第3部 経済成長を実現する中小企業 

3 中小企業の労働生産性を向上させるための課題と支援

 以上、中小企業が労働生産性の向上のための取組の重要性をどのように認識しているかと、それぞれの取組の実施状況及び実施した企業の効果について見てきた。
 それでは、中小企業の労働生産性を一層向上させるためには、どうすればよいのであろうか。
 ここからは、中小企業が労働生産性の向上に取り組む上での課題を明らかにし、中小企業が今後効果的に労働生産性を向上させるための取組及び支援の在り方について分析を行う。

●労働生産性の向上のための課題と対応
 第3-2-12図は、中小企業の労働生産性を向上させるための課題を10年前と現在で示したものである。これを見ると、現在の課題は、「景気低迷・円高・デフレ等による売上の減少」が84.5%で最も高く、続いて「消費者ニーズの多様化」が52.8%、「人口減少による国内市場の収縮」が48.8%となっている。10年前の認識と比較すると、「景気低迷・円高・デフレ等による売上の減少」、「人口減少による国内市場の収縮」、「更なる費用の削減の困難化」の割合が増加している。震災後は、こうした課題が更に重要になっていると考えられる。
 それでは、中小企業の費用構成は規模によってどのような違いがあるのであろうか。第3-2-13図は、業種別・従業者規模別に中小企業の売上高に占める費用と営業利益の割合を示したものである。いずれの業種でも、規模が小さいほど営業利益率が低い傾向にあり、小規模な企業ほど厳しい状況にあることが分かる。
 費用項目を見ると、宿泊業, 飲食サービス業を除くいずれの業種でも、販売原価の割合が高くなる。特に、卸売業、小売業では、商品仕入原価がいずれでも7〜8割を占めている。一方で、宿泊業,飲食サービス業では、人件費の割合が最も高くなっており、労働集約型の業種であることが分かる。
 このように、業種によって費用項目の構成比に違いはあるものの、いずれの業種においても、売上高の増減に応じて変動する販売原価と人件費が全体の大半を占めており、これまで十分費用削減に取り組んできた中小企業にとっては、更なる費用削減により労働生産性を向上させることには限界があると考えられる。
 
第3-2-12図 中小企業の労働生産性の向上のための課題
〜10年前と比較すると、「景気低迷・円高・デフレ等による売上の減少」、「人口減少による国内市場の収縮」、「更なる費用の削減の困難化」を課題とする企業の割合が高く、震災後は、こうした課題が更に重要になっていると考えられる〜


第3-2-12図 中小企業の労働生産性の向上のための課題
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第3-2-13図 中小企業の対売上高費用率と営業利益率(2009年度)
〜ほとんどの業種で販売原価が高い割合を占めており、販売費及び一般管理費では人件費の割合が高くなっている〜


第3-2-13図 中小企業の対売上高費用率と営業利益率(2009年度)
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 それでは、景気等の外部要因により売上が減少し、国内市場の収縮が進み、更なる費用削減が容易ではない中で、中小企業はどのように労働生産性の向上に取り組んでいくのであろうか。
 一般的に、労働生産性を向上させる方法としては、大きく二つの方向が考えられる。企業が製品やサービスの開発等を通じて新たな付加価値を創出することなどにより同じ水準の労働や資本等の生産要素の投入量が生み出す付加価値額を増大させる「付加価値の拡大」と、企業が業務の合理化や生産効率の高い設備への更新等により同じ水準の付加価値額を生み出すために必要な生産要素の投入量を減らす「効率性の向上」である。
 付加価値の拡大と効率性の向上について、中小企業の認識を見ると、10年前と比較して付加価値の拡大を重要と認識する企業が増加している(第3-2-14図)。

 また、第3-2-15図は、短期的視点と中長期的視点で見た場合に、付加価値の拡大と効率性の向上のどちらにより重点的に取り組むべきであるか尋ねた結果である。これを見ると、中長期的視点から付加価値の拡大に重点的に取り組むべきと回答する企業の割合が高くなっている。
 この結果から、中小企業は、現在の厳しい経営環境の中で、中長期的に労働生産性を向上させていくためには、震災後に一層高まったエネルギー供給制約に対応することを始め、効率性を向上させることも重要であるが、顧客数拡大、顧客単価上昇、人材確保・育成、技術革新といった付加価値の拡大に積極的に取り組んでいくことが重要であると考えていることが分かる。
 
