これ以外の場合は確認が必要ないとの誤解を与えてしまうため、この記載は検討が必要である。
  • 様式については標準的な中小企業を想定して作成する必要があるが、どのような中小企業を想定しているのか。
  • 様式に関しては、業種等によっても大きく異なってくる。中小企業にあまり使われていない勘定科目は何かということをイメージして作成した。
  • リースについて、売買処理した場合に資産計上するとしてしまうと、自社購入と変わらずメリットが無いということで、リースの利用が減少し、今後リースマーケットが縮小することを危惧している。中小企業にとって、リースは有効な設備投資手段であり、リースマーケットの縮小は困る。むしろ、賃貸借処理で会計処理することで資産計上しなくても済むということを示してほしい。また、社債を発行できることは中小企業にとってステータスを示す意味のあることであるが、載せる場合には会計士等と相談して載せればよいことであって、あえて様式に入れなくてもいいのではないか。
  • 「中小企業の経営者が理解できるよう、できる限り専門用語や難解な書きぶりを避け、簡潔かつ平易で分かりやすく書かれたものとする」というワーキンググループの「取りまとめの基本的な方針」を考慮すると、経営者にとって分かりやすい様式でなければならない。損益計算書において、販売費及び一般管理費が一行で示されているのは分かりやすい。同様に、営業外損益、特別損益に関しても一行に集約して簡略化してもいいのではないか。また、法人税等調整額は会計処理としてやや難易度が高い面もあるので、様式にあえて入れる必要はないのではないか。
  • 固定資産の減価償却に関して、「毎期継続して、規則的な」の部分については、「相当の償却」としてはどうか。中小企業の経営者のために簡素なルールにするのはいいことだが、ルールとしては規範性がないと普及しない。
  • 「相当の償却」という記載で経営者が意味するところを理解できるのか。
  • 何年も減価償却をしないというのは一種の粉飾であるが、毎期継続してある程度十分に償却をしていて、ある年に理由があって減価償却をしないということは、中小企業の実体上認めてもいいのではないか。したがって、弾力的な対応がとれるという意味で「相当の償却」とした方がよい。また、法人税法上も「相当」という用語が用いられているが、それなりに解釈されている。
  • 会社法の伝統的な理解から考えると、「相当の償却」には「利益の額、損益の額に関わらず、利益があがっていなくても相当の償却をしなければならない」というニュアンスが含まれており、中小企業の経営者が弾力的な対応を取れるようにという意味で「相当の償却」としていると、素直に感じ取れるかを懸念している。逆に「相当の償却」とした場合、具体的に弾力的な対応をしてもよいと示さなければいけなくなるのではないか。
  • 様式に関しては項目数が少ない方がよいのではないか。また、会社法が計算書類の作成等を義務付けている趣旨、つまり経営者に自分の会社の財務状況を把握してもらうこと、債権者保護、株主等の利害関係人への情報提供の観点から考えると、減価償却の規則性は必ずしも必要ではない。「相当の償却」の一つの方法として規則的に償却するという方法があるが、それ以外の償却の方法もありうる。ただし、規則的に償却しない場合であっても、ある程度の期間で減価償却することが必要であり、この場合は資産の利用価値や売却価格などを基準とすることで、規則的に償却しないことの説明ができるようにしなければならない。
  • 法人税法における繰越欠損金を利用するために、減価償却を操作するようなことは会計のロジックで説明できないことであり、してはならないことである。同様に、利益が出ていないからといって、明らかに価値がゼロの資産について評価損を計上しないということも、してはならないことである。したがって、利益が出ているかどうかによって減価償却するか否かを決めてはならない。「相当の償却」とする場合には、税理士や公認会計士等に誤ったメッセージを送らないように注意しなければならない。
  • 商法の議論の中でも、規則性は必ずしも要求しないという議論はなされており、一方で、会社法は利益があがっているか否かで償却を決定するという訳ではないという特質も持っている。この点に関しては工夫しなければならない。
  • 減価償却は税理士等が判断すべきものではなく、経営者が判断するものである。そこで、「相当の償却」と記載した場合、想定している中小企業の経営者が判断できるのかどうか分からない。また、色々な事項を検討するに当たり、想定している中小企業のレベルをもう少し具体的に想定しなければ、議論が難しい側面がある。
  • 有価証券の「大幅な債務超過などで明らかに価値がゼロと判断できるもの」という部分について債務超過ならば評価損は当然という意見もあるが、まずは投資先の実態でこれは確認すべきということに意味がある理解している。

「会計の活用」について

  • 中小零細企業において、会計はまだまだ社会的インフラとなっていない。ただ、世界的にみれば、日本の中小企業会計はレベルが高い。中小企業庁のパンフレットを基に、各中小企業団体等が会計普及セミナーを行っており、これは経営者の経営力アップに大きく貢献している。また、利害関係者である金融機関が中小企業を目利きするのは難しいため、結局は決算書を見て判断している。目利きの初歩として金融機関は法人税申告書、科目内訳等を要求し審査している。信用保証協会の会計チェックリストによる割引制度も、税理士の責任感を喚起し経営者への指導責任を認識させた点、また保証付貸出審査の中で決算書の信頼性を向上させられた点で効果があった。金融庁の監督指針でも、中小企業の自助努力及び地域金融機関のコンサルティング機能の発揮が唱われており、この新ルールが中小零細企業の金融情勢に上手く組み込まれていけば、定着していくと思う。
