第3部 経済成長を実現する中小企業 

2 中小企業の労働生産性の向上のための取組

●労働生産性の向上への取組についての認識
  ここまで、我が国経済が持続的に成長するためには、中小企業の労働生産性の向上が必要であることを示してきた。
  それでは、中小企業による様々な取組は、その労働生産性にどのような効果を及ぼすのであろうか。
  ここからは、「生産性向上に関する調査1」の結果を中心に見ていく。

1 中小企業庁委託により(株)野村総合研究所が実施。2010年11月に中小企業20,000社、支援機関2,973機関を対象に実施したアンケート調査。回収率はそれぞれ、24.3%、52.2%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。

 第3-2-3図は、中小企業の様々な取組が及ぼす労働生産性の向上への影響の重要度について中小企業の認識を示したものである。これを見ると、「顧客数拡大」、「顧客単価上昇」、「人材確保・育成」を「非常に重要である」又は「重要である」と回答する割合が約8割、「技術革新」、「業務工程改革」が約7割を占める一方、「自動化」、「省エネ」、「IT化」では6割未満にとどまっている。
 
第3-2-3図 労働生産性の向上のための取組の重要度
〜顧客数拡大、顧客単価上昇、人材確保・育成を重要と回答する割合が約8割を占める〜


第3-2-3図 労働生産性の向上のための取組の重要度
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 以下では、労働生産性の向上のための取組別に、実施状況と実施した企業の効果を見ていく。

●〔1〕顧客数拡大、〔2〕顧客単価上昇
 第3-2-4図は、顧客数拡大のための取組の実施状況と実施した企業の効果を示したものである。実施状況を見ると、「商品・サービスの安定的な品質の維持」の実施割合が約7割で最も高く、続いて「新商品・サービスの開発・提供」が約6割となっている。一方、「海外への輸出」に取り組む企業は約1割、「海外への直接投資」に取り組む企業は1割にも満たない。
 実施した企業の効果を見ると、1〜2年後の割合が最も高い「海外への輸出」で約6割、最も低い「海外への直接投資」で5割弱となっており、効果の実感に5年以上掛かる割合がいずれの取組でも約2割である。また、まだ効果を実感していない割合がどの取組も2〜3割となっており、効果が実感されるまでに時間が掛かる傾向が見て取れる。
 
第3-2-4図 〔1〕顧客数拡大の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「商品・サービスの安定的な品質の維持」の実施割合が約7割と高く、「海外への直接投資」に取り組む企業は1割にも満たない。実施した企業の効果は、いずれの取組でも、5年以上が約2割である〜


第3-2-4図 〔1〕顧客数拡大の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-1 インターネット販売を活用して高品質な顧客サービスを提供し続けることで、顧客数を拡大している企業

 鳥取県境港市の株式会社澤井珈琲(従業員83名、資本金1,000万円)は、珈琲の卸売や喫茶店の経営を行っている企業である。同社は、10年前より珈琲のインターネット販売を開始し、ここ5年間で売上を2倍近くに伸ばしてインターネットの販売が全体の約6割を占めるまでに成長した。
 多数あるインターネット店舗の中で、同社が成功を収めた要因には、インターネットでのサービスの拡充がある。取締役総店長の澤井由美子氏は「インターネットも店舗もお客様を大切にする姿勢は変わらない。インターネットの方がお客様の顔が見えない分余計に丁寧なサービスを心掛けている。」と語る。同社では、当初はお客様一人一人に手書きのはがきを添付し、現在でも商品の発送後に不満点がなかったかを尋ねるメールを送信している。
 同社は、5年前に境港市に工場を建設し、1日1,000件の出荷に耐え得る体制を作ったが、それでも出荷の限界を超える注文が舞い込む日もある。澤井取締役総店長は「出荷体制が整えば、通信販売やテレビショッピングの分野も開拓していきたい。」と語る。
同社のホームページ


 顧客単価上昇について見ると、「顧客への提案力の強化」、「差別性の高い商品・サービスの開発・提供」の実施割合が5割を超えるが、「地域や年代等の特定の市場への対象の絞り込み」は2割弱にとどまっている。
 効果を実感した時期では、いずれの取組も1〜2年後が5割前後、5年以上が2割前後、まだ効果の実感がないが3割前後となっており、顧客数拡大と同様に効果の実感まで時間が掛かる傾向にある(第3-2-5図)。
 以上の結果から、顧客数拡大、顧客単価上昇といった市場拡大の取組は、実施割合にかかわらず、効果の実感に時間を要し、長期的に取り組むことが必要であると考えられる。
 
