静岡県新居町 新居町内商店会
商業者が起業した新たなコミュニティビジネス
地元商業者が共同で葬祭サービス事業を組織運営。地元の慣習に熟知したきめ細かいサービスが高い評価。
事業実施の背景
静岡県新居町は浜名湖沿岸に位置し、うなぎやしらすといったおいしい食べ物や、新居の「関所跡」等の観光施設で全国的に有名である。
東は浜松市、西は湖西市に隣接しており、地域住民の買い物は、両市への流出傾向にある。
特に近年は、浜松市西部地区等に相次ぐ郊外型ショッピングセンターの出店や、ライフスタイルの変化への対応不足等によって、地域の商業事情は衰退の一途をたどっていた。そんな状況を危惧した商工会商業部会のメンバーが声をかけ、当組合の前身である任意グループを平成8年9月に結成し、月2回の勉強会をはじめた。景気に左右されない事業は何かと考えた末、葬祭事業を共同で行うという結論に達した。もともと、新居町の葬儀は亡くなった方の家が各商店に頼みながら、自分達で行ってきた。しかし、大手葬祭業社の進出によって葬儀の仕事がなくなったという経緯があるので、葬祭業に関する事業組合を立ち上げるには抵抗感はなく、勉強会をはじめて1年、平成9年10月に酒屋・食料品店・菓子店・仕出し店・贈答品店及び寿司店等計33店で「あらい商工葬祭協同組合」を設立した。
設立の際には、出資金として各個店20万円を出し合い、行政からの補助金等は一切受けずに自分たちの力だけで立ち上げると決意し、投資はせず祭壇や霊柩車、葬儀ホールなどは町の施設を借用するかたちでスタートした。
「自分たちが本気になってがんばるためには、他人からの保護を受けながらではだめである。保護を受ければ、かならず甘えが生まれるからだ」という姿勢は決して崩していない。とはいっても、自分たちの生活を抱えて事業に挑戦するため、失敗したときに立ち直れないほどの損失を出すわけにもいかない。そこで、できる限り投資はしないことを前提とした。このため、借りられるものは借りる、利用できるものは利用する、自分たちでできることは自分たちでやると、損失を最小限に防ぐための工夫を実践している。
事業の概要
葬儀に必要な物品を組合員である各商店から購入するだけでなく、遺体安置、寺・隣組に協力依頼、受注手配、祭壇設営、儀式の準備、食事準備、片付け等の葬儀に関わるほとんどすべてを自前で行っている。この作業は外注するのではなく、組合員が当番制で担当している。外注部分は、葬儀司会や遺体搬送、花輪・祭壇のリースである。
設立当初は、資金事情もあり組合員の無料奉仕で行っていた業務も、今では1作業につき2千円ではあるが、報酬を支払えるまで運営は順調になっている。
組合員自身が、地域の伝統や風習を理解しているので、大手葬祭業者よりもきめ細かなサービスを行うことができるのが一番の特徴である。
地域の住民からは、「葬儀に詳しい近所の人が、お手伝いをしてくれる感覚でサービスをしてくれる」と高い支持を受けている。
事業の効果
設立初年度には、50%のシェアを獲得し、3年で町内における葬儀のシェアは95%まで伸びている。また、地元だけでなく町外からも注目を集めている。
葬儀需要がなければ、現参加店のうち、4から5店舗は廃業していたという。