第3部 経済成長を実現する中小企業 

1 中小企業の輸出及び直接投資の現状

 まずは、我が国の中小企業が国外からの事業機会を取り込むための方策について論じる前に、国外市場の成長の動向と我が国の中小企業の輸出及び直接投資の現状について見ていく。

●経済成長を遂げる国外市場
 まず、第3-2-17図は世界の主要国・地域の名目GDPの動向について示したものであるが、中国、ASEANでは、日本や欧米と比較して名目GDPの増加率が高い。特に中国では、日本の名目GDPを上回り、引き続き高い成長が続くことが見込まれている。
 
第3-2-17図 各国・地域の名目GDPの推移
〜中国、ASEANでは、名目GDPが成長しており、今後も成長する見込みである〜


第3-2-17図 各国・地域の名目GDP の推移
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 次に、第3-2-18図は、アジア新興国における世帯可処分所得別の家計人口を示したものである。これを見ると、2009年までアジア新興国では人口が増加する傾向にある。また、その中でも、世帯可処分所得5,000ドル未満の家計人口が減少傾向にある一方で、世帯可処分所得5,000ドル以上の家計人口が増加傾向にあり、全人口に占める世帯可処分所得5,000ドル以上の家計人口の割合も増加傾向にある。さらに、2010年以降も世帯可処分所得5,000ドル以上の家計人口は増加することが予想されている。今後、アジアを中心とする国外の成長市場が魅力的になってくると考えられる15

15 柳川・森(2010)では、アジアにおける経済成長が順調に継続した場合に、インド、インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ベトナム、香港、マレーシアの10か国・地域の中間所得層(世帯可処分所得が5,000ドル以上35,000ドル未満の所得層)と高所得層(世帯可処分所得が35,000ドル以上の所得層)の合計を、2020年に19.5億人と、2008年の9.4億人からほぼ倍増するとしている。さらに、仮に中国とインドの経済成長が急速に鈍化し、低成長を続けた場合であっても2020年の中間所得層と高所得層の合計は2020年に15.5億人になるとしている。

 
第3-2-18図 アジア新興国における世帯可処分所得別の家計人口
〜世帯可処分所得5,000ドル以上の家計人口の割合は実数及び構成比ともに増加傾向にあり、今後も増加が予想される〜


第3-2-18図 アジア新興国における世帯可処分所得別の家計人口
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 また、第3-2-19図はアジア諸国の情報通信インフラの状況について日本との比較を行ったものであるが、国により差が見られるものの、多くの国で年々情報通信インフラの水準が日本の水準に近づいてきていることが見て取れる。
 
第3-2-19図 アジア諸国の情報通信インフラの状況
〜アジア諸国では日本と比較して、一部の国を除いて情報通信に関して日本より整備が遅れているものの、年々日本の水準に近づいてきている〜


第3-2-19図 アジア諸国の情報通信インフラの状況
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 このように国外で高い経済成長が続き、今後とも一層の経済成長が見込まれる中で、国外市場の動向を的確に把握し、中小企業の強みを活かして、輸出や直接投資等を行い、国外需要を取り込んでいくことが我が国の中小企業にとって必要である。実際に、「国外市場の成長の取り込みに関する調査16」を用いて、中小企業の意識を見ると、国外に財・サービスを販売・提供しているかどうかにかかわらず、消費地としての国外について魅力を感じている割合が高い(第3-2-20図)。

16 中小企業庁の委託により三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が実施。2010年11月に中小企業約40,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率13.9%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。

 
第3-2-20図 消費地としての国外に関する中小企業の意識
〜国外に財・サービスを販売・提供しているかどうかにかかわらず、消費地としての国外について、「魅力を感じる」又は「どちらかというと魅力を感じる」と回答する企業の割合が高い〜


第3-2-20図 消費地としての国外に関する中小企業の意識
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●中小企業の輸出の現状
 次に、輸出を行う企業(以下「輸出企業」という)の現状について見ていく。第3-2-21図は、業種別に我が国の中小製造業の輸出企業の割合を示したものであるが中小製造業に占める輸出企業の割合は2.7%であり、加工組立型では、輸出企業が約5%存在するのに対して、生活関連型では、輸出企業は約1%に過ぎないなど、製造業の中でも業種によって輸出企業の割合に差が見られる17

17 産業中分類別の中小製造業の輸出企業の割合は、付注3-2-3参照。

 
第3-2-21図 業種別の輸出企業の割合(中小製造業)
〜中小製造業の輸出企業の割合は、2.7%である。また、加工組立型では輸出企業の割合が高い一方で、生活関連型では輸出企業割合は低い〜


第3-2-21図 業種別の輸出企業の割合(中小製造業)
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 また、第3-2-22図は中小製造業の輸出企業の推移を示したものであるが、輸出企業数は約3,500〜6,300社で推移しており、いずれの業種も増加傾向にあることが見て取れるが、震災の影響により今後の減少が懸念される。
 