第3-2-5図 〔2〕顧客単価上昇の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「顧客への提案力の強化」、「差別性の高い商品・サービスの開発・提供」の実施割合が5割を超える。実施した企業の効果は、総じて1〜2年後が5割前後、5年以上が2割前後を占める〜


第3-2-5図〔2〕顧客単価上昇の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-2 店舗や商品にデザイン性を取り入れることで、製品のブランド力を高めて、顧客単価上昇に成功している企業

 滋賀県長浜市の有限会社菓匠禄兵衛(従業員31名、資本金1,000万円)は、1926年に「居川製菓舗」として創業した老舗和菓子店である。
 同社は、4代目の居川信彦社長の「自社独自のブランドを確立して、単価が高くても売れるものを作りたい。」との意向で、店舗のデザインを著名なインテリアデザイナーに依頼し、斬新でおしゃれな店舗づくりを実践している。また、これを契機に、商品開発でもそのインテリアデザイナーと協力してデザイン性に富んだ和菓子作りを行っている。その成果の一つであるデザイナーズ最中「くう」は大ヒットとなり、百貨店等でも販売し、好評を博している。
 こうした取組が話題となって、同社の知名度が上がり、各地の百貨店からの出店依頼が増加する中で、居川社長は、「百貨店等のバイヤーと会う際には、突然新商品のアイディアを聞かれることがあり、常に訴求力のある商品を提案できるよう日頃からアンテナを張って準備をしている。」と語り、商品開発のための情報収集に余念がない。
 同社の商品のデザイン性と新規性が顧客に評価され、比較的高めの価格であっても、居川社長の就任以来、売上が毎年1.5倍と急速に成長している。同社は、2010年3月に東京駅構内に新店舗を出店しており、更なる成長を見込んでいる。
デザイナーズ最中「くう」

●〔3〕人材確保・育成、〔4〕技術革新
 第3-2-6図は、人材確保・育成の実施状況及び実施した企業の効果を示している。「事業目標に応じた人員配置の適正化・見直し」、「能力要件を満たすために必要な人材育成」には、5割以上の企業が取り組んでいるが、「ワーク・ライフ・バランスの推進」に取り組む企業は、約2割にとどまっている。
 実施した企業の効果については、いずれの取組も1〜2年後が5〜6割を占めているが、効果が出るまでに5年以上掛かる割合が「能力要件を満たすために必要な人材育成」では、約25%を占めており、効果の実感に時間を要する取組であると考えられる。また、まだ効果を実感していない企業の割合がどの取組でも2割を超えており、特に「ワーク・ライフ・バランスの推進」では4割弱を占め、効果を実感しにくい取組であると考えられる。
 
第3-2-6図 〔3〕人材確保・育成の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「事業目標に応じた人員配置の適正化・見直し」、「能力要件を満たすために必要な人材育成」の実施割合が5割を超える。実施した企業の効果は、総じて1〜2年後が5〜6割、「能力要件を満たすために必要な人材育成」では、5年以上が約25%を占める〜


第3-2-6図 〔3〕人材確保・育成の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-3 従業員からの業務改善の提案を積極的に受け入れ、従業員満足を高めて、人材育成に取り組む企業

 福岡県福岡市の株式会社一蘭(従業員110名、資本金4,000万円)は、全国にとんこつラーメン店をチェーン展開する企業である。
 同社では、「企業は人、従業員は企業のブランド」との理念の下、人材育成や従業員満足を非常に重視している。
 「より質の高い商品・サービスを提供するためには、まずはサービスする従業員の満足度・モチベーションを高めることが大事である。」と同社は考える。「会社に必要とされている。」と感じられれば、その思いは必ずお客様へのサービス向上につながるからだ。
 そのため、まずは日頃から相手を「褒める」「認める」「感謝する」ことを全社的に徹底している。さらに、現場の声を活かしてボトムアップの業務改善を進めるために、経営陣への「目安箱」の設置、職員同士で意見交換できる社内サイトの構築等を行っている。
 また、店舗スタッフの満足度向上にも同様に力を入れており、現場の従業員の声が経営陣に届く仕組みを構築している。月に一度の責任者会議では、積極的な業務改善の提案が上がり、その声を実際に形にした「ライセンス制」を店舗にて導入し、調理・顧客対応等6種類のライセンスを設けている。同ライセンスは、半年ごとに行うテストに合格しなければ維持できないようになっており、継続的な技術の評価によりサービスの品質確保を行うと同時に、スタッフに手当を支給することで給与にも反映させている。
 同社の中村和也専務は、「店舗の展開に伴う人材不足を見越して、人材確保・育成のための投資は今から惜しまず行うべきである。」と考えている。
社員表彰の様子

