日時:平成23年3月28日 10:00~12:00
場所:経済産業省別館11階 1111各省庁会議室
議事概要:日本商工会議所の荒井委員代理よりプレゼンテーションが行われた後、自由討議。その後、各項目別に意見交換を行った。
議事要旨
- 昨年のASBJ及び中小企業庁の研究会の議論の枠内(新ルールを作ることを決めてある。)で進めるべきである。前回、ルールと言わなくて良いとか、ガイドラインで良いとかという議論があったが、簡単なものにし過ぎると実務上役に立たないものとなってしまう。議論の前提について、昨年の研究会についての共通認識を持つべきではないか。
- 新しい会計ルールは中小企業の実態に即していなければならないし、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」の範囲内でなければならない。
- 棚卸資産や有価証券の評価損の計上については、注書きとなっているが、本書きにすべきではないか。中小企業であっても、会社計算規則から外れるわけにはいかない。これらの評価損は会計で損金経理していないと税法では認められないので、基本的な建前を認識した上で、実務で役立つルールブックについて検討してほしい。
- 貸倒引当金について、法人税法に従うとしているが、法人税法では貸倒引当金を撤廃しようとしており、中小企業や金融業は特例として貸倒引当金を損金算入できるが、資本金1億円超の中小企業は損金算入できない。法人税法の法定繰入率を原則とすることについては再度検討すべき。
- 貸倒引当金の算定については、法定繰入率、個別の債権ごと、過去の貸倒実績率の3つの方法を本文に書けばいいのではないか。法人税法の法定繰入率が原則であるというのは少し違和感がある。選択の幅がある方が良いのではないか。
- ここでの議論は、会社法上の公正な会計慣行の順守が前提であり、会社計算規則や企業会計原則の枠を外れるわけにはいかない。敢えて記載するかどうかは議論があると思うが、ここに書かなくても、当然に会社計算規則に従わなくてはならないものであり、当然の前提とされているという認識である。
- 今回のプレゼンテーションは、前回と比べると非常に簡素化され、整理されたものとなっている。ミニマムレベルの基準、指針を示すものであり、最低限遵守すべきものが記載されている。また、注書きを示すことで、より詳細な記載となっている。
- 会社計算規則に従うのは当然であるが、どこまで書き込むかを議論すべき。書きぶりとしては、原則として最低限守るべきものをまず明示し、そして、より細かいところを注記するべき。
- これまでの議論では、経営者が会計のユーザーであり、また会社は企業の成長に資するものであることを出発点としている。方向性を示すためにも、経営者の視点を会計のルールの中に可能な限り入れてほしい。例えば棚卸資産の評価だが、中小企業の経営者にとっては棚卸資産の時価をきちんと把握しておかないと、実は資金繰りや売上について見通しが立たないことになりかねないのである。そもそも経営の役に立つということは、経営の実態を把握することだとこれまで議論してきたのではなかったか。これを機に経営者のあるべき会計スタイルを織り込み、経営者の意識を喚起すべきではないか。経営者の視点からこうすべきということを記載できないだろうか。その意味で、経営の実態を把握するための方向性を検討してほしい。
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1.収益、費用の基本的な会計処理について
- 実現主義、発生主義、総額主義の3つの構成は記載のとおりで良いと思う。ただ、収益の認識について、「取得」という表現は馴染まず、法的な債権債務の「確定」と記載すべきではないか。
- 金銭債権債務の「確定」となると、今までの商品販売の実務を阻害するのではないか。実務上、税法に基づいて出荷基準が採用されており、「取得」という曖昧な言葉なら対応できる。金銭債権債務の「確定」とすることは、IFRSの受領概念に引きずられることであり、中小企業の実務とは異なる。出荷基準が使えなくなると中小企業は困る。曖昧な形にしておかないと出荷基準の採用が難しくなってしまう。
- 用語について、「商品の販売」となっているが、メーカーもあるので、「製商品の販売」とすべきではないか。
- 企業会計原則と会社計算規則の書きぶりに従えば良い。この部分(収益、費用の基本的な会計処理)については、特段議論はないはずであり、全体のボリュームをどの程度にするかを加味しつつ決めれば良いのではないか。
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2.資産、負債の基本的な会計処理について