第3-2-14図 労働生産性の向上のために重要な取組(10年前/現在)
〜10年前と比較すると、付加価値の拡大を重視する中小企業の割合が拡大している〜


第3-2-14図 労働生産性の向上のために重要な取組(10年前/現在)
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第3-2-15図 労働生産性の向上のために重要な取組(短期的/中長期的)
〜短期的な視点と比較して中長期的な視点においては、付加価値の拡大を重視する中小企業の割合が高い〜


第3-2-15図 労働生産性の向上のために重要な取組(短期的/中長期的)
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●労働生産性の向上のための支援
 ここまで、労働生産性を向上させるための課題とその対応について見てきたが、第2項の取組の実施状況でも取組ごとの実施割合に大きな違いがあったように、様々な制約により、中小企業が自力で多数ある取組を網羅的に行うことは困難である。したがって、中小企業のニーズに応える適切な支援が必要となる11

11 支援機関の具体的な支援の実施状況は、付注3-2-2を参照。

 第3-2-16図は、中小企業の支援ニーズと支援機関の認識を示したものである。これを見ると、中小企業のニーズと支援機関の認識はおおむね合致しており、顧客数拡大へのニーズが突出して高く、その他では、顧客単価上昇、人材確保・育成、技術革新のニーズが比較的高くなっている。また、両者を比較すると、中小企業では人材確保・育成のニーズがより高く、支援機関は技術革新のニーズがより高いと認識している。
 
第3-2-16図 中小企業の支援ニーズ
〜中小企業、支援機関ともに「顧客数拡大」、「顧客単価上昇」、「人材確保・育成」、「技術革新」を挙げる割合が高く、特に中小企業は「人材確保・育成」、支援機関は「技術革新」のニーズがより高いと認識している〜


第3-2-16図 中小企業の支援ニーズ
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 それでは、中小企業が労働生産性を向上させるための効果的な支援として、どのようなものが考えられるであろうか。
 商工会議所、商工会では、事業計画や営業力強化等をテーマにした経営者向けのものや、ビジネススキル・マナー等をテーマとした従業員教育のためのものといった幅広いセミナー・講演会を開催しており、中小企業が労働生産性の向上に取り組む契機となることが期待される。
 中央会では、中小企業単独では取り組むことが困難な経営基盤の強化や地域振興、社会要請への対応等の広いテーマで、中小企業組合等が取り組む事業を支援する中小企業組合等活路開拓事業を行っており、中小企業が連携して労働生産性の向上に取り組む際に活用できる。
 それでは、労働生産性の向上に活用できる施策にはどのようなものがあるだろうか。
 前掲第3-2-15図で示したように、中小企業は、中長期的に労働生産性を向上させるためには、付加価値の拡大に取り組むことが重要と認識している。付加価値の拡大に資するものとして、例えば、中小企業者による農商工連携、新連携、地域資源活用の取組に対する支援がある。これは、法に基づき「農商工等連携事業計画」、「異分野連携新事業分野開拓計画」、「地域産業資源活用事業計画」、を策定し、認定を受けた中小企業者が行う新商品・新サービスの開発やそれらの販路開拓の取組に対し、予算や融資等を活用した支援を行うものである。事業計画の策定から事業化・市場化の実現に向けては、中小機構が専門家を活用し、計画認定に向けたアドバイスや市場開拓等のフォローアップ支援を行っている。この他にも、「経営革新計画」に基づき新商品・新サービスの開発等を行う中小企業者に対する融資等の支援もあり、中小企業は、こうした制度を効果的に活用することにより自らの労働生産性を向上させていくことが期待される。
 ここまで、人口減少と少子高齢化の影響による今後の我が国の就業者数の減少を補い、更に経済成長を実現するためには、中小企業の労働生産性を向上させることが不可欠であること、企業の労働生産性の向上のための取組の実施状況と実施した企業の効果、労働生産性の向上に取り組む上での課題とそれを克服するための効果的な支援の重要性を示した。
 以上の結果を踏まえると、将来にわたって我が国経済が持続的に成長していくためには、中小企業は、震災後に一層高まったエネルギー供給制約に対応することを始め、効率性を向上させることも必要であるが、顧客数の拡大、顧客単価の上昇による市場拡大、人材確保・育成、技術革新によりその労働生産性を向上させていくことが必要である。こうした取組は、効果が実感されるまで時間が掛かり、厳しい経営環境の下、中小企業が自力で取り組むことが困難な場合もあるため、支援機関は中小企業の支援ニーズを的確に捉え、効果的に支援を行っていく必要がある。
 以上では、主として、どのように国内の企業の労働生産性を向上させていくかについて見てきたが、第2節では、国内需要が収縮していく中で、中小企業が自らの市場を拡大するために、どのように国外からの事業機会を取り込んで成長していくのかについて、論じていくこととする。



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