 技術革新については、「既存製品の改良・改善」に取り組む企業は5割を超えているものの、「研究開発」に取り組む企業は3割に満たない。
 実施した企業の効果を見ると、「既存製品の改良・改善」、「生産ライン・製造方法の改善」では、1〜2年後の割合が約6割と高く、相対的に効果が出るのが早いと考えられる。一方、「研究開発」、「技術開発」では、5年以上掛かる割合が3割を超えており、効果の実感に時間が掛かることが分かる。また、まだ効果の実感がないと回答した企業の割合を見ても、「研究開発」が最も高く3割を超えており、効果を得るのが容易でないと考えられる(第3-2-7図)。
 以上をまとめると、多くの中小企業が重要であると認識している人材確保・育成及び技術革新は、総じて効果の実感までに時間を要する傾向があるため、長期的に取り組んでいく必要がある。
 
第3-2-7図 〔4〕技術革新の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「既存製品の改良・改善」の実施割合は5割を超えるが、「研究開発」は3割に満たない。効果の実感時期は、「技術開発」、「研究開発」で、5年以上の割合が3割を超える〜


第3-2-7図 〔4〕技術革新の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-4 技術革新により、紙やインクを不要とする費用効率が高いプリンターを開発・製造している企業

 宮崎県宮崎市の三和ニューテック株式会社(従業員130名、資本金6,500万円)は、プリンターやカードリーダーライター等を開発・製造する企業である。
 同社は、自社で長い間手掛けてきたカードリーダーライター事業で培った熱を利用して印刷と消去を行う技術を応用し、特殊なシートに文字の書き込みと消去を繰り返し行う「紙やインクが不要なリライタブルプリンター」の開発・製造に成功した。
 リライタブルプリンターは、環境に優しい製品として注目されており、株式会社鹿児島放送、宮崎県庁で導入されている。また、海外のメディアが動画共有サイトに投稿したことがきっかけとなって、海外からの問い合わせが飛躍的に増えているという。
 現在は、RFIDタグ2への書き込みが可能であるリライタブルプリンターも開発しており、大手メーカーにも納入している。今後は、新しい用途向けのプリンターを企画していく予定である。

2 RFIDタグとは、物体を識別する際に利用される無線ICチップである。

リライタブルプリンター
 
事例3-2-5 技術開発資金を積極的に投入し、常に新しい技術を開発している企業

 福岡県北九州市の株式会社フジコー(従業員630名、資本金1億円)は、溶接、溶射3等の技術を用いて設備メンテナンスや複合製品等を製造・販売する企業である。同社は、売上約100億円のうち毎年3〜4億円を技術開発に投入しており、基盤開発を中心に32名の従業員が同社の技術開発センターで、分野ごとの研究開発を行っている。

3 溶射とは、加熱することで溶融又はそれに近い状態にした粒子を、物体表面に吹き付けて皮膜を形成する表面処理法の一種である。

 同社では、2001年から溶射技術を開発している。独自の研究開発によって従来の倍以上の速度で流し込む装置を開発し、更に細かいナノレベルの粉末も使えるようにした。音速の3倍の速度で吹きつけるため、粉末がびっしりくっついて空洞がなく密着強度の高いものができる。
 最近では、九州工業大学と産学連携で開発した光触媒技術に、同社が持つ高い溶射技術を利用することで、脱臭効果の高い光触媒タイルとして製品化した。これまでの光触媒は、太陽光ほどの強い光でなければ効果が薄かったが、同社の光触媒タイルは、蛍光灯ほどの光の強さでも効果がある。同タイルを導入した駅のトイレで、異臭が収まったとメディアにも取り上げられるなど、利用者の評判を得ており、比較的高価格であるが、導入先は増加している。
 同社の永吉英昭技術開発センター長は、「我々中小製造業は、日々新しいものを開発しなければ生き残れない。今後は、個人の住宅等にも光触媒タイルを導入していきたい。」と意欲的である。
同社の防臭・脱臭効果のある光触媒タイル