第3-2-22図 業種別の輸出企業の数(中小製造業)
〜中小製造業の輸出企業の数は、2008年には約6,300社に増加し、いずれの業種も増加傾向にある〜


第3-2-22図 業種別の輸出企業の数(中小製造業)
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 次に、第3-2-23図は、地域別の中小製造業の輸出企業の割合を示したものであるが、関東、近畿では、比較的輸出企業の割合が高い18

18 各都道府県別の中小製造業の輸出企業の割合は、付注3-2-4参照。

 
第3-2-23図 地域別の輸出企業の割合(中小製造業)
〜関東や近畿で輸出企業の割合が高い〜


第3-2-23図 地域別の輸出企業の割合(中小製造業)
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 以上では、中小製造業の輸出の現状について見てきたが、中小企業は財を国外に販売しなくても、我が国の国民以外にサービスを提供することにより国外需要を取り込むことが可能である。世界貿易機関(WTO)では、1995年1月に発効した「サービスの貿易に関する一般協定:General Agreement on Trade in Services(GATS)」で、こうしたサービスの国際取引を、1. 越境取引、2. 国外消費、3. 業務上の拠点、4. 自然人の移動の4つの供給形態(モード)に分類している(第3-2-24図)。以下では、これらを「サービスの輸出」と位置付けて、その実態を把握していく19

19 なお、我が国の国際的なサービス収支の動向について、日本銀行「国際収支統計」で居住者(非居住者)が非居住者(居住者)から受け取るサービスの対価の総額をサービス収支として公表している。ただし、国際収支統計におけるサービス収支はGATSの定義に従ったものではないことに注意が必要である。サービス収支の動向は、付注3-2-5参照。

 
第3-2-24図 サービスの国際取引に係る4つのモード
〜世界貿易機関(WTO)では、サービスの国際取引を以下の4つの供給形態(モード)に分類している〜


第3-2-24図 サービスの国際取引に係る4つのモード


 我が国の中小企業のサービスの輸出の状況について見ると、国外に財を販売している中小企業では、約3割が「国外への社員の出張によるサービスの提供」、約2割が「国外に保有する拠点からのサービスの提供」と回答しているが、国外に財を販売していない中小企業では、サービスの輸出を行わない企業が9割近く存在しており、サービス輸出のみを行う中小企業は少ない割合にとどまっている(第3-2-25図)。
 
第3-2-25図 サービスの輸出企業の割合
〜国外に財を販売している中小企業では、約3割が「国外への社員の出張によるサービスの提供」、約2割が「国外に保有する拠点からのサービスの提供」と回答する一方で、国外に財を販売していない中小企業では、サービスの輸出を行わない企業が9割近い〜


第3-2-25図 サービスの輸出企業の割合
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●中小企業の直接投資の現状
 次に、直接投資を行う企業(以下「直接投資企業」という)の動向について見ていく。第3-2-26図は、業種別に我が国の中小企業の直接投資企業の割合を示したものであるが、中小企業全体に占める直接投資企業の割合は、0.51%にとどまる。また、業種別に見ると、製造業で1.36%、情報通信業で1.23%と比較的高いことが分かる20,21

20 業種別の中小企業の直接投資企業の割合は、付注3-2-6を参照。
21 製造業の直接投資企業は、必ずしも直接投資先が製造業であることを意味しない。2008年度には、我が国の中小製造業の直接投資企業のうち22.4%が、製造業以外の現地法人を保有している。付注3-2-7を参照。

 
第3-2-26図 業種別の直接投資企業の割合(中小企業)
〜中小企業の直接投資企業の割合は0.51%にとどまり、その中でも、製造業で1.36%、情報通信業で1.23%と比較的高い〜


第3-2-26図 業種別の直接投資企業の割合(中小企業)
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 また、第3-2-27図は中小企業の直接投資企業の推移を示したものであるが、これを見ると、直接投資企業数は2001年に6,369社であったものが、2006年に7,551社に増加し、特に飲食店, 宿泊業、小売業で増加しているが、震災の影響により今後の減少が懸念される。
 
第3-2-27図 業種別の直接投資企業の数(中小企業)
〜直接投資企業数は、2001年の6,369社が、2006年に7,551社に増加し、特に飲食店, 宿泊業、小売業で増加が目立つ〜


第3-2-27図 業種別の直接投資企業の数(中小企業)
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 次に、第3-2-28図は、地域別の中小企業の直接投資企業の割合を示したものであるが、関東、近畿では、比較的直接投資企業の割合が高い22