- 純資産の扱いを記載すべきではないか。経営者に対して、内部留保について関心を持たせるように、純資産について触れるべきではないか。
- 資産・負債のみでは貸借対照表は成り立たないため、純資産の扱いについては記載すべき。
- 純資産の概念は残余の概念であり、積極的な記載をしなければ会社が成り立たないという訳ではない。現在の会計では、資産・負債が先行し、残余の資本金の意義が薄くなってきており、資産・負債と純資産は3者が同列という考え方は会計の見方からはなくなりつつあるため、純資産を記載することに反対はしないが、注記でも構わないのではないか。
- ここでは、測定、評価について記載しているので、表示の時に純資産を取り上げてはどうか。
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3.金銭債権(貸付金、預金、受取手形、売掛金等)について
- 注書きの1つ目に「金銭債権のうち市場価格のあるものは、時価で計上することもできる」とあるが、これは評価益を計上することができることなのか。注書きの2つ目に「債権金額より高い価額又は高い価額で買い入れた時は、相当の減額又は増額をすることができる」とあるが、これは取得価額で計上するということで良いのか。
- 使われている頻度からすると取得価額の計上が前提となる。CDやCPは中小企業の実務上ではほとんどない。注書きの3つ目に「受取手形割引額および受取手形譲渡額は、注記することが望ましい」と書かれているが、法人税法で規定されていることでもあり、実務上も要請されているものであることから記載すべき。中小企業の実務でも十分対応できる。注書きの2つ目に債権価格より高い金額により購入することについては実務上まずないため、この部分は必要ないのではないか。
- 手形割引額の注記は、必要である。これがなければキャッシュバランスが分からず、経営者にとってもキャッシュバランスを見る上で重要な情報である。
- 経営者にとって、まず直感的に用語などが判るほうが望ましいのではないか。例えば、金銭債権とは何なのかという場合、ミスリードにならない範囲で、貸借対照表に記載される順番で表示する工夫があっても良いのではないか。経営者が直観的に分かる内容にしてほしい。
- 注書きの1つ目と2つ目は、記載してもしなくても良いと思う。手形割引額に関する注記について、「望ましい」ではなく、決算書の使い手は金融機関であり、重要な信用を付与するための情報であることから、「注記する」と記載すべき。
- 「取得価額」での計上に加え、「券面額」での計上についても選択できるという記載をしてはどうか。
- 取得価額での計上と券面額での計上の選択とすると、注書きのところが中間的な書き方になっているので、注書きが何本立てにもなってしまうおそれがある。
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4.貸倒損失、貸倒引当金について
- 実務の実態から言うと、貸倒引当金は赤字であろうと法定繰入率に従って計上している。しかし、税法は貸倒れ処理の条件が厳しいため決算書の売掛金等に不良債権が含まれている場合がある。回収可能性の判断は金融機関が行っているのが現状であり、それを見極めるのが金融機関の目利きである。税法上損金にならない不良な売掛金を全て貸倒損失として計上すると、決算書は赤字で税務申告書は黒字となる。金融機関は、売掛金の科目内訳書の提出を求められており、多くの企業はそれに応じている。提出しないとグレーな企業として扱われる。
- 法人税法の法定繰入率が今後法改正により変更される可能性がある。複雑にするのは反対であるが、中小指針でも賞与引当金は平成10年度改正前の規定に拠ることができると書かれており、広く引当ができるように検討してほしい。また、経営管理上も必要である。
- 中小企業の立場からすると、貸倒引当金は税法の問題である。中小企業は担保を取っておらず、取引先の経営状況が悪化すると回収できない場合が多い。税法では有税で(不良債権を)落とすこと(損金不算入)になるが、なぜ税法で(不良債権を)落とすこと(損金算入)ができないのか。税法と会計のギャップが大きな問題と認識している。
- 貸倒引当金は実務上大きな問題であり、債権の評価の問題とセットである。経営の実態を甘くすることは必ずしも経営者のためにはならない。債権の回収に疑義があるものについては、会社法上の配当可能性に疑義が生じることになる。今後、会計人(税理士や公認会計士)が方向性を示していくことが必要ではないか。経営者の認識を会社の経営実態に向けさせる必要がある。ここでは、原則的な書き方(個別の債権ごとや過去の貸倒実績率による算定)にした方が良いのではないか。実務では難しいかもしれないが、そういう方向にすべきではないか。