●〔5〕IT化、〔6〕自動化、〔7〕省エネ
 第3-2-8図は、IT化の実施状況及び実施した企業の効果を示している。これを見ると、実施状況では、「パソコンの導入」が9割弱、「ネットワークへの接続」が7割強を占めている。一方で、「電子商取引の活用」の実施割合は2割強であり、「クラウドコンピューティング4の活用」は1割にも満たない。

4 クラウドコンピューティングとは、ネットワークを通じて情報処理サービスを必要に応じて提供又は利用する形の情報処理の仕組みのこと。具体的には、インターネット等のネットワークを介して、顧客に必要なアプリケーションソフトの機能をサービスとして提供し、月額使用料で収入を得る販売形態であるSaaS等がある。

 実施した企業の効果については、全ての取組で1〜2年後に効果を実感した企業の割合が7割を超えており、5年以上掛かる割合が1割前後、まだ効果を実感していない割合が1〜2割と、総じて即効性の高い取組であることが分かる。
 したがって、多くの中小企業がまだ取り組んでいない「クラウドコンピューティングの活用」や「電子商取引の活用」を行うことにより、短期間で労働生産性の向上の効果を実感できる可能性があるため、活用を促進する環境整備5が期待される。

5 経済産業省では、「産業構造ビジョン2010」(2010年6月産業構造審議会競争力部会)や「情報経済革新戦略」(2010年5月産業構造審議会情報経済分科会)等に基づき、中小企業がクラウドコンピューティングのサービス提供企業や支援機関等との協業関係を構築できるよう支援する予定である。さらに、企業内に点在していた情報の集約・一元管理を進め、経営の効率化のみならず、経営管理やマーケティングの強化を図ることで、増収増益、資金調達の円滑化を可能とするようなクラウドコンピューティングの利活用が期待される。

 
第3-2-8図 〔5〕IT化の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜実施割合は、「パソコンの導入」が9割弱、「ネットワークへの接続」が7割強と高い割合を占めるが、「クラウドコンピューティングの活用」は1割にも満たない。効果の実感時期は、いずれの取組でも1〜2年後が7割を超えている〜


第3-2-8図 〔5〕IT化の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-6 ITを活用して、即日対応の家事代行サービスを提供している企業

 東京都中央区の株式会社ベアーズ(従業員82名、資本金8,900万円)は、1999年に起業された家事代行サービスを提供する企業である。同社は、顧客ニーズに応じた質の高いサービスを提供するためには、家事代行スタッフである「ベアーズレディ」の状況を正確に把握する必要があると考え、システム開発部隊を内製化し、ベアーズレディの技術や住所、希望する勤務時間等を常時把握できるデータベースを構築した。
 この結果、従来は、サービスを提供できる人材を探すために見積もりからサービス提供まで2週間を要していたが、即日対応が可能となった。
 同社の「ベアーズ・エクスプレス」は、同日14時までに問い合わせをすれば、その日のうちにサービスの提供を受けられるという業界初のサービスである。
 このように情報技術を活用することによって、業務の効率化のみならず、顧客数の拡大にもつながり、5年前に年間約2億円であった同社の売上は、現在年間9億円を超えるまでに増加している。
 同社の髙橋ゆき専務は、「家事代行サービスはまだまだ世間に認知されていない。今後も日本の生活環境の変化に伴い、進化し続ける生活者の価値観とニーズを的確にとらまえ成長していきたい。そして、同じ志の企業とも前向きな連携を図り、業界を盛り上げ、“家事代行サービス産業”を築きたい。」と語る。
「ベアーズ・エクスプレス」のコールセンター


 自動化の取組実施状況を見ると、「間接部門におけるOA機器の導入」の割合が6割強で、「商品・サービスの製造・提供過程における機械のシステム制御の導入」は3割に満たない。
 実施した企業の効果については、いずれの取組も1〜2年後に効果を実感した企業の割合が7割を超えており、5年以上及びまだ効果の実感がない企業の割合は1〜2割と効果を得やすく即効性の高い取組であるといえる(第3-2-9図)。
 
