結び 震災からの復興と成長制約の克服 

結び 震災からの復興と成長制約の克服

 2011年3月11日に、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の国内観測史上最大の地震が発生し、死者・行方不明者が2万人を超えるという未曾有の甚大な被害をもたらした。東日本大震災は、その被害の甚大さに加えて、様々な要因が複合的に発生したこと、影響が全国に及んだことでも、これまでにない災害であり、中小企業も、津波、地震による産業基盤の壊滅、工場、店舗の損壊、原子力発電所事故による事業活動の停止等の甚大な被害を受け、取引先の被災による事業の停滞や消費マインドの低下、販売減少等による影響を受けることになった。
 こうした状況を踏まえ、本書では、最近の中小企業の動向及び震災の中小企業への影響を分析するとともに、震災でも改めて認識された我が国の経済社会における中小企業の重要性を示し、我が国の経済成長を担う中小企業の復興・発展の方向性を探ることを試みた。
 第1部では、最近の中小企業の動向として、中小企業の業況、生産、資金繰り、雇用等を概観するとともに、震災の中小企業への影響について分析を行った。第2部では、中小企業が、我が国の産業、生活の基盤をどのように支えているのか、急速な景気低迷や深刻化する構造的課題にどのように対応しているのかを示し、我が国の経済社会における中小企業の重要性について分析を行った。第3部では、震災による厳しい状況の中で、我が国経済が持続的に成長するための取組として、起業、転業、労働生産性の向上、国外からの事業機会の取り込みの現状と課題について分析を行った。
 以下では、本書の結びとして、各部の要点を振り返りながら、今後の中小企業の復興・発展の方向性についてまとめることとしたい。

第1部 最近の中小企業の動向
●2010年度の中小企業の動向
 中小企業の業況、生産は、持ち直しの動きが見られていたが、震災の影響により大幅に悪化している。資金繰りも足下で大きく悪化し、完全失業率も高水準で推移している。また、円高の進行や原油価格の高騰等の先行きへのリスクがある。

●東日本大震災による中小企業への影響
 津波により甚大な被害を受けた沿岸地域では、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域コミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けた。津波の影響は受けていないが、地震により被害を受けた地域でも、建物や設備の損壊、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じた。原子力発電所周辺の避難区域等では、企業の事業活動が困難となり、先行きの見通しも立たない状況になっており、避難区域周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生した。全国的にも、消費マインドの低下による小売、サービス業等への影響、被災地域との取引が困難となることによる影響が発生した。こうした状況を踏まえて、政府では、資金繰り支援や工場等の復旧支援を始めとする支援策の実施に全力を挙げて取り組んでおり、被災中小企業の一刻でも早い復興が望まれる。

第2部 経済社会を支える中小企業
●産業、生活の基盤たる中小企業
 中小企業は、企業数の99.7%、雇用の約7割を占めている。小規模な市区町村では、中小企業の割合が高く、雇用を担うなど、その重要性が高まる傾向にある。
 中小企業は、我が国の製造業の付加価値額のうち、約半分を生み出している。輸送用機械器具製造業では、仕入数の大きい自動車を製造する大企業を数多くの自動車部分品、付随品を製造する中小企業が支えており、中には、多くの中小企業を取りまとめる企業や多種類の部品を製造する企業も存在する。震災でも、中核的な中小企業の生産停止によって、産業のサプライチェーンに影響が生じ、産業を支える中小企業の重要性が改めて認識された。震災後、中小企業を取り巻く状況は、ますます厳しくなっているが、中小企業は、努力と工夫を重ねて、我が国の産業の復興・発展に貢献することが期待される。
 また、中小企業は、小売販売額の約7割を占めている。特に、人口規模が小さい市区町村では、その割合が高くなるとともに、飲食料品や石油ガス類の割合も高くなり、中小小売店の生活必需品の供給者としての役割がより重要になる。また、消費者の多くは、商店街がなくなってしまうと、地域の活力やにぎわいが失われ、買い物に不便な人が出てくると、商店街は、地域に欠かせない存在であると認識している。被災地域でも、商店街がいち早く営業を再開し、地域住民の生活を支え、地域社会に活気が戻った。近年、国内需要の縮小や大規模店との競争等により、被災地域も含めて、中小小売業の販売額や床面積が大幅に減少しており、商店街は、地域住民のニーズを的確に捉えた取組を行っていく必要がある。

