第3部 経済成長を実現する中小企業 

2 転業の意義

 以上では、転業の定義を明らかにし、日本標準産業分類の大分類間、製造業及び卸売・小売業の中分類間の業種転換について概観した。第1節では、起業が経済の新陳代謝やイノベーションを促進し、雇用や社会の多様性を創出することを述べてきたが、転業にはどのような意義があるのだろうか。以下、転業が産業構造の転換や企業の成長に与える影響について分析を行う。

●転業による新陳代謝
 開廃業と比較して、大分類間の業種転換による事業所数の変動は小さく、業種転換による経済の新陳代謝の効果が起業と比べて限定的であることは、前掲第3-1-46図が示すとおりであるが、果たして業種転換が新陳代謝や産業構造の転換に及ぼす影響は小さいのであろうか。ある企業が転業する際、既存の人材や設備、技術・ノウハウ等を活用すべく、既存事業と関連のある分野に進出することが一般的である。そこで、ここでは同じ大分類内での中分類間の事業所数の変動に着目し、より類似の業種への移動による新陳代謝の効果について分析を行う。
 第3-1-51図〔1〕及び第3-1-51図〔2〕は、それぞれ製造業、卸売・小売業の事業所の開廃業、転出入による事業所数の変動を示したものである。これによると、卸売・小売業内の転出入は、大分類間の業種転換同様、中分類間の移動でも事業所の変動に大きく影響を与えていないが、製造業内の転出入は、事業所変動に大きく影響を与えていることが分かる。前掲第3-1-3図によると、製造業の開廃業率が特に低いことが分かるが、製造業内では、活発に転出入が起こり、新陳代謝が起きていることがうかがわれる。
 
第3-1-51図〔1〕 製造業内の業種別事業所変動(2006〜2007年、事業所単位)
〜製造業内では、転出入による事業所変動が比較的大きい〜


第3-1-51図〔1〕 製造業内の業種別事業所変動(2006〜2007年、事業所単位)

 
第3-1-51図〔2〕 卸売・小売業内の業種別事業所変動(2002〜2007年、年平均、事業所単位)
〜卸売・小売業内の転出入は、大分類間の業種転換同様、中分類間の移動でも事業所の変動に大きく影響を与えていない〜


第3-1-51図〔2〕 卸売・小売業内の業種別事業所変動(2002〜2007年、年平均、事業所単位)


 第3-1-52図は、製造業内の新陳代謝を更に詳細に分析すべく、1988年以降に起業された事業所及び1987年以前に起業された事業所のうち、1988年以降に産業中分類間、同じ中分類内の産業小分類間で業種転換した事業所、業種転換を行っていない事業所の割合を示したものである。これによると、製造業では、2007年に、1988年以降に業種転換した事業所が約2割を占めており、転業による新陳代謝も、産業構造の転換に大きな影響を与えていることがうかがわれる。
 
第3-1-52図 業種転換した事業所の割合(製造業)
〜製造業では、2007年に、1988年以降に業種転換した事業所が中分類で約1割、小分類で約2割を占める〜


第3-1-52図 業種転換した事業所の割合(製造業)


●業種転換による成長
 以上では、特に製造業内では、転出入による事業所変動が活発である旨を指摘したが、果たして業種転換は、事業所の付加価値や雇用の増加、労働生産性の向上に寄与しているのであろうか。以下では、製造業事業所の業種転換後の成長について詳細に分析を行う。
 第3-1-53図は、1997〜2002年の期間に、製造業内中分類間での業種転換を行った大企業及び中小企業の事業所の、2002〜2007年における出荷額、付加価値額、従業者数及び労働生産性の変化を示したものである。これによると、大企業、中小企業とも業種転換を経験した事業所の方が、業種転換をしていない事業所よりも、出荷額、付加価値額、従業者数及び労働生産性の伸びが大きいことが分かる。また、1997〜2002年の期間における各指標に注目すると、業種転換を経験した事業所の多くの指標は、業種転換を経験しなかった事業所よりも低いものが多い。これらの事実は、成長性の低い事業所が、業種転換によって、生産能力、雇用創出能力及び労働生産性を高めていることを示唆しており、業種転換が製造業内の新陳代謝を活性化させていることが考えられる。
 
第3-1-53図 業種転換による成長
〜業種転換を経験した事業所の方が、業種転換をしていない事業所よりも出荷額、付加価値額、従業者数及び労働生産性の伸びが大きい〜


第3-1-53図 業種転換による成長

 
事例3-1-12 業種転換によって自社製品を開発することで下請企業から脱却し成長を続けている企業

 東京都大田区の株式会社大橋製作所(従業員88名、資本金9,600万円)は、ACF 接合27によるマイクロエレクトロニクス実装装置の開発・製造・販売を主力事業とする企業である。