第3-2-9図 〔6〕自動化の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「間接部門におけるOA機器の導入」の実施割合が6割強で最も高く、「商品・サービスの製造・提供過程における機械のシステム制御の導入」が最も低く3割に満たない。効果の実感時期は、いずれの取組でも1〜2年後が7割を超え、高い割合を占める〜


第3-2-9図 〔6〕自動化の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-7 自動化を行い、入社3か月の社員でも高品質の製品を作れる仕組みを構築している企業

 福岡県遠賀郡の株式会社ワークス(従業員44名、資本金1,500万円)は、レンズやハイブリッド自動車、電気自動車、精密モーター金型の部品の加工を行う企業である。同社の強みは、高い加工精度の金型を製造できることにあり、加工精度が直角・平行・真円の全てで0.3マイクロメートル以下のレンズを一度に16個作ることのできる金型も製造している。
 こうした精密金型の製造は、経験を積まないと困難であるが、同社の平均年齢は約30歳と非常に若く、非正社員も多数働いているにもかかわらず、高品質の製品を安定的に製造できる。
 その理由は、同社では、長年の経験で培った精密加工、職人の技である「技能」を数値制御装置といわれる、約50台からのNC6工作機械に「技術」として、標準化した作業手順に置き換えたことで、経験の浅い人でも高度な加工が実現できる仕組みを構築したところにある。

6 Numerical Controlの略で、機械の動作に数値制御を掛けること。

 同社では、NC工作機械の活用方法をマニュアル化し、社員が気付いた改善点を随時反映するなどの工夫により、経験を積んだ職人でなく、入社3か月の社員であっても高品質の製品を作ることができる。また、NC工作機械の導入は、納期短縮や費用低減に貢献している。
 同社の三重野計滋社長は、「効果的に自動化を行い、ノウハウを共有できる仕組みを構築すれば、やる気のある若者はすぐに成長して設備を使いこなせるようになり、効率的に高品質の製品が製造できる。」と語る。
NC 工作機械を使いこなす若手社員

 次に、省エネの取組の実施状況と実施した企業の効果を見ていく。実施状況では、「運用による省エネ」に取り組む企業は5割以上であるが、「投資による省エネ」に取り組む企業は2割強にとどまっている7

7 中小企業白書(2010年版)p.117〜119では、投資による省エネへの取組が進んでいない要因を分析し、資金面での制約を最大の理由としている。

 実施した企業の効果を見ると、1〜2年後に効果を実感する企業の割合が7割前後であり、5年以上掛かる割合は1割にも満たない(第3-2-10図)。この結果から、省エネもIT化や自動化と同様に即効性の高い取組であることが分かる。
 以上の結果から、IT化、自動化、省エネの取組は、総じて効果が実感されるまでの時間が短く、即効性があり、効果の実感も得られやすいということが分かる。
 
第3-2-10図 〔7〕省エネの取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「運用による省エネ」の実施割合は5割を超えるが、「投資による省エネ」は2割強にとどまっている。効果の実感時期は、どちらの取組でも1〜2年後が7割前後と高い割合を占める〜


第3-2-10図 〔7〕省エネの取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-8 木質ボイラーを新設して、省エネに取り組み、費用削減を実現した企業

 栃木県那須塩原市の二宮木材株式会社(従業員40名、資本金1,000万円)は、製材及び住宅建築の請負を行っている企業である。
 同社では、製材の際に水分を含んだ木材を乾かすためのボイラーが必要であり、重油ボイラーを使っていたため、月約300万円という高額の燃料費が必要であった。そこで、燃料費削減のために、間伐材や製材後の木くず、チップ等を燃料に使う木質ボイラーを導入した。
 木質ボイラーからも二酸化炭素は排出されるが、樹木として吸収してきた二酸化炭素と相殺されるため、二酸化炭素削減効果が認められる。同社は、東京電力株式会社と協力して国内クレジット制度の認証を申請済みであり、年間約2,500トンの二酸化炭素削減効果を見込んでいる。木質ボイラーの設備投資費用は、約1億円掛かったが、環境省からの約5,000万円の補助金を活用したこと及び燃料費削減効果を鑑みると、1年程度で初期投資を回収できるという。
 同社の二宮英壽社長は、「重油を使っていた頃には、毎月300万円掛かっていた燃料代がほとんど不要となった。」と効果の大きさを語る。
同社の木質ボイラー