●中小企業の良さを守る取組
 震災により、国内需要の減少やグローバル競争の激化等の構造的課題が深刻化する中、展望が開けない中小企業も存在することから、必要な施策を講じていく必要がある。
 中小企業の中には、事業の引継ぎ先が見つからないため、廃業を検討するという企業もある。政府では、これまで中小企業の親族内の事業承継を支援してきているところであるが、親族外であっても、中小企業の経営資源を確実に引き継いでいくため、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律により、企業間のマッチングを支援する体制整備を行うこととしている。
 また、従業員の雇用維持、顧客満足等のためにも、苦境に陥った中小企業が債権者と適切な調整を行うことによって事業の再生が図られていく必要がある。中小企業の再生に当たっては、その多くが個人資産額を超える多額の個人保証債務を抱えていることもあり、経営者の経営改善に対する意欲が弱いことが課題となることが多い。このため、民事再生制度をうまく活用し、再建計画を進める中で、業績回復につなげている中小企業がある一方、再生企業や経営者にとって保証の大きな負担が残るケースもある。
 中小企業は、自己資本比率が低く、間接金融に依存する割合が高い。今回の震災でも、中小企業から、地域金融機関に資金繰りを中心に相談が寄せられており、地域金融機関では懸命な対応を行っているところである。相談の中には、建物・設備の修繕等のための追加融資により二重の返済負担が発生するいわゆる「二重ローン問題」もあるが、各企業によりその状況は様々であるため、実態に即して適切に対応していく必要がある。また、震災からの復興に限らず、中小企業は、金融機関と良好な関係を築くことが必要である。中小企業、金融機関ともに、接触方法として直接訪問することを重要であると考えており、お互いに顔の見える関係を築きたいと思っている。しかし、中小企業は、新規分野への進出に関する相談を求めているのに対して、金融機関は、経営計画の作成に関する相談を重視するなど、お互いのニーズが一致していない。今後は、それぞれのニーズについて互いに理解を深めて、効果的な支援が行われることが望まれる。
 震災によりますます重要となった構造的課題の中でも、中小企業の事業引継ぎ、事業再生、地域密着型金融等により、経済社会を支える中小企業の良さを守り、今後の中小企業の復興・発展につなげていく必要がある。

第3部 経済成長を実現する中小企業
●起業、転業
 震災により多くの中小企業が倒産、廃業する中、経済の新陳代謝や雇用の創出のためにも、起業、転業を促進する必要がある。
 我が国の開業率は、近年2〜5%で推移している。業種別には、情報通信業や医療,福祉において開業率が高い。起業を希望する者は、近年減少傾向であるが、100万人以上存在し、起業した者は、年間20〜30万人存在する。起業の意義としては、〔1〕製造業ではここ20年間に起業された事業所が約45%を占め、経済の新陳代謝につながること、〔2〕企業年齢が低い企業の売上は、高い企業に比べて増加する傾向があり、企業の成長につながること、〔3〕雇用の多くは、開業事業所で生み出されており、雇用の創出や社会の多様化につながることが挙げられる。起業に当たっては、資金調達や人材確保が課題となるが、成功するためには、過去の経験や人脈が重要であり、地に足の着いた起業を行うことが重要である。
 また、転業については、近年、卸売業と小売業及び卸売業と製造業の間での業種転換が多く、製造業内では、金属製品と一般機械器具間の業種転換が多い。転業の意義としては、〔1〕転業を通じた企業の変化は、経済の新陳代謝につながること、〔2〕積極的に転業した事業所では、売上高や経常利益が成長するなど、企業の成長につながることが挙げられる。転業に当たっては、資金調達、人材、販売先確保が課題となるが、成功するためには、起業と同じく、転業後の事業を着実に行うため、人材や販売先を確保することが重要である。