- 金融機関側からみると、小企業、零細企業は、法的に整理された債権や不渡り発生先債権等明確な回収不能債権しか貸倒損失として処理しない場合がほとんどである。小企業、零細企業の場合、取引先もリスキーなところが多いので、債務者の資産状況や支払能力等からみて取立不能見込額を貸倒引当金として計上することになると、かなりの金額を計上する必要がある。実務上、実態に即して引当金を計上するのはあり得ないのではないか。債務者の資産状況や支払能力等からみて取立不能見込額を貸倒引当金として計上することは外した方が良いのではないか。
- 金融機関には実例がないかもしれないが、債務者の資産状況や支払能力等からみて取立不能見込額を貸倒引当金として計上することの記載は最低限必要であると考えている。また、法人税法の改正は反映させる必要がある。法人税法上の個別引当は、全て文章で表わさなくとも、フォローできるように要点としてまとめる必要がある。
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5.有価証券について
- 将来の見込み、見積りはなるべく避けた方が良いが、上場株式ついては、外部的評価があるので比較的適用しやすいものであるため、記載しても良いのではないか。
- 有価証券が著しく下落し、回復の見込みがない場合は、経営の実態を見る上でも、税法や会社計算規則でも書かれていることから、注書きの評価損の記載については、本書きにすべきではないか。
- 強制評価減の規定については、会社計算規則でも書かれているので、本書きにすべきではないか。
- 非上場会社の評価について、見積りが難しいとあるが、実務上客観的データの入手が難しいのか、その後の判定プロセスが難しいのか、どちらなのか。
- 取引先の情報は入手しにくいが、子会社や関連会社であれば何とかなる。また、上場会社の場合は情報を入手することができる。
- 中小企業で子会社や関連会社がある企業は多いのか。子会社や関連会社がある中小企業は、それほど多くない。
- 有価証券の評価だけでなく、他にも「見積り」という記載は多い。ここでは、将来的な要素も考慮したいわゆる会計上の見積もりと、既に発生している費用・損失に対する測定上の「見積り」なのかを明確に区別しておく必要がある。中小企業でも、後者の測定上の「見積り」は対処すべきものである。
- 時価の問題は極めて厄介な問題である。しかし、中小企業でも持っている債権の時価を把握していないと経営管理ができない。ただ難しいから外すというのはいかにも無責任ではないか。
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6.棚卸資産(商品、製品、半製品、原材料、仕掛品)について
- 棚卸資産は、金融機関でも評価をかなり行っているところであり、企業の財務への影響が大きい項目で、振れ幅も大きい。事業の実態把握の更なる精緻化並びに流動資産担保融資の今後の利用普及という観点からも、価値がゼロであるものについては、注書きのように対応してほしい。
- 税務申告書上、損金にならないという理由もあるが、金融機関の実務を良く理解してほしい。モラトリアム法案(金融円滑化法)で中小企業は救われているが、金融機関の自己査定において、2年連続赤字や債務超過の場合は、新規融資は行われない。建前を言って良いのか。全ての資産負債は棚卸しをすべきというのが原則だが、その結果を時価で決算書に載せるか否かは別問題。260万の中小企業に適用させるためには、評価損は税法基準で十分である。時価評価を決算書に付すことと経営者に知らしめることは違う。
- 注書きの評価損のところは逃げられない。本文に入れるべき。色々な事情がある場合は、回復の見込がある等として対応することが必要であり、ルールを曲げるべきではない。そこは税理士や公認会計士がうまく対応することが必要ではないか。
- このルールを誰が使うかという観点を忘れてはいけない。このルールを読む人、使う人の顔を浮かべながら作るべき。せっかく作ったのに、使ってもらえないこともあり得る。そのため、重要なポイントだけでなく、基本的論点も記載する必要がある。評価損の計上について、中小企業の会計に関する指針(以下「中小指針」という。)は重要性で判断することになっているが、重要性に応じて計上するという記載がないと、中小指針よりハードルが上がってしまう。誰が使うかという視点を外さないで議論してほしい。