22 各都道府県別の中小企業の直接投資企業の割合は、付注3-2-8参照。

 
第3-2-28図 地域別の直接投資企業の割合(中小企業)
〜関東や近畿で、直接投資企業の割合が高い〜


第3-2-28図 地域別の直接投資企業の割合(中小企業)
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 ここまで、国外市場の成長の動向と我が国の中小企業における輸出企業及び直接投資企業の現状について見てきたが、以上の結果をまとめると、中小企業では輸出企業及び直接投資企業の割合は低く、また業種及び地域により輸出企業及び直接投資企業の割合にばらつきがあることが分かった。
 第2項では、国際化を行う中小企業の特徴と国際化を成功させるために必要な企業の取組について見ていく。

 
事例3-2-10 高い技術力により高付加価値な糸を開発し、国際的な地位を確立した企業

 山形県寒河江市の佐藤繊維株式会社(従業員130名、資本金5,410万円)は、各種ニット製品・紡績糸・ファッション製品の製造・販売を行う企業である。
 同社は、原材料となる糸の紡績とその糸を用いた最終製品の製造を両方手掛けることが可能であることを強みとしている。高付加価値な製品を作る必要性を感じ、1998年から他社では形状や品質等をまねできない独自の糸の研究開発に取り組むようになった。
 同社の熟練した職人の高い技術を結集して、研究開発を重ねた結果、一本の糸で太さや色が変化する糸や従来よりもかなり細いモヘア糸等の様々な付加価値の高い糸の開発に成功した。それを契機に、2001年に独自の糸を用いた自社アパレルブランドをアメリカの展示会で発表し、2007年にはイタリアでの展示会に工業用ニット糸を出展することで、各種ブランドメーカーとの取引を開始するようになった。
 最近では、2009年1月のアメリカ大統領就任式や2009年12月のノーベル平和賞授賞式の席でオバマアメリカ大統領夫人が同社のモヘア糸を使用したカーディガンを着用するなど、特殊な糸の分野における国際的な地位を確立している。
同社の開発した従来よりも細いモヘア糸「フウガ1/44」

 

事例3-2-11 上海で高級感あふれる結婚式場を営み中国人から支持される企業

 石川県金沢市の株式会社かづ美(従業員80名、資本金3,300万円)は、石川県、富山県、福井県、上海で結婚式の総合的な演出・運営を行う企業である。
 同社は、当初結婚式用のイタリアの高級ブランドの貸衣装店として起業された。2000年頃から、石川県で総合的なサービスを提供する結婚式場が相次いで開業し、貸衣装の需要が減少したことから、業容を拡大するために2004年に自社でヨーロッパを思わせる高級感あふれる結婚式場を建設し、結婚式に関する総合的な演出・運営を行うようになり、食事やメイクに至るまで高級感や非日常感を強調して顧客の取り込みを行った。
 一方で、2004年の小松空港及び上海浦東空港間の定期便就航を機に、社員旅行で上海を訪れたところ、現地の人の多さを目の当たりにし、中国には事業機会があるのではないかと考えるようになった。市場調査を行った結果、上海の若者が現地の結婚式の内容に不満を感じており、中国の目覚ましい経済成長、また、一人っ子政策の影響から子供1人当たりの消費額が多いといった情報を得て中国での事業開始を決意した。2008年に、上海で結婚式場を開店し、日本と同様の「その日1日新郎新婦がスターになる。」という高級志向でサービスを開始したところ、中国の若者に受け入れられ、現地では割高ながら、毎週末予約が絶えない。同社は、日本で培った経験を基に他社にはまねできないようきめ細やかで総合的な日本式のサービスを提供して差別化を行うことで、今後も一層の業容拡大を図っている。

同社が上海で運営する結婚式場

 
事例3-2-12 熱処理加工の基盤技術を武器に海外展開に成功した企業

 大阪府大阪市の株式会社東研サーモテック(従業員610名、資本金8,800万円)は、自動車の部品を中心として、幅広い熱処理加工の基盤技術を有し、受託加工を行う企業である。
 同社は、かねてより「自社の熱処理加工技術を活かして国外でも事業を行いたい。」と考えていたが、1995年に主力取引先である自動車部品メーカーが生産拠点をタイに設けたことを契機にタイに現地法人を設立した。また、1996年には、マレーシアに進出し、それまで取引がなかった家電メーカーからの熱処理加工の新規取引の獲得に成功した。
 その後も、現地の日系企業に自社の高い技術力を売り込み、1997年のアジア通貨危機後の苦境も乗り越え、従来国内で取引のなかった日系企業と順次取引を開始していった。また、現地の地場企業からも依頼が増加傾向にある。
 同社の川嵜修社長は、「現地の地場企業も地場の熱処理加工企業の品質に満足しておらず、値段ではなく品質で勝負すれば事業機会は国外に数多くある。成功する秘訣はとにかく早く海外に進出することである。国内にとどまるだけでは、蓄積した技術を活かすことができず、宝の持ち腐れとなってしまう。」と言う。2011年には、中国にも進出し、今後もより一層の業況拡大を図っている。
タイの現地法人で熱処理加工を行う風景



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