事業実施の背景
愛知県豊川市は、日本三大稲荷に数えられる豊川稲荷を有し、毎年正月三が日には120万人もの初詣客で賑わい、年間では数百万もの観光客を集めている。その豊川稲荷門前町の商店街は、古くから観光商業地として栄えてきた。
しかしながら、近年のライフスタイルの変化等により観光客が減少し、中心市街地としての活力が低下しつつある。中心市街地全体では、平成3年に530億3,000万円であった年間販売額も平成11年には290億6,600万円と半減し、また、店舗数も482店から336店に減少していた。
これに対し、豊川市では、行政主導で、活性化のためのまちづくり方針、都市計画道路の整備や地区の景観整備方針などを話し合うワークショップを幾度となく開催したが、行政にありがちなハード先行のまちづくりであったこともあり、商店街のまちづくり意欲も不十分であり、なかなか結論がでず、苦慮していた時期があった。
まちづくりの「はじめの一歩」が踏み出せないこのような状況の中で、商店街の若手商店主と地元住民が中心となり、「できることから始めるまちづくり」を合言葉にまちづくり活動が行われるようになり、当該地区のまちづくりは転機を迎えた。
事業の概要
(1)いなり楽市実行委員会
平成14年に発足したこの委員会は、商店街の若手商店主が中心となり、できることから始めるまちづくりを実践している団体である。この団体の成長により、長年行政があの手この手でまちづくりを試みてきたこの地区にあって、ようやく自発的にまちづくりを検討・実践できる地元の態勢が整ってきたといえる。この委員会では、まちづくりイベント「いなり楽市」を開催し、手作りの景観整備、地域情報の発信、地域ブランドの確立、名物商品の開発などを行っている。特に「いなり楽市」には、毎回2万人の集客(本市人口の15%)があり、大きな経済効果をもたらしている。
(2)いなり楽市
月一回の定期イベントのテーマは、「なつかし青春商店街」。豊川稲荷やその門前町商店街が一番賑わっていた昭和30年代のレトロな感覚を楽しんでもらおうと、当時のホーロー看板や家電を飾りながら、路上に戸板を並べて「自由市」を開催している。はじめたころは細々と開催していたが、その賑やかな演出により、人が人を呼び、大きな集客を得るようになり、豊川稲荷の集客と相乗効果により、まさしく昭和初期の賑わいを再現している。
このまちづくり活動を継続させるため、毎週木曜日の午後7時から委員会を開き、深夜の3時ぐらいまで、「まちづくり」に関する話し合いを行っている。もちろん、この会合には市役所の職員も参加している。
(3)道路の有効活用
いなり楽市では、道路を通行止めにして、大道芸を行ったり、商品を並べて商売したり、オープンカフェを行ったりしている。
これには地元の要望に基づき地域再生計画を策定しており、「道路使用許可の円滑化」、「補助施設の目的外転用」などの支援措置が活用されている。
(4)費用のかからない景観整備
まち全体が古く、時代に取り残された商店街というデメリットを逆手に取り、門前町という地域特性を活かし、古いことや懐かしさを逆に強調するため、各店舗の軒先に昭和初期の懐かしいものを飾っている。これらは、高齢者の世代には懐かしく、若い世代には新鮮で、好評を得ている。
(5)市民を巻き込んだまちづくり
この活動を続けている間に、このまちづくりへの賛同者が徐々に増え、現在では、周辺住民や商店主だけではなく、市内の中学校や高校、外国人サークル、市民ボランティアなど、市民を広く巻き込み始めている。
事業の効果
来街者の増加に関する指標として、当該地区の市営駐車場の総出庫台数の推移を把握しているが、いなり楽市の大きな集客もあり、増加傾向を示している。また、商店街そのもののイメージも向上したことにより、観光客に偏っていた来街者が、市民も訪れる商店街へと変化をしだしており、事業効果は高かったと言える。
事業の課題
できることから始めるまちづくりも大きな成果を収め、現在、この委員会では、次のまちづくりのステップとして、行政主導ではなく、自発的に商店街の景観整備(ファサード整備)を検討しているところである。