●労働生産性の向上
 人口減少及び少子高齢化により、15〜64歳人口が減少することが見込まれていることに加え、震災後に一層高まったエネルギー供給制約の中で、我が国経済が持続的に成長していくためには、企業の労働生産性を向上させる必要がある。
 現在、大企業の労働生産性は、ほとんどの業種で中小企業を大きく上回っているが、雇用の約3割を占める大企業のみで、我が国の持続的な経済成長を実現するには限界がある。我が国の持続的な経済成長を実現するためには、雇用の約7割を占める中小企業の労働生産性を向上させることが不可欠である。中小企業は、労働生産性を向上させるための課題として、過去に比べて、デフレや国内市場の収縮等による売上の伸び悩みを課題とする傾向が高い。中小企業が労働生産性を向上させていくためには、震災後に一層高まったエネルギー供給制約への対応を含めた効率性の一層の向上も必要であるが、労働生産性を中長期的に向上させていくためには、顧客数拡大・顧客単価上昇、人材確保・育成、技術革新にも取り組んでいく必要がある。しかし、顧客数拡大・顧客単価上昇、人材育成・確保、技術革新といった取組は、IT 化、省エネ、自動化、業務工程改革といった取組よりも、効果が実感されるまでの時間が比較的長い。このような取組を含め、中小企業が独力で労働生産性を向上させることが難しい場合もあるため、中小企業のニーズを踏まえた効果的な支援を行っていくことが必要である。

●国外からの事業機会の取り込み
 震災の影響により、国内需要の収縮、グローバル競争の激化が更に進行し、輸出や訪日外国人の減少、外国企業や外資系企業の日本離れの動きが見られるなど、大変厳しい状況が続いているが、中長期的には、国内需要の大幅な増加は見込むことは困難であるため、今後成長が見込まれる国外からの事業機会を取り込んでいくことが必要である。
 国際化に取り組んでいる中小企業は、国内と同じ財・サービスを国外に販売・提供している企業が多いが、国外市場でシェアを確保できている企業は多くない。国外でシェアを確保できている中小企業は、現地企業からの情報収集、現地市場の視察、現地の市場調査等を行っている企業がより多い傾向にあり、現地の情報を直接収集することが国際化の際の成功の要素の一つであると考えられる。また、国外でシェアを確保できている中小企業に共通する強みは、アジア、欧米ともに、顧客対応とブランド力であるが、アジアでは、価格競争力と納期の短さが、欧米では、高級感と希少性が強みとなるなど、市場に応じてシェアを確保できている企業の強みが異なるものもある。中小企業は、自らの強みと現地市場の嗜好を把握して、国際化に取り組む必要がある。
 まだ国際化に取り組んでいない中小企業でも、国外から輸入を行うこと、外国企業や外資系企業や外国企業と関わりを持つこと、外国人観光客に財・サービスを販売・提供することなどにより、国内にいながら事業機会を取り込むことも可能である。中小企業の中には、国外との経済連携の進展による影響として、良い影響も悪い影響もないと回答する企業も存在する一方、新たな海外販路開拓等の良い影響があると回答し、国外からの事業機会を取り込むことを期待する企業も存在する。震災により、我が国の中小企業は、大変厳しい状況にあるが、今後国内外の経済のシームレス化が一段と進展する中で、中小企業の事業機会の拡大、多様化につながることが期待される。

 震災の影響により、多くの中小企業が倒産、廃業を余儀なくされ、エネルギー制約、国内需要の収縮、グローバル競争の激化等の震災前からの課題がより深刻化することとなった。足下の復興が喫緊の課題であることは言うまでもないが、我が国経済が成長していくためには、起業、転業により経済の新陳代謝を促進し、中小企業が労働生産性を向上させ、国外からの事業機会を取り込んでいくことが重要である。
 我が国の経済社会を支え、経済成長を担う中小企業が一刻も早く東日本大震災から復興し、更なる発展を遂げていくことを祈念して、本中小企業白書の結びとする。



前の項目に戻る     次の項目に進む