27 異方性導電フィルムを用いた導電接着のこと。

 当初は、精密板金加工では高い技術力を有する企業であったが、第2次オイル・ショックにより変化した経営環境に主体的に対応するため、自社製品の開発に進出した。1980年に初の自社製品となる特殊金型を開発し、その後も多様な製品開発を行ったことにより、市場に耐えられる製品づくりと事業化の課題が明確となった。
 1990年代に入って、熱圧着実装分野の将来性に注目して、同分野に経営資源を集中し、市場調査によって有力な取引先の開拓に成功したことから業績が向上した。業界の常識を覆す卓上型COG 実装機28が1999年に日本経済新聞の日経優秀製品・サービス賞を受賞、2006年には世界初のフルオートFOB ライン29の開発に成功し、ACF 接合実装機のフルラインメーカーに発展するなど、事業の多角化による業種転換と新事業の創造に成功している。

28 液晶パネルのガラス基板上にIC チップ等を搭載、圧着する装置のこと。
29 フィルム等に小型液晶パネル等の部品を搭載、圧着する装置で、携帯電話等の組立てに用いられる。

 同社の大橋正義社長は、「企業として持続的に発展するための原動力は、〔1〕経営理念の具体化を図り、経営方針・計画を作成し実践すること、〔2〕コア技術の開発や主要製品の開発を進めるための人材を確保し養成すること、〔3〕多様な人材や企業・機関と連携して、自社ブランド製品を開発すること、〔4〕国際基準、環境問題、企業の社会的責任等に対応すること。」と語る。特に、「経営指針を絶えず更新することにより、社会の変化に応じた新たな課題が明確になり、その後の事業展開の方向を定めることができる。」という。1980年に自社製品開発の強化を定めた経営計画を初めて策定しており、2011年度から第11次中期経営計画に着手する。
同社が世界で初めて開発したフルオートFOB ライン


●転業による企業の成長
 以上、特に製造業内において業種転換が活発に行われることで新陳代謝が起こり、高い成長を遂げていることを示してきたが、製造業のみならず、業種転換が我が国の産業全体にどのような影響を与えているのか、また、転業の形態を拡大して、業種転換のみならず、新分野進出や事業転換が企業の成長にどのような影響を与えているのかについて、分析する必要がある。既存の統計では、業種転換以外の新分野進出や事業転換の効果をうかがい知ることは難しいため、中小企業庁が(株)帝国データバンクに委託して2010年12月に実施した「転業に関する実態調査30」(以下「転業実態調査」という)を用いて分析を進めていく。

30 中小企業庁の委託により(株)帝国データバンクが実施。2010年12月に企業10,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率26.8%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。

 まずは、転業前後の売上高、経常利益及び従業員数の推移について見ていく。第3-1-54図は、転業前後の売上高、経常利益及び従業員数の増減について示したものである。これによると、転業を経て、過半の企業で売上高、経常利益及び従業員数を増大させている一方で、3〜4割近くの企業では、業績や雇用を悪化させていることが分かる。
 転業類型別に転業後の成長について分析すべく、新分野進出、事業転換、業種転換ごとに売上高、経常利益及び従業員数の増減を見てみると、新分野進出、事業転換、業種転換と転業が進むほど、売上高や従業員数については、減少する割合が高いが、経常利益については、増加又は維持する傾向にある。これは、既存事業を続けつつ、新たな事業を展開する新分野進出と比較して、事業、業種を変更する事業転換及び業種転換は、企業に大きな変革を迫ることとなり、既存事業よりも売上高や従業員数を減少させる割合が高いが、転業を経営刷新の機会とすることによって、企業の収益性を改善させていることが考えられる。つまり、転業には、事業を拡大し、売上高や従業員数等を増加させる意義のみならず、事業規模を縮小することによって、収益性を改善させるという意義が存在することを示唆している。
 
第3-1-54図 転業類型別の転業後の売上高、経常利益、従業員数
〜転業した企業の半数以上が、売上高、経常利益及び従業員数を伸ばす一方、減少する企業も存在、また、転業が進むほど、売上高や従業員数については、減少する割合が高いが、経常利益については、増加又は維持させる割合が高くなる〜


第3-1-54図 転業類型別の転業後の売上高、経常利益、従業員数
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 以上、特に製造業内で産業中分類間の業種転換が盛んであり、新陳代謝が活発に起きていること、企業は転業によって事業の拡大や事業の収益性改善に成功していることを見てきた。第1節で述べたように、企業の参入、撤退が国際的に見て活発ではない我が国にとって、既存企業が果敢に転業することにより、市場の新陳代謝が活性化され、企業の成長性を高めることは非常に重要な意義を持つ。次項では、転業実態調査の結果を分析することによって、転業の促進に向けた課題と取組について詳細に論ずる。



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