- 中小指針の場合は、金額的重要性も判断基準としている。このような重要性を考慮した書きぶりを検討してほしい。棚卸資産の評価方法について、中小指針では最終仕入原価法について色々と議論がされた。最終仕入原価法は今回も結果として使えるようにしてほしい。
- 会社計算規則の枠内というのは理解している。会社計算規則を逸脱した実務の適用は100%やめるべき。
- 中小指針の場合は、重要性で逃げているというのは間違いである。中小指針は全て一度時価評価した上で、重要性について検討することとしている。ここで検討しているのは、原則時価評価をしなくていいということ。著しく下落し回復する見込みがないと判断したときは評価損を計上するという記載により、会社計算規則と平仄を合わせたものになる。
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7.経過勘定(前払費用、前受収益、未払費用、未収収益)について
- 経過勘定項目について、会計上は記載されているとおりだが、税法上は義務的計上項目であり、ここの部分は税法の方が厳しい。「を計上した金額」という記載は実務上おかしいので不要である。
- 重要性については、一般原則の例示という形で総論の中に記載されていれば、ここでの記載は不要である。
- 税法上は、損金経理で判断される。「計上しない場合は、税務上否認される」と記載した方が良いのではないか。
- 中小企業では、経過勘定の計上はどうなのか。
- 中小企業では、通常100%計上している。
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8.固定資産について
- 減価償却について、継続的、規則的償却を求めるか否かが論点。大企業にとっては、株主への公平性という観点からも非常に重要である一方、中小企業には規則的な減価償却は必要ないという見解も見受けられる。中小企業の実務の実態を踏まえた上で検討すべき。繰越欠損金の期間が限定されていること等を踏まえ、注記で償却不足を記載することも、一つの工夫であるように思える。
- 旧商法では、相当の償却を行うこととしている。ルールと実際の実務をどう調整するかであるが、全く減価償却しないとするのはどうなのか。「規則的」と書かなくても、「相当」という言葉は必要ではないか。減価償却不足が生じた場合、担当税理士が損害賠償訴訟の対象となると言われるが、そもそも税法の期間(耐用年数)に合わせて償却しなければならないというのがおかしい。機械を大事に使っていれば長く保つものであり、実態に合わせて延長すればいい。また、所得税法上、個人事業主は強制償却であるのに、法人税法上、法人はできないとなると会計上の説明がつかない。会計の概念をどこかに入れておかないと、何のためのルールか分からなくなってしまう。注書きについては、本書きにすべき。
- 極論に聞こえたかもしれないが、先ほどは、減価償却の規則的の意味内容をどう捉えるのかについて問題提起をした。中小企業では、減価償却に波があっても良いのではないか。ある程度の幅があっても良いのではないかということを申し上げた。中小企業に対する何らかの配慮が必要である。
- 毎期継続して規則的に減価償却すべきという原則は外すべきではない。しかし、中小指針のチェックリストでは、「繰越欠損金を活用するために減価償却の一部又は全部を中止した。」と理由を記載することがあり、実務ではそういう要請もある。金融機関に対応するためには注書きをすべき。償却不足をそのまま放置してはいけないので、きちんと償却不足を書くべき。ただし、当期の分はいくら償却不足があるか把握できるが、過去の分までは難しい。
- 現行税法上において、償却不足という概念はない。過去の分に関しては、償却をしていないことにより、資産価値がないにもかかわらず資産として計上しており、帳簿価格が膨らんでいる場合がある。これに対しては評価損の問題であり、規則的な償却とは別の問題と考えられるがどうか。
- 償却不足額は、金融機関に対しては直接的影響がある。金融機関の融資審査では、償却不足について、相当手間をかけて実態バランスに置き換えている。そのため、償却不足は決算書に最低限開示すべきであり、経営管理上も、経営者は償却不足額を認識すべきである。ただし、償却不足の注記が会社法の一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に当てはまるかは不明である。
- 情報開示自体はいいことだが、会計処理に従っていないという注記をすることには違和感がある。そのような注記を制度化するのは会社法上難しいのではないか。