 また、今回の震災によって起こった電力供給制約により、日頃からの省エネ、節電への取組の重要性が再認識された。夏期の電力需要の増加に伴い電力需給が逼迫するおそれがあるため、中小企業にも一層の節電、省エネへの取組が求められ、様々な節電対策が講じられている8

8 コラム1-2-5参照。

●〔8〕業務工程改革
 第3-2-11図は、業務工程改革の実施状況と実施した企業の効果を示したものである。これによると、「各工程における適材適所の人員配置」の実施割合が5割を超えているが、「外部委託の活用」と「共通業務の集約化」は4割に満たない。
 実施した企業の効果を見ると、いずれの取組でも1〜2年後に効果を実感した企業が7割前後であり、効果の実感に5年以上掛かる割合は1割前後である。
 この結果から、業務工程改革は、即効性の高い取組であるといえ、実施割合の低い「外部委託の活用」や「共通業務の集約化」への積極的な取組が期待される。
 
第3-2-11図 〔8〕業務工程改革の取組の実施状況と実施した企業の効果
〜「各工程における適材適所の人員配置」の実施割合は5割を超えるが、「外部委託の活用」、「共通業務の集約化」は4割に満たない。効果の実感時期は、総じて1〜2年後が7割前後と高い割合を占める〜


第3-2-11図 〔8〕業務工程改革の取組の実施状況と実施した企業の効果
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事例3-2-9 製造業のノウハウをサービス業に適用することで業務工程改革を行う企業

 鳥取県鳥取市のブリリアントアソシエイツ株式会社(従業員6名、資本金300万円)は、2004年に設立された飲食店と高級ホテル内併設のビューティーサロンを経営している企業である。
 同社は、2006年4月に鳥取港近くの「かろいち市場」にレストランを出店し、その後の売上が5年間で2倍に拡大している。この売上の伸びの要因は、業務工程の効率化にある。
 福嶋登美子社長は、前職で経験した動線やリードタイムの考え方を活用して、ホール担当者が厨房に入る距離を短縮するための動線の設計や料理の配膳が素早く行えるようなデシャップ9の配置等の厨房のレイアウトを変更した。さらに、社員の意見を取り入れ、試行錯誤でより効率性の高い厨房へと改善していった。

9 デシャップとは、飲食店の厨房とパントリーの窓口に当たり、厨房内で調理された全ての料理が上がってくる場所である。

 その結果、1日で130席を10回転できる店舗を作り上げ、売上を前年比で20%増という目標をほとんどの月に達成できるようになった。福嶋社長は、「今後、「かろいち市場」には、農産物等を販売する農業協同組合ができる。お客様の流れも変わると思うので、また入口の増設や席の配置等を柔軟に変更していきたい。」と更なる効率性の向上を目指している。
移動距離を短縮し、効率的に作業できるようレイアウトされた厨房


 ここまで、労働生産性の向上への取組の重要性の認識と、それぞれの取組の実施状況及び実施した企業の効果について見てきた10が、多くの中小企業が「IT化」、「自動化」、「省エネ」、「業務工程改革」と比べてより重要と認識している取組である「顧客数拡大」、「顧客単価上昇」、「人材確保・育成」、「技術革新」は、総じて効果が実感されるまでに時間が掛かる傾向にあり、長期的に取り組むことが必要であるといえる。

10 製造業・非製造業別の取組の実施状況及び実施した企業の効果については、付注3-2-1を参照。

 一方、「IT化」、「自動化」、「省エネ」、「業務工程改革」は、「顧客数拡大」、「顧客単価上昇」、「人材確保・育成」、「技術革新」と比べてより多くの中小企業が重要であると回答しているわけではないが、総じて効果が実感されるまでの時間が短く、即効性が高いと考えられる。
 以上をまとめると、中小企業は、自らの労働生産性を向上させるために、即効性があり確実に効果が出やすい取組は比較的容易に行うことができるが、効果が実感できるまで時間が掛かり、確実に効果が得られるとは限らない取組を行うことは容易ではないこともあるため、より重要であると認識していると考えられる。



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