  • 制度の普及のためには、まずは既存の信用補完機関や市区町村の各制度や制度融資において、何らかの優遇措置が行われ、企業の調達コストが低下するというメリットを提示することが必要である。新しい制度融資等を作成するには、デフォルト率等の検証が必要となり、即座に実施することが、現実的に難しい。
  • 金融機関は粉飾を見抜いた上で融資に対応している。決算書以外の会計帳簿といえば、確定申告書や勘定科目明細資料が有用であるが、そのほか試算表や資金繰り表、受注明細、CFの計算書、取引先別・商品別・店舗別採算性情報等のあらゆる情報が有用なものである。ただ、最も重要なのは、経営者の経営スタンスや経営者が描いている将来のビジョンである。
  • まずは、適時に正確な記帳をしてもらうことがスタートラインであり、そのためには中小企業の経営者が対応可能なルールでなければ利用してもらえない。金融機関として最低限必要となる、科目明細、試算表、試算表明細、資金繰り表、銀行取引状況表についても、適時に正確な記帳をすることで作成が可能となるもの。これらの資料をきちんと作成できることは、企業にとっても、金融機関にとってもお互いのコミュニケーションを円滑にする上で有効と思われる。
  • 現行の財務諸表は外部への報告を意識して策定された経緯があるので、経営者にとってそのまま使うには、少々向いていない。率直に言えば、経営者の事業意欲といった視点からみると、現行の財務諸表そのままでは使えない、これが多くの経営者の率直な認識であろう。もちろん制度会計という点で現行の財務諸表は意義があるのだが、「経営者に役立つ」という点で、工夫が必要だ。ご案内のようにどのような経営者であれ、財務諸表とは別に、程度の差はあれ本業の状況を把握するデータを持っている。そうしたデータと財務諸表を結びつけ活用できることを示すのが有効ではないだろうか。例えば過去データではなく今後の資金繰りや債権や在庫などの見通しといった事業に直結する情報を、財務諸表と結びつけて効果を実感させることが重要である。また、本業の強い部門と相対的に遅れている部門を比較しその違いを生んでいる経営上の原因を分析し対策を講じさせるような管理資料を作成し使うことが重要である。経営者が本業の状況を把握する情報とBS、PL情報を結びつけたものを作成できるように、その手法の紹介・訓練・フォローアップなどが必要でなかろうか。
  • 我々のお客さまは小さな中小企業が大半で、経理は分からないから経理担当や税理士に聞いてくれという経営者が多く、大半は売上が上がればすべて解決すると単純に考えている。こうした経営者が、自社の決算書を理解し活用することが「経営に資する」ものと考える。経営者が自社の決算書の効用を理解し、利用するようになれば、当然、決算書に対する信頼度も高まり、問題点も把握しやすくなり、我々との意見交換がスムーズになると考える。こうした考えから私どもは地域金融機関として地元の中小企業支援のため「中小企業会計啓発・普及セミナー」をテーマとした事業者セミナーを開催してきた。参加者の反応は良く、今後経営に役立てていきたいとする感想が数多くある。今回の検討会で、さらに中小企業の経営者が取り組みやすい内容となれば、もっと効果が期待されると思っている。
  • 我々の決算書に対する要求はそれほど多くはなく、信頼性はもちろんだが、売上先・仕入先の内容や状況、棚卸資産の状況に対する情報かと思う。様々な資産や負債の状況の把握はもちろん重要だが、中小企業の場合、売上先・仕入先の影響は特に大きなものになる。棚卸資産に関しては、以前にも述べたが、我々が中身を把握することは難しく、著しい劣化は決算書に反映させることが望ましい。これは経営者が決算書を有効利用しようとする意思があればかなうものと思う。
  • 議論の立て方として、決算書以外に必要な会計情報として例えば資金繰り表がある、だから中小企業が金融機関に資金繰り表を提出すれば金融機関からの融資に補助金が出るといったことを国が支援するのは、あまり筋のよい議論とは言えない。また、中小企業と金融機関のコミュニケーションの向上のために会計ルールを厳格にして会計帳簿の信頼性を確保するということも、考え方として飛躍がある。「国(政府・行政)が何かをしなければならない」と思い詰める必要はない。そうではなく、経営者自身が自社の財務情報を把握し、金融機関に対する対話力を高めることが、自然に「良い与信」を促進することにつながっていく。国がなすべきことは、現在我々が提案している新ルールを実際に中小企業経営者が使ってくれるように、士業と協力して啓発活動を行うことであろう。
  • ほとんどの法人企業が青色申告をするのは、繰越欠損金等のメリットを享受できるからである。したがって、中小企業が金融機関に対してルールに基づいた決算書を提出することで得られる具体的なメリット(例えば、保証料の引下げ)がないと普及しない。
  • 本日提示した形式、様式でご異論なければ、この方向で次回のワーキンググループで全体像に近いものを作成し、提出させていただく。活用の方針については、各委員が言われるとおり、活用されることが前提。この検討会ワーキンググループの関係者が一丸となって普及に努